第六話 裏切り者
「お前!!裏切り者が、なぜお前のような者がのうのうと生きている!!」
歩みよるユウに黎明と呼ばれた女は吠えた。
「確かに村を出た僕は、君たちにとっては裏切り者だろうな。」
「そうだ!!お前が!!お前がいなくなったせいで、私達の村は、」
空いている左手でユウにクナイを投げつけた。
「帝国に呑まれたんだ!!」
しかし、全てユウに触れる前で動きを停止させた。
「だが、僕自身、そう思ってはいない。」
「なんだと!?」
「僕は出会ってしまったんだよ、神という存在に。
力を手に入れるには村を捨てるしかなかった。」
「なぜだ!?なぜそこまで力を必要とする!?」
「それは・・・」
「村を守るためだ。」
ユウとは反対方向から答えが返ってくる。その方向に3人の視線が向く。
そこに立っていたのはタバコを口に加えた鶯劍だった。
「すまないな。別動隊を叩くのに時間がかかってしまった。」
3人に歩みよりながらデュアル・コアの方へ目をやる。
「あのくらいアイツだけで十分だな。麗那!!」
(あ、先生。なんですか?)
思念伝達で鶯劍は麗那と会話を始めた。
「あの犬っころは龍牙に任せて、お前は早く、こっちに来てケイミーの治癒を頼む。」
(・・・分かりました。)
通信を切るとすぐに麗那は飛んできて、ケイミーの傍らに舞い降りた。
「少し痛いとは思いますが、我慢して下さい。」
ケイミーを中心に魔法陣を書き、麗那は呪文を唱え始めた。
すると、魔法陣は黄緑色に輝き始め、ケイミーと麗那を包みこみ一瞬で繭のようになった。
「うっ。あっ。」
沈黙した辺りにケイミーのうめき声が響く。
その沈黙に耐えられなくなったのか黎明が口を開いた。
「お前、あれはどういう意味だ!?」
「あれってどれだ?」
「そうじゃない!!村を守るためというのは本当か!?」
「ああ、本当だ。」
事も無げに即答する鶯劍。
その言葉の真偽を確かめるべく黎明はユウに視線を向ける。
それにため息をつき、ユウはゆっくりと口を開く。
「えぇ、もうあの村はすぐに帝国に吸収される。
そう思って僕はそれを阻むために力を求めた。というのは本当ですよ。
3年かけて世界中を探して、ようやくあの御方に会った。だけど、」
自分の手を見つめ、握りしめる。
「手遅れだった。」
「だからこそ、こいつは今、こうして仲間を集め、帝国に打ち勝つために世界中を飛び回っている。」
鶯劍が最後を締めくくった。
「嘘だ、そんなの・・・こいつは一言もそんなことを!!」
「こいつの行動はようは反逆罪だ。もしお前らがこのことを知っていたら、バレた時にお前らにも危害が及ぶ。だから何も言わず、村を捨てると言い出したんだ。
お前も実は分かってるんだろ?」
「・・・」
黎明は何も言えず俯くしかなかった。
「おい!!馬鹿師匠!!俺を忘れるな!!」
遠くで派手に砂煙を巻き起こしながら、思念伝達で龍牙の声が響く。
「うぉっ!!」
爆風に押し出され、その中から飛び出した龍牙は地面を削りながら、無理やりその勢いを止めた。
(頑張れ。)
「黙れ!!馬鹿。」
悪態づきながら双劃を構える。
「もういい加減にしてくれよな。」
そういう龍牙の先には、先ほどの倍はあろうかというほどの冥力の球を口の中で作り出しているデュアル・コアだった。。
その体は龍牙の攻撃によっていたるところに切り傷があった。 しかし、それを全く気にしていないのか、ただ龍牙の方へと口を開いていた。
龍牙はまた疾走を始める。
「いい加減そのデカい口を閉じろ、よ!!」
近づき、顎を垂直に蹴り上げる、が、その下顎は上に動くどころか、逆に龍牙の足を押し返した。
「肉体強化系の術を並行発動してるのか。」
また、距離を置くが、球は目に見えて大きくなり、制限時間の少なさを示していた。
「なら、」
突きの構えをとり、またデュアル・コアの頭に肉迫する龍牙。
「これで決める!!」
突き出した双劃はただ一点、その獣の目に突き刺さった。
「キギャァオァ!!」
どこから出したのか分からないような声が辺りに響くが、獣は口を閉じず、頭を振って龍牙を振り落とそうとする。
龍牙は突き刺した大刀を両手で逆手に持ち、振り落とされないようしがみつきながら、その両手から双劃へと冥力を注ぎ込む。
「鎮めっ!!」
それは双劃にはめられた雷鮫へと流れこみ、何千万ボルトの電流を精製し、獣の体を一瞬にして駆け巡った。
時たま体中から紫電を放ちながら、デュアル・コアは声もなく倒れた。
いたるところの血管が裂け、大量の沸騰した血があたりを湯気で包む。
「くそっ。」 龍牙は眼窪から双劃を抜き、血を払ってからそれぞれを鞘におさめる。
デュアル・コアの鼻先から地面に飛び降り、鶯劍達に駆け寄った。
龍牙は笑顔のまま、同じく笑顔の鶯劍に近づき・・・蹴り飛ばした。
「少しは手伝え!!この馬鹿師匠が!!」
見事なドロップキックをモロに顎にもらい、鶯劍は吹っ飛び、痙攣していた。
「お疲れ様。」
「ユウさん。どこ行ってたんですか?心配したんですよ?」
「ああ、ちょっとここの支部に行ってきたんだよ。」
「そうなんですか。あの、今更なんですけど。」
「ん?なんだい?」
「あれ、倒して良かったんですか?」
徐々に消えていくデュアル・コアを指差した。
「構わないよ。所詮、帝国が監視役としてつけた合成獣だから。」
憎々しげに話す黎明。
「あの、この人、知り合いなんですか?」
「まあ、僕の彼女、じゃないか。」
ユウは黎明の方へ目を見やるが、視線を向けられた方はフンッとそっぽを向いた。
「ただの幼なじみよ。それについさっきまで、こいつのこと殺そうとしてたしね。」
「で、君はこれからどうするんだい?僕達を殺すか?」
「ふん。あんたらを抹殺するために別動隊を用意したのに、そっちを先に潰されたしね。まあ、何より、私は目的なくして戦わないよ。退散させてもらうわ。」
のびている仲間のところへ歩きだす黎明。
「危ない!!」
「えっ?」
訳も分からずユウに突き飛ばされた黎明は間の抜けた声を出した。
しかし、自分のすぐ目の前に刺さっている矢を見て、状況を理解した。
それが飛んできた方向、つまり上空へ目をやると、宙に2人浮いていた。
「それは困るな。働かざるもの食うべからずだぞ。なあ兄さん。」
「そうだな。全く、最近は割り振られた仕事をちゃんとこなさないやつが増えて困る。」
赤いチャグラムに指を通しくるくる回す男に、眼鏡を頻繁に押し上げる男。
それは、あの洞窟で闘った四兄弟の次男、三男である雅繰と雅光だった。
「まあ、所詮は『捨て駒』だ。最初から期待する俺達が間違ってるのかもしれないがな。」
「なぜ、お前たちがここにいる!?
あれだけの怪我をたった3日で治せる訳が、」
「治るわけがない。そういいたいんだろ?」
龍牙の言葉にかぶせる雅光。
「なら、答えは簡単。」
「俺達は戦ってない、ただそれだけの話だ。」
眼鏡を押し上げながらこともなげに雅繰が言う。
「戦ってないだと?どういう意味だ!?」
双劃を抜き、構えながら叫ぶ龍牙。
「聞いた通りだ。あれは俺達だが俺達でない。
そこの鬼神は気づいているのでは?」
雅繰の言葉の真偽を確かめようと鶯劍の方へ全員の目がいく。
それに鶯劍はため息を1つつき、数歩前へ進みながら2人を見上げ、答えた。
「ああ。気づいていた。
あの場にいたお前ら自身が雅壱の能力によって生み出された偽物だとな。」
「あんな精巧な物が作れるって・・・まさか!?」
麗那は思いあたる物があったのかハッと俯けていた顔を上げる。
「『古代魔法』!?」
「エンシェントスペル?」
「ほう、その言葉を知っているということはお前も魔術師、か。」
雅繰が感心したように呟く。
「だが、雅迅ではないが、それでは50点だ。兄さんの力はそこで終わらない。」
雅繰と雅光はそれぞれの武器を取り出し、構える。
「「まあ、お前たちが見ることはないがな!!」」
そしてまた、新たな戦いの火蓋が切られた。