第三話 暗闇の中で
「うっ」
暗闇の中、龍牙はうめき声を上げ、ゆっくりと目を開く。
「ここは?」
だんだん頭も目もはっきりしてきた龍牙は今の状況を理解しようと、体を起こし、あたりを見回した。
「そうか、確か地面が崩れて・・・そうだ、みんなは?、くっ!!」
俯いていた顔をあげ立ち上がろうとするが左足の痛みに耐えられず、また座りこんだ。
「くそっ!!」
「止めておけ、また崩れるぞ。」
悔しさのあまり、地面を思いっきり殴ろうとする龍牙に、聞き覚えのある声がかかった。
暗闇になれてきた龍牙の目に入ったのは、麗那を肩に担ぎ、もう一方の肩をケイミーに貸している鶯劍の姿だった。
「先生!!麗那、ケイミーさんも無事だったんですか!?」
「ああ、こいつのおかげでな。」
肩に担いでいる麗那を担ぎ直しながら言う鶯劍。
「麗那が?」
「ああ。こいつの風の魔法がなければ今頃俺らはぺちゃんこだな。」
龍牙の横に2人を下ろす鶯劍。
「じゃあなんで俺は無事だったんですか?」
「全てを見たわけではないのではっきりとしたことは言えませんが、龍牙くんも麗那ちゃんと同じ、もしくはそれ以上の『風』の系統のような術を展開したように私には見えました。」
そばにある岩にもたれながらケイミーは小さな声で意見をのべた。
「俺が、『風』を?」
「ああ、確かにそうみたいだな。」
周りを見回す鶯劍。
「俺達はここに来るまでかなりの数の岩があって苦労したんだ。
だがな、ここら一帯は何かに削られたみたいに平らだ。
つまり、誰かが『風』の系統を使ったんだろう。だが、ここにはお前しかいない。ということは、お前が『風』を使ったとしか考えられないだろ?」
「だけど、『風』なんか使ったことないのに無意識の内に発動するわけないじゃないですか?」
龍牙は首を傾げながら起き上がった。
「じゃあ、なぜお前は今、立っていられるんだ?」
「えっ?」
先まで怪我していた左足を見ると、深く裂けていたはずの脹ら脛が、傷一つ残すことなく塞がっていた。
「なんで俺の傷が!?」
「つまりはそういうことだ。」
龍牙の驚きを気にせず説明を続ける鶯劍。
「なにせ、お前はその身に『神龍』を宿しているんだ。なら、どの基本属性が使えていてもおかしくはないだろ?」
「それが『神龍』の力」
自分の手を裏返して見ながら呟く龍牙を悲しそうな目で鶯劍は見た。
(まだだ、まだ早い。
こいつにさっきの説明はおかしいと言うのは。)
「なら2人の傷も治せるはずじゃ「やめろ!!」えっ?」
突然怒鳴った鶯劍に驚きの眼差しを送りながら龍牙は尋ねた。
「なんでですか、先生?」
「まだ使い慣れてもいない技を使って逆に悪化させたらどうする!?」
「そ、それは・・・。」
「治療薬はあるからそれを使う。お前は少し休んでおけ。」
「・・・はい。」
今までになく、こちらの意見を全く受け付けない鶯劍に、疑問というより反発を覚えながらも、龍牙はそれに従い、横になっていた。
だが、疲労のせいか、数分後には深い眠りについていた。
「おい、龍牙、起きろ。」
「う、ん?あれ?俺もしかして寝てました?」
「ああ、爆睡だ。お前も人のこと言えないぐらいいびきをかいていたぞ。」
口の端を歪め、今にも吹き出しそうになりながらいう鶯劍から赤くなった顔をそむけ、立ち上がる龍牙。
「そ、それよりも2人は?」
「クククッ、ああ、あの2人なら、ククッ、そこにある岩の裏で、クククッ、休んでるぞ・・・プッ、アーハッハッハッ」
「うるさい!!しつこい!!このバカ師匠が!!」
「クククッ、お前のボキャブラリーもやっぱりガキだな。」
「ほう、そんなに殴り飛ばされたいか。」
右手にゆっくりとグローブをはめる龍牙を見、慌てて止める鶯劍。
「わかった。すまない、調子にのりすぎた。頼むから、お前の一撃はかわすのも、受け止めるのも結構大変なんだ。」
「知るか!!」
ドゴオォォォォン!!
爆弾でも爆発したかのような音と共に向かいの岩の壁に大きな穴が開いた。
「こ、このタイミングで、『気功波』を撃つか?普通。」
「大丈夫。先生は普通ではないので。」
「ぐはっ!!」
穴の方を凝視していた鶯劍は龍牙の拳をモロに顔に喰らい、吹っ飛ぶ。 吹っ飛ばされた鶯劍はというと、殴られた頬を抑え、
「な、殴ったな!!親父にも殴られたことないのに!!」
あの名ゼリフを呟いた
「ああ、殴るさ。」
龍牙の殺気に満ちた目とその言葉のすぐ後、鶯劍の悲鳴があたりに響き渡ったような。