第五話 急襲
「これ、かわいい〜!!ねえ、龍くん。どう?」
「はいはい、いいんじゃないの。」
テンション上がりまくりの麗那に対し、下がりきっている龍牙が軽くあしらう。
「龍牙くん、これはどう?」
「似合ってますよ、ケイミーさん。」
ケイミーにはにこやかに答える龍牙。
「ねえ、龍くん?」
「ん?」
「なんか、扱いに差ありすぎだよね?」
「ソンナコトハナイゾ。」
「じゃあなんでそんなに棒読みなのかな?」
「はっきり言って、どうでも良かったからさ。
ていうか、まだ終わらないの?」
「ほぅ、そんなことを言ってしまいますか。ならもう少し粘りましょうかね、ケイちゃん。」
青筋を浮かび上がらせながらケイミーの方へ顔を向ける。
「それも、いいかもね~。」
「あのケイミーさん、その笑顔、怖いです・・・。なんか後ろに鬼が見えるんですけど。」
「気のせいですよ。」
ほほほっ、と口に手を上品に当て笑うがその目には殺気が籠もっていた。
「いやいや、目が全然笑ってないですから。ははは。んっ?」
ふっと外を見た龍牙は即座に麗那とケイミーを突き飛ばし、自分もその場から離れた。
すると、さっきまで3人が立っていた場所にガラスを打ち破り、覆面と戦闘服を装着した4人が着地した。その手には室内戦闘を意識してかナイフが握られていた。
龍牙は床を転がりながら背に背負った双劃を抜刀し、四足獣のように手を地面につき構える。
「お前らは、誰だ?」
平坦な声で尋ねる龍牙だが、4人は全く答えず、それぞれナイフを構え直す。
「答える気はない、か。」
龍牙も双劃を構える手に力を込め、一気に詰め寄る。
「はっ!!」
左に立つ1人に横凪ぎを繰り出す。
だが、他の1人に刀身を蹴り飛ばされ軌道を逸らされてしまう。
「ちぃっ!!」
蹴り飛ばされた勢いを殺さずそのまま片手を床につき、距離をとる。
(さすがに4対1はキツいか。なら!)
「うっ、いたた。ケイちゃん、大丈夫?」
頭をおさえながら起き上がる麗那。
「えぇ、なんとか。」
朦朧とする意識を覚醒させようとケイミーは起き上がり、首を振る。
「いったい、なにが、きゃっ!?」
辺りを伺おうとした麗那とケイミーは誰かに抱えられ連れて行かれる。
「離せ〜!!」
「痛い!!じっとしていろ!!麗那!!」
麗那が腹をポカポカと殴ると聞き慣れた声がした。
「なんだ、龍くんか。ってなに触ってんのよ!!離しなさいよ!!」
なんとか龍牙の腕から逃れようともがく麗那。
「おい!!じっとしてろ!!ここで俺が離したらあいつらに捕まるぞ!!」
「あいつらって誰よ・・・、えぇっ!?なにあれ!?」
「・・・帝国の暗殺部隊に似てますね。」
顔を真っ赤にしながらいうケイミー。
「とりあえず、ひらけた平坦な場所に行かないと、あいつらの素早い動きに対応ができない。だから逃げてるんだよ。」
「なるほど。なら、急げ〜!!」
コロッと態度を変える麗那にため息をつきながらも龍牙はスピードをあげ建物の屋根伝いに疾走する。
「まあ、こんなものか。」
道具店から出てきた鶯劍は、手に持つ袋の中の旅のために買ったものを確認する。
「それじゃあ、早く3人と合流しましょう。」
続いて店から出てきた白斗が話しかける。
「そうだな。」
何気なく上を見上げると揺らめく太陽を遮るものが鶯劍の目に映った。
「ん?龍牙、か?」
「えっ?」
鶯劍の呟きにすぐさま上を見上げる白斗。
すると、今度は4つの影が通り過ぎた。
「また、トラブル、か。あいつの運のなさはすごいな。」
サングラスを中指で押し上げる。
「悪いが、これを持って先に帰っておいてはくれないか?少し用事ができた。」
「はあ。分かりました。」
白斗に荷物を渡すと鶯劍は5つの影が向かった方向へと高く跳躍した。
「あそこいいな。」
家屋の上を走り回ること15分、龍牙はやっと手頃な空き地を発見した。
空き地の奥の方で軽やかに着地し、2人を降ろした。
「麗那はバックアップ、俺とケイミーさんがそれぞれ2対1にならないように適度に足止めと遠距離攻撃を頼む。
俺は左半分やるんで、ケイミーさんは右半分を。」
「了解。」
「わっかりました~。あ、ケイちゃん、武器は?」
そう、ケイミーの愛用の鉄鞭は今修理中なのだ。
「大丈夫。私にはこれがあるから。」
強く拳を握り込むケイミー。
「来ますよ!!」
龍牙がそう言うや否や、龍牙達の左右から何十もの手裏剣が飛んでくる。
それを3人は受け止めず、後ろに跳躍することでかわす。
敵の姿を視認しようと双劃を構えたまま龍牙は辺りに視線をめぐらす。
そんな龍牙目掛けて地面から1人飛び出してきた。
だが、龍牙はそれを凄まじい反射で飛び退き、斬り返した。
しかし龍牙の攻撃は相手のナイフで受けとめるのではなく、受け流され、無効化される。
龍牙は双劃を振りながら冥力を練り上げ一気に放出した。
突然の斬撃に反応できず、その男は右肩から斜めに斬られ、吹き飛ばされて気絶した。
振り下ろした隙だらけの龍牙の後ろからまた新たな1人が忍びより、ナイフをふりかぶる。
が、麗那の『鉄壁』に阻まれ、ナイフが鋼の壁につきたつ。
そこへ、体勢を立て直した龍牙の横凪ぎで男は壁もろとも切り裂かれ、地面に突っ伏した。
「後、2人。」
龍牙のその言葉に合わせるように巨大ななにかが、目の前に落ちてきた。
それは二本の巨大な角を持つ頭が2つある『ツインヘッド』の第二形態である『猛角二頭獅子』と呼ばれるランクAの強力なモンスターだった。
それを見上げるとその2つある頭の内の1つの上に1人立っているのが見えた。
「『召喚士』か。厄介だな。」
麗那とケイミーの方へ視線を向け安否を確認する。
「1人倒して、あの2人とも無事、か。」
現状確認を終え、また、機械剣を構えた。
高々と天に向かい吠えると、デュアル・コアはその鋭い4本の角を突き立てようと龍牙に向かい突進を始めた。
龍牙はそれをかわさずに刀で受け止めようとしたが、あまりの質量差にじりじりと後ろに押されてしまう。
「くっ、おらぁ!!」
龍の剛腕へと変化させた腕で龍牙はデュアル・コアの頭を上へ弾き、そのまま刀を翻し、横凪ぎへ移行。胸を狙う。
しかし、その攻撃は強固な胸殻によって阻まれてしまう。
龍牙は一度攻撃を諦め、麗那達のところへと跳ぶ。
そこへデュアル・コアの船の錨ほどある巨大な爪が迫る。
空中にいる龍牙は反応できず、ただ大刀を前に構えた。
しかし、その爪は龍牙に触れることなくケイミーの拳によって前足ごと地面に打ちつけられた。
さらに、その上に麗那が『氷堅固』を発動し、氷漬けにした。
龍牙とケイミーは、さらに跳躍し、麗那を守るようにして並ぶ。
「見た目以上に厄介ですね。」
龍牙が手の甲で頬を拭うとべったりと真っ赤な血がついた。突進を受け止めた時にその衝撃で裂けたのだろう。
「あの体格に似合わず、あのスピード。あれで、第2形態というから驚きですよ。」
腰に差した『雷鮫』を左手で引き抜き、それを構えるのではなく、右手に持つ『双劃』の中心にある窪みにはめる。
カチッと噛み合う音がすると、『双劃』全体が眩しいくらいに黄色に輝き始めた。
「JOINT.ver.5.0」
龍牙の言葉に呼応し、双劃が黄色く輝く。
「『剛雷剣』」
龍牙の近くに立っていた麗那とケイミーは突然膨らんだ龍牙の冥力に無意識の内に体が震えていた。
「麗那。」
「は、はい!!」
「あいつをどのくらい拘束できる?」
氷ついた前足を地面に叩きつける魔獣を見ながら尋ねる。
「多分、30秒、長くて40秒ぐらい。」
「わかった。」
龍牙は目を閉じ、思考を開始する。開始から1秒で1万8通りの方法を立案。その内、適切と思われるのは3つ。そこで龍牙は目を開いた。両方の眼を発動し、辺りの地形を把握する。
「ケイミーさんは、俺と麗那のサポートのもと、あのイヌに接近。頭に一発思いっきり叩きこんで下さい。麗那は、俺の合図に従ってあのイヌの足を固めてくれ。
その後、俺はイヌのトドメ。2人は最後の1人を頼む。」
「わかった。」
「了解。」
作戦の確認の後、龍牙とケイミーはまた突進を開始したデュアル・コアへと突撃する。
龍牙は右、ケイミーは左に回り込み、麗那は風の魔法、『空中浮遊』を発動し、空中へ退避する。
「はっ!!」
龍牙が刀を振るうと、その先端から蛇のように蛇行しながら何百万ボルトという雷がデュアル・コアへと疾走する。
しかし、それだけの雷を喰らっていながら、デュアル・コアは何事もなかったかのように、帯電したまま龍牙の方へと駆ける。
「ギャオオオォォ!!」
そのまま突っ込むかと思われたが、デュアル・コアは立ち止まり、高々と吠えると、後ろに大きく跳躍し、2つの口を龍牙に向け大きく開いた。
「なんだ?」
龍牙は『竈滅眼』と『竈烈眼』を発動する。それを通して見た物に驚愕し、走りだした。
「あれは!!ケイミーさん!!」
思念伝達を通して、ケイミーに指示を出す。
「分かっている!!」
ケイミーは、スピードを上げ、デュアル・コアの頭に接近し、一方の顎を上に殴り上げる。その勢いで閉じられた口は次の瞬間、派手な爆発音とともに一方の頭が吹き飛んだ。
辺りに脳漿が血の線を引いて飛び散る。
ケイミーはもう一方の頭を狙い、また跳躍しようとするが、幾つもの手裏剣が投合され、止められてしまう。
「ちぃっ。」
また投合される手裏剣を避けるため後ろへ跳躍。
着地し視線を前に向けると、先ほどまでケイミーが立っていた場所にあの最後の1人が立っていた。
モンスターの頭の方へ視線を向けると残った口の中には、冥力で形作られた白い球体が1つ浮かんでいた。
「ちっ。」
だが、そんなモンスターに目を奪われていたケイミーに、ナイフのような手裏剣が殺到した。
「!?」
デュアル・コアの方にばかり意識をとられていたケイミーは、それに反応出来ず、避けられない。
それでも、なんとか腕を交差させ、急所へのダメージを防ぐ。
だが、両腕、右肩、左太ももに一本ずつ手裏剣が深く突き刺さる。
「ぐっ。」
立つこともままならず、ケイミーは膝をついた。
「よそ見は禁物よ。」
覆面のしたから声が発せられる。それは、女性特有の高い声だった。
手裏剣の柄の先にある輪に指を通し、くるくる回しながらケイミーに近づく。
「元3番隊隊長だからって、調子に乗りすぎ。」
手裏剣を回すのを止め、逆手に持ち直す。
「私、そういう女は嫌いなのよ。だから、死ね!!」
女はケイミーに向かって手にした手裏剣を振り下ろした。
「・・・」
しかし目を瞑っていたケイミーはいつまで経ってもこない衝撃に疑問をもった。
目を恐る恐る開けると、なぜかそれは空中でその動きを止め、ケイミーの体に突き立つことはなく、ただその切っ先を震わせていた。
「なっ、なんで!?くそっ!!動け!!」
「少し、やりすぎですよ。黎明」
声のする方へ視線を向けると、そこに立っていたのは、時計のような形をした杖を手に持つユウだった。