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第六話 決意

 愛用している雷鮫と双劃ではなく、龍牙は首飾りの銀色の破天石を弾き、旛龍を呼び出し正面に構えた。

「ほう、まさかお前のような子供が『アナザーソウル』を持っているとはな、驚きだよ。しかも『神器』ではなく『覇剣』とは」

 麗那を捕らえたまま、相変わらずのにやけ顔で雅壱が呟く。

 『神器』はただ武具に特殊な紋様を刻むだけで作成できるのに対し、『覇剣』は手に入れようとすれば、危険な未開の地などに行かなくてはならない。それに加え、『覇剣』を扱えるのは聖霊や精霊をその身に宿した者だけだ。

 だが、それ故に『覇剣』は絶大な力を発揮する。

 雅壱達はそれを理解していた。

「本当に。君は飽きませんね」

 腰を落とし構え、雅迅は龍牙が動くのを待った。

 だが、龍牙はそのまま微動だにしない。

「怖くて、動けないのですか?なら、」

 雅迅は足に力をこめる。

「こちらから行きますよ!!」

 体全体をバネのように使い、龍牙に迫る。

 それを見ていた龍牙が口を僅かに動かした。

「準備完了」

 龍牙は正面に構えていた旛龍を肩に担ぎ、それに龍牙にとっては少ないかもしれないが、端から見たら、莫大な冥力が注ぎこまれた。

「遅い!!」

 雅迅はもう拳を振り上げた状態で龍牙の目の前にいた。

 その拳には覆うように冥力が纏われていく。

「終わりだぁ!!」

 雅迅は拳を思いっきり龍牙に撃ち込んだ・・・ハズだった。

「な、いつの間に!?」

 だがその右の拳は龍牙の左手にすっぽりと包まれていた。

「ちっ」

 掴まれた拳を引き抜こうとするが、『部分変化(シェイド・ディビジョン)』によって、ドラゴンの剛腕へと化した龍牙の腕から逃れるなど雅迅には不可能に近かった。

「奥の手ってのはこういう時においておくんですよ、先輩」

「ああ、そうだな」

「なっ!?ぐふっ」

 突然の横から聞こえる声に一瞬気の緩んだ龍牙は、自分の体が浮くのを感じた。

 遅れて頬を襲って来た痛みに龍牙は自分が殴られたことに気がついた。

 頬を抑え立ち上がると、揺らぐ視界の中、龍牙はその男の顔を睨みつけた。


 そこには先まで麗那を拘束していたはずの雅壱が立っていた。


 麗那のいる方へ目を向けると、そこにもまた、雅壱が麗那を拘束したままにやけていた。

「なんで、2人も、いるんだ?」

 脳を揺らされたのか、その足はガクガクと震えていた。

「なにを言ってるんだい?俺は1人だけだが?」 同じ声が二方向から返ってくる。

 龍牙は新たに現れたもう一人の方の雅壱に眼を向け、その正体を探ろうとした。

「そんな・・・」

 すぐに正体は分かった、だがそれは絶対に正しいはずの自分の眼を疑うものだった。

「『思念体』?」

「正解だ。さすが『封六眼』を開眼しているだけのことはある」

「思念体にというより、自分の体に触れていない冥力に実体を持たせるなんて不可能のはず・・・」

「ああ、普通はできない。だが、僕たちの一族は『冥力に実体を持たせる』ということに特化していた。」

 その説明の仕方を見て、龍牙は2人はやはり兄弟なんだなと無意味なことを考えていた。

「分かるか?思念体も要は冥力の塊だ。なら、実体を持たせるのも可能なはず。そう俺は考えた。

 そして、生み出した。あらゆる攻撃を受け流し、なおかつ、多彩な攻撃のできる思念体をね。」

 その言葉が終わると同時に思念体と雅迅が龍牙に迫る。

「『部分変化・腕(シェイド・ディビジョン・アーム』」

 龍牙は迫る2人(?)にではなく、銀色の鱗に覆われた両拳を地面に打ちつけた。


派手な音と共に辺りは砂埃で覆われる。

「煙幕のつもりか。今更こんなもの必要ないだろうに」

 やれやれと、首を振る雅壱。

「そろそろ終わらせようか」

「ああ、賛成だ」

「っ!?」

 雅壱が振り向くと、そこに見えたのは、巨大化された金色の拳だった。

「くっ!!」

 不意打ちのようになった雅壱は、麗那を掴んだまま、ギリギリでそれをかわし、後ろに飛び退いた。

「ほう、このタイミングで避けるか。流石は、逃げのスペシャリストだな」

 煙幕の向こうから声と共に下駄の音がする。

「な、なぜお前がここにいる?」

「『なぜ』だと?お前らをはめるために決まっているだろう?」

 そこに現れたのは、おなじみのサングラスをかけたまま口元を歪める鶯劍だった。

 鶯劍は雅壱に目もくれず、意識を失ったまま倒れているケイミーへと歩みより、肩を揺すった。

「おい、起きろ。おい」

「んっ・・・ここは、私はいったい」

「とりあえずお前はここから逃げろ。立てるか?」

 差し出された手を握るケイミー。

「ありがとう、先生」

壁に手をつきながらケイミーはその場から離れようとするが、

「させるか!!」

 そこへ雅壱の思念体が迫ってきた。

 後数センチで捕まるという距離で、なぜか思念体は霧散した。

「失せろ、クズが」

 そう呟く鶯劍の目は、龍牙の右目のように紅く輝いていた。

「おい。ぼーっとしてないで早く逃げろ」

「あ、はい」

 ケイミーはふらつきながらも闇の中へと消えた。

「さて、そいつも返してもらおうか」

 鶯劍はそれを言うや否や雅壱と後50センチという距離にまで踏み込んでいた。

「くっ、『迎撃』」

 雅壱の言葉通り、2人の間に思念体が出現する。

「邪魔だ」

 鶯劍の眼がよりいっそう輝いたかと思うと、刹那、


 雅壱の前にいたはずの思念体が塵となって消えた。

「ぐはっ!!」

 自分を守るものが消えたのに一瞬気を取られた雅壱は、鶯劍の拳を顔面にモロにもらい、地面の上に転がった。

「先生!!」

 拘束を解かれた麗那は鶯劍に抱きついた。

「無事か?麗那」

 それをしっかりと抱き止め、軽く頭を撫でてやる。

「うん」

「ならケイミーの治療をたのまれてくれないか」

 麗那は顔を上げ、不安そうな顔をしたが、すぐに頷いた。

「分かった」

 鶯劍は麗那がケイミーの方へ向かったのを見届けると、まだ地面に転がっている雅壱に目を向けた。

「ぐっ、がはっ、はっ、はっ、はっ」

 うつぶせになった体を起こす雅壱の口からは恐らく口の中が裂けたのだろう、血が垂れていた。

「なぜだ?」

 血まみれの口から細く言葉が紡がれる。

「なぜ、実体のない僕の思念体を消せる!?」

「眼だ」

「なに?」

「だから、この眼の能力なんだよ。『竈滅眼 壱之型(いちのかた)武劇抹消(ぶげきまっしょう)』と呼ばれている、な」

 タバコをくわえ、火をつけた。

「そんな能力が・・・あっていいはずがない!!」

 鶯劍は雅壱の叫び声を気にせず長く煙を吐き出す。

「だが、現実にはある。

 どうせ、これに対抗できる能力がどこかにあるんだろう。


『この世に絶対的な能力は存在しない。唯一絶対なのは、その人の努力だ』


 一度だけ会ったある人の言葉だ」

 鶯劍は視線を雅壱に戻す。

「で、お前はどうする。まだ戦うか?やりたいならやってもいいぞ。」

 鶯劍の挑発のような言葉に集中力を欠いた雅壱は、怒りを露わにし、鶯劍に突っ込んだ。

「うおぉぉぉぉ!!」

 雅壱は残った力全てをその右拳にこめ、鶯劍に繰り出した。

()えたら強くなるとでも思ったのか?」

 だが、鶯劍はそれを簡単にかわし、雅壱がよろめいたところに手刀を撃ち込んだ。

「ちっくしょ・・・」


 ドサリと雅壱はうつぶせに倒れた体を起こそうとするが、手足がまるで石にでもなったのかと思うほど動かない。

 そのまま、雅壱の意識は暗い闇の底へと落ちた。





ガキィン


 また一つ火花が散った。思念体が鶯劍に目標を変えてから、龍牙と雅迅の2人はお互いの持つ最高の武器で斬りあっていた。


ガキィンキィン


 斬りあうと言っても、お互い受けたダメージといえば、刀と剣がぶつかる衝撃か、回避の時の擦り傷程度だった。


ガキィンキィンキィィィ


 さっきから何度目か、また刀と剣の押し合いになる。

 どちらも一歩も引かない中、2人の表情は対局的だった。

 龍牙は額に汗をかき、焦りの色が見え始めているのに対し、雅迅は汗一つかかず、まだ余裕が見えた。


 お互いがお互いを弾き飛ばし、また距離をとる。

「君、結構やりますね。」

 息をきらせる龍牙を見ながら話しかける雅迅。

「今まで闘った中でもずば抜けて強いですよ。

やはり、兄さん達について来て正解でしたね。」

 龍牙は訝しげに雅迅を見る。

「どういう意味だ?」

「そのまんまですよ。

 僕たち兄弟4人の共通目的は、殺された両親の敵討ち、あのジャッジメントの1人『巨斧のグレイス』を倒すこと。

 だけど、僕の目的は、」

 ニヤリと口元を歪める雅迅。

「ただ強者と闘い、自分を磨き上げる。

 ただそれだけなんですよ」

 両腕を広げ、雅迅は天を仰いだ。

「神よ、感謝します。僕にこんな素晴らしい強者を用意してくれたことを。」

 雅迅は手と手の間、つまり顔の前に冥力を集め、編み、豪華な装飾が施された剣を生み出した。

「なあ」

 今まで黙って聞いてきた龍牙が口を開いた。

「なんですか?」

 雅迅はあまり気にかけず剣を構えた。

「お前はその自己満足のために、命令を言い訳にして何人、殺した?」

「覚えてませんよ、そんなこと。僕ら帝国軍にそんな殺した人数を数える習慣はないもので」

「じゃあ、私利私欲のために人を殺したことがある、と」

「そりゃあありますよ。だから、なんですか?」

 こともなげに言う雅迅に、言いようのない怒りが龍牙を津波のように次から次へと襲った。

 だが、それを顔にだすような龍牙ではない。

「俺がこの刀を初めから使わない理由が分かるか?」

「はい?知るわけないでしょう?」

「この刀は、『覇剣』。

 つまり、莫大な力を使うことができる。だが、それゆえに使いこなせれなければ容易く命を奪ってしまう」

 龍牙は自分の右手に持つ旛龍を見る。

「俺は、自分の力を使いこなせてなかったために、大切な物をたくさん目の前で失った」

 龍牙の脳裏にあの4人の親友の笑顔、そして、自分に背を向けて去って行く父親と兄の姿がよぎった。

「だから、決めたんだ。俺は仲間を、友を守るためにこの刀を握ると!!」

 切っ先を雅迅に向ける龍牙。

「だから俺は、自己満足のために罪のない人を、なにより、仲間を傷つけたお前を絶対に許さない!!」

「ふん。なにを言うかと思えば、そんなことですか・・・


 甘っちょろいんだよ!!」

 横に剣を構えたまま龍牙に向かい走る雅迅。

「ああ、確かに俺は甘いさ。この無駄な優しさのせいで、色々なものを失った。だけどな、」

刀を片手で上に向ける龍牙。

「それで得たものもあるんだよ!!」

 雅迅の横薙ぎは龍牙の脇腹に入ると思われた瞬間、龍牙はそれを左手で受け止めた。血しぶきが派手に飛ぶ。

「そんなものあるわけないだろうが!!」

赤い斑点を顔につけながら飛び退き、左手に冴糸を生み出し多方向から龍牙を襲う。

「この乱世で一番重要なのは『冷酷さ』なんだよ!!」

 龍牙はそれを気にもとめず、雅迅に向け、右腕を振り下ろした。


僕の糸の方が早い!!


 勝利を確信し、雅迅は龍牙の刀のガードの構えもせず、高々と笑った。

「はははっ、何がそれで得たものだ。所詮はこの程度だろ」


ゴオォォォォォォォ


 だが、そんな雅迅の笑い声は、自分の体が鼓膜のように震えているのがわかるほどの雄叫びにかき消された。

「なっ?」

 龍牙の方に目を向けると、そこに見えたのは、旛龍の先端から湾曲しながらふきだし、龍牙の周りにまとわりつく、白銀の鱗をまとった龍だった。







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