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第三話 案内

「このスプリンクルは、ここら一帯の特徴である熱帯気候にも耐えられるようにするために街の70%が水の中に沈んでいるんだ。」

7人は白斗と奏香の2人を先頭にして街の中を歩いていた。

「そういえばみんなはこれからどうするんだい?」

白斗が振り返り尋ねる。

「とりあえず、食料調達をした後、1日ここに泊まってから北に向かおうと考えているが、なにぶんこの街は初めてでな、案内してもらえないか?」 鶯劍が応える。

「もちろん。まずは、宿を探しブロックCに行こうか。」

「ブロックC?」

ケイミーの質問に白斗より先に奏香が答える。

「この街は主にいくつかのブロックに分けられます。東西南北、そして水上のAからEまでの5つです。今私たちがいるのが東のブロックB。で、これから行くのが、南のブロックCという訳です。」

「へー。」

麗那がなにともなしに辺りを見回し、口を開く。

「じゃあ、どのくらいの人がここに住んでいるんですか?」

「さあ、なにせ、人の出入りが激しくてね。よく数字が変わるから分からないんですよ。」

奏香のその説明の間に、一行はブロックをつなぐ通路を歩いていた。

「足下まで透けていると、結構恐いですね。」

額に冷や汗を浮かばせながら呟く龍牙。

「もしかして、龍牙恐いの〜?」

「そ、そんなこと、あるか!!」

麗那の挑発に顔を真っ赤にし、言い返す龍牙。

「わっ!!」

「ヒィィ。」

突撃の大声に、その場にうずくまり震える龍牙。

「まさか、そこまで驚くとは思いませんでしたよ。」

龍牙はうずくまったまま、横目でユウを睨む。

「早く、行きましょう。ここじゃ他の人に迷惑がかかるんで。」

白斗が周りを見回し、龍牙に手を差し出す。

「・・・分かった。」

ブスッとした表情のまま、手をとり、歩き始めた。




「着きましたよ、ここがブロックC、通称、『観光通り』です。」

ブロックCに入るとすぐに、その名前も頷けるほどの店と人と出会った。

「ここは、色んな店や宿泊施設が集まっているから欲しい物はすぐに見つかると思いますよ。」

奏香の説明に頷く龍牙。

「本当に、ここならなんでも揃ってそうですね。」

「まあ、まずは宿探しと行きますか。どんな部屋がいいですか?」

白斗の質問に勢いよく手を上げる麗那。

「はいはいはい!!まずは広いバスルームでしょ、広くてふかふかのベッドに、ふかふかのまくら、後、そフガフガ!」

「はい、麗那ちゃんストップ。」

暴走を始めた麗那の口を抑えるケイミー。

「とりあえず、人数分の部屋と、後、安ければなんでもいい。」

とって代わり鶯劍が答える。

「なら丁度いいところがあるんで、案内しますよ。」

「ああ、頼む。」

一行はまた歩き始めた。



観光通りを歩き始めてから10分過ぎようとした時に白斗が立ち止まり、額に手を当て、目を細める。

「ついてないな。まさか、あいつらがいるとは。」

「どうしたんだ?」

突然立ち止まった白斗にぶつかった龍牙が尋ねる。

「あれだよ。」

白斗が指を指す。

「ん〜?うわぁ〜、ベタ〜。」

麗那が虫けらでも見るような目で見る。

その指の先に見えたのは、数人のガラの悪い男どもと、それに囲まれた宿の主人らしきおじさんだった。


「ああん?なんかようか、じじい?」

ガラの悪い男の1人が主人に詰め寄る。

「あの、ですから、お代を。」

オロオロし、冷や汗だらだらのまま呟く主人。

「誰に向かって口を聞いてるんだ?おい。」

さっきとは違う男が近くの柱を叩き折る。

「もういい、行くぞ。」 リーダー格らしき男の言葉に、渋々その2人は従い、立ち去ろうとするが、主人に服を掴まれる。

「だから、その、お代を。」

「うるせえんだよ!!じじい!!死ねっ!!」

服を掴まれた男が主人に拳を振り下ろす・・・はずだったが、それよりも早く、その男は何者かに足を払われ、尻餅をつく。

「どわっ!!」


「おじさん、大丈夫?」

頭を抱える主人に手を差し出したのは、龍牙だった。

その言葉に頷き、立ち上がる主人。

「じゃあ、少し、中に入ってもらえない?少し、荒れるから。」

主人はガクガクと頷き、入り口へと走って行った。

「おいガキ、お前は誰だ?迷子か?それとも正真正銘のバカか?」

「リーダー、多分、両方でしょうぜ。」

ガハハハッと下品に笑う男どもに、龍牙は冷たい視線を送る。それには、殺気がみなぎっていた。

「おい、てめえら。」

龍牙の言葉に男どもは笑うのをピタリと止める。

「今すぐ、ここに金を置いて立ち去るなら見逃してやる。もし、まだ抵抗するなら数ヶ月歩く生活を送れなくしてやる。」

構える龍牙を見て、憤怒の形相を浮かべる8人。

「てめぇ。言わせておけば。お前ら、やってしまえ。」


リーダーの一声で残りの7人は動き始め、瞬く間に龍牙を包囲する。

「ガキだからって容赦はしないぜ。」

それぞれ懐からナイフや鉄の棒をとりだし、龍牙に襲いかかる。

「ふん。」

それを見て、龍牙は鼻を鳴らし、真っ正面の1人に駆け寄る。

「死ねっ!!」

振り下ろしてきたナイフをひらりとかわし、その体に右の拳を繰り出す。

「がはっ!!」

男はめり込んだ拳の威力を殺しきれず、近くにいたもう1人も巻き込み、向かいの建物の壁に叩きつけられる。

龍牙はそれを確認せず、すぐ横にいる3人目に迫る。

3人目は先とは違い、ナイフを横に凪ぐ。龍牙はそれを屈んで避け、その勢いを殺すことなく、相手の足にけりを入れる。

「うわっ!?」

バランスを崩し、倒れこむ。その腹に龍牙は拳を振り下ろした。

「ぐふっ!!」

口から血を吐き気絶したのを確認する暇もなく、その後ろから3人が襲いかかる。

「バレバレなんだよ。」

振り返らず、そのまま地面に伏せたかと思うと、下から左右2人の顎を蹴り上げる。

その反動を使い、空中で一回転し着地。その後、すかさず真ん中の1人に接近し腹部に手を当てる。一瞬遅れてその男の体がリーダーの男のすぐ横まで吹っ飛んだ。

ものの一分で手駒が全滅するのを目の当たりにし、男の額に汗が浮かんだ。

「残ったのはお前だけだな。」

その言葉に体をビクッと跳ね上がらせ、恐る恐る、自分の肩ほどしかない背丈の少年に目をやった。

「お、お前はだれだ!?この街の者じゃないな!?」

その問いに無表情のまま龍牙が答える。

「ああ、俺は我ろ、んふっ!?」

が、その口をいつの間にかすぐそばにいた白斗が抑える。


「僕の甥なんですよ。すいませんね、やんちゃがすぎて。後で叱っておくのでお引き取り願いますか?」

暴れる龍牙を抑えながらにこやかに話す白斗。

それを疑問に思い、男がさらに問い詰めようとした時、その横に赤い着物を着た鶯劍が立ち、男をサングラスの奥から睨んでいた。

「失せろ。」

「は、ハィィィィィ!!」 その殺気に耐えきれず、男は悲鳴を上げながら、財布と仲間を置いて逃げて行ってしまった。

「ふう。」

それを見て、軽く息をつく白斗。

「フガフガ!!」

「?ああ、ごめんよ。」

龍牙の口をふさいだままの手を離すと、龍牙は飛び起き、白斗に牙をむく。

「なんで、止めたんだよ。」

「あいつはこの街の裏を仕切るヤツの腹心だ。なら向こうは真面目に君を探しにくるだろ?

なら、名前を教えるのは自殺行為だと思わないか?」

「・・・分かったよ。」

悔しそうな顔をする龍牙に疑問を持ちながらも、白斗は主人に近づく。

「マスター、大丈夫?」


「おお、白斗か。ああ、大丈夫だ、そこの少年のおかげでな。」

にこやかに返す主人に、奏香は近づき、顔にかかった髪を耳にかけながら、背の低い主人に目線を合わせる。

「だから、無茶はしないでって言ってるのに。」「そうだな。だけどな、あんなクズどもを放っておくなど私にはできない!!」

「おじさん・・・」

主人の真剣な顔を悲しげな目で見る奏香。


「えーっと、その人、知り合いですか?」

恐る恐る手を挙げる麗那。

「ああ、この人は、白斗のお父様です。」

「あ、そうなんだ。じゃあもしかして、白斗さんが言ってた宿って。」

「そう、僕の家だよ。」 頬をかきながら答える白斗。

「とりあえず、話は中に入ってからと言うことで。」

主人に促され一行がぞろぞろと宿の中へと入るなか、ユウは動かなかった。

「ユウさん、どうしたの?」

「僕は別行動をとらせてもらうよ。」

「え?どうかしたんですか?」

麗那に続き、龍牙が尋ねる。

「少し用があってね。それじゃあ。」

そう言うや否や、ユウは風に紛れ、一行の前から姿を消した。

「ユウ、さん?」

消え去ってしまったユウの悲しげな表情に不穏なものを感じながらも、龍牙は追うことができなかった。




これが、さらなる不幸の始まりだと龍牙は知る由もなかった。



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