第四話 誓い
龍牙達は2階から階段を下り一階で白夜、奏香と話していた白斗に声をかけた。
「白斗さん、また案内をお願いできますか?」
「お安いご用だ。」
白斗は立ち上がり、外へ出るよう促す。
それに従い4人はぞろぞろと歩き始めた。
「さてと、まずは何が買いたい?」
表に出て、振り返る白斗。
「少し、武具の整備がしたいからな、武具屋をお願いできるか。」
鶯劍が即座に反応した。
「分かりました。じゃあ、行きますか。」
「しゅっぱ〜つ!!」
陽気な麗那の声に合わせ、全員は歩き始めた。
しばらく歩き続き、白斗はある建物の前で止まった。
「ここだよ。」
にこやかに言う白斗に対し、4人は、はあ!?といいたげな顔をしている。
「ここって、ただの民家なんじゃ・・・」
「そう見せかけて、実は隠れた名店なんだよ。
さっさと入ろう。」
まだ納得していない4人を残し、なんのためらいもなくドアを開ける白斗。
「こんちは〜」
それにつられしぶしぶ入る龍牙達。
店の中は外見とは違いきれいに整頓され、壁には様々な武器が掛けられていた。
「いらっしゃ、なんだ、白斗か。なんかようか?」
そんな店内のカウンターに白髪の老人が座っていた。
「ひどい言われようだな。わざわざ客を連れて来たのに。」
ふてくされたように言う白斗。
「ほう、これは珍しい。明日は大雨か?」「じいちゃん」
「はははっ、冗談じゃ。で、何を見に来たんじゃ?」
4人に目を向ける老人。
「質のいい砥石とこいつの護身用の短剣が欲しいんだが」
麗那の頭に手を乗せ話す鶯劍。
「ふむ、分かった。少し待っていてくれ」
鶯劍の注文を紙にメモ書きした後、店の奥へと消える。
しばらくして戻ってきた老人の手には左手に砥石の入ったかごを、右手には布にぐるぐる巻きにされた棒状の物が握られていた。
「よっと、まずはこれが砥石じゃ、好きなのを選びなさい。どれも一級品じゃからの。
で、短剣なんじゃが、2人にはこれがいいと思うのじゃが」
そういいながらほどかれた布地の上に乗っているものを見て、鶯劍が目を見開き、それを手に取った。
「おい、これはまさか、あの伝説の剣職人、イェンディ=バリアスの世界に5本しか作られていない短剣じゃないか!?」
「ほう、よく知っていたの。その通り、この2つはイェンディ=バリアス作『5本の羽根』のうちの2本。黄色い方が『知識の羽根』、赤いほうが『幸福の羽根』じゃ」
羽根そのものに柄をつけたのかと思わんばかりの形をした短剣に全員は目を奪われ、老人の説明を誰一人として聞いてはいなかった。
「なあ、ご老人。こんなレア物をどこで手に入れた?」
「悪いが答えられんの。わし独自のルートじゃけんの」
「先生、そのイェンディって誰ですか?」
龍牙の質問にため息をつく鶯劍。
「お前は本当に何も知らないな。まあ、いい。
イェンディ=バリアスは今から30年ぐらい前に死んだ、唯一『アナザーソウル』を人の手で作った天才武器職人だ」
「『アナザーソウル』を人が」
「ああ、だが、そいつは気まぐれで、剣しか作らないっていう頑固なやつでな。
だけどそんなあいつがたった5本だけ短剣を作った。それがこれだ」
5人はまたその短剣を見つめる。
「だけど、それをしかも2本集めるなんてな」
「じゃから教えんぞ」
「そうかそれは残念だな。で、値段はいくらなんだ?」
懐から財布を取り出す鶯劍。
「2本合わせて50万ガウスといきたいのじゃが、そこの少年」
「えっ?俺?」
突然の指名に驚く龍牙。
「その背にある刀を見せては貰えぬか?
そうしてくれるなら、これら全部合わせて10万ガウスにするんじゃが」
突然の交渉に頭が回らず鶯劍に助けを求める龍牙。
「別に構わないが、他の奴らにこの刀の情報を流すなよ」
「分かっておるわ」
龍牙が差し出した刀を赤ん坊でも抱くかのように丁寧に受け取る。
「ほうほう、ここはこうなっているのか。おっ、なるほど確かにこう組めば熱はこもらずに耐久性にも支障はでまい。こんな機構を組み込むとはさすがじゃな。こっちも・・・」
「白斗さん、この辺りにいい鍛冶屋はありませんか?」
刀に夢中な老人をよそにケイミーが尋ねる。
「ああ、言い忘れてた。
実はここ、鍛冶屋でもあるんだ。だから、武器は全部ここに任せればいいと思うよ」
「そう。なら、おじいさん?」
「ん?なんじゃ?」
刀から目をはなさずに答える老人。
「私の鉄鞭も見て下さいませんか?」
ケイミーは腰に差してある棒状にした鉄鞭をカウンターの上に置く。
「なんだか、ver.チェンジの時におかしな間が少し空いてる気がするので」
待てと言われた犬のような顔をしながら老人は刀を起き、鉄鞭を具現化し、手にとる。
「ふむふむ。ん?お嬢ちゃん、もしかして帝国軍か?」
「いえ、『元』です」
老人の鋭い眼光に全く怖じず答えるケイミー。
「なら、よい。この鉄鞭じゃが、はっきり言おう」
カウンターにそれを置く。
「もう寿命じゃ」
「えっ?」
呆気にとられるケイミー。
「もう、こいつはお嬢ちゃんの力には耐えきれないのじゃよ。ここまで来たら、もう直せないだろうの。普通のやつなら、な」
「ー!じゃあ!?」
「ああ、わしなら直せる。だが、それならもっと良い物を新しく買った方が良いと思うが?」
ケイミーの顔を覗きこむ老人。
「私はこれじゃなきゃだめなんです!!この父の形見じゃなきゃ」
「お父さんの?」
「えぇ、私の父は帝国軍の元『将軍』でした」
その言葉に鶯劍はハッとした。
「これまで、父の活躍で勝った戦は数えきれないと聞きます。
私はそんな父が自慢でした」
一同が黙ってケイミーの話に耳を傾けていた。だが、その中で二人だけ、眉をひそめていた。鶯劍と老人である。
「ですが、そんなある日、父はこの鉄鞭を持って行くのを忘れて戦に出ました。あの完璧主義者であるはずの父が。
それが原因かは分かりませんが、戦は大敗を記し、父は二度と私の前には帰って来ませんでした。ただ戦死したと通知が来ただけ・・・」
その言葉にさらに鶯劍は険しい表情を浮かべながら脇の窓をチラリと見た。
「私はその時誓いを立てました。 世界中を巡り、父のかわりに人々をこの鉄鞭で救うと」
少し顔を俯けながらも続ける。
「たとえ、それで私が命を落とすことになっても、です」
重い沈黙の中、静かにそれを聞いていた老人がため息を零した。
「・・・そうか。気に入ったぞお嬢ちゃん。これから直すんでな、明日また来てくれ」
袖をまくりあげる老人を見てケイミーの顔がパッと明るくなる。
「はい。お願いします」
深々と頭を下げるケイミー。
「ああ、工程上、新しい機能がつくが、構わんかの?」
「ええ。それが直るのであれば」
「そうか」
即答したケイミーから龍牙に目をうつし続ける老人。
「少年。この刀の機構を真似させてもらうぞ」
龍牙に刀を返す老人。
「もういいんですか?」
「ああ、もう構造は全て頭に入っておる」
「そうですか。だけど、商品化しないで下さいね」
あの短時間で剣の構造を把握したことに驚きながらも念のために釘を差しておく。
「分かっておる。お嬢ちゃん、これを持って行きなさい」
麗那に短剣を差し出し、麗那はそれを嬉しそうに受け取る。
「うん、ありがとう」
「代金はどうする?今、払おうか?」
鶯劍が財布を開く。それを手で制する老人。
「いや、後払いでいいよ。それがわしのやり方じゃ」
「分かった」
「それじゃあ、行きますか」
白斗が座っていた椅子から立ち上がる。
「そうだな」
懐に財布を入れ直しながら答える鶯劍。
「じゃあ、どこに行きますか?」
「服が欲しいで~す」
手を挙げて言う麗那。
「じゃあ、それでいいですか?」
「はあ、まあ、いいだろう」
「・・・了解です。」
「大賛成!!」
これから自分の身に起こる災難を想像し、ため息をつく鶯劍と龍牙。それに対し、ケイミーは身を乗り出すようにして手を挙げて賛成した。
「それじゃあ服を買いに行くということで」
「しゅっぱ~つ!!」
またその麗那の言葉で一行は歩き始めた。