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第壱拾壱話 紅い珠

龍牙は麗那に殴りとばされ、鶯劍はきれいな女性を見る度わざとらしく小銭を落とし拾わせ(もちろんそのたびに龍牙と麗那によって制裁が加えられる)ながらもなんとか必要品の調達は完了し、正午近くなった今、麗那を除いた彼らは、門の前で彼女が来るのを待っていた。

「それにしても麗那は遅いですね、先生?」

「どうせ、知り合いに挨拶して回ってるんだろうよ。」

「私も同感ですね。」

「そうだ。先生、次はどこに向かうんですか?」 龍牙は背中の荷物の中から地図を取り出し、2人の前に広げる。

「直接エステル城に向かってもいいが、恐らく帝国の奴らがユーリア公国で張っているだろうから、少し遠くても迂回すべきだろ。

というわけでだな、とりあえずは、この大陸の東にあるこのロスカ樹林の中にあるラビン族の村を目指そうと思う。」

その説明に相槌を打っていたケイミーが声を上げる。

「その村はどこにあるのですか?地図には描かれていないようですが?」

「ああ、あの村を知っているのは、その村の住人と一部のやつだけだからな。さらに場所までとなるとさらに減るだろうな。

場所はだいたいこのあたりだ。」

今、龍牙たちがいる渓谷から北北東の辺りを指でなぞる。

「そこで少し欲しいものもあるしな。」


そんな話をしている3人の後ろから足音がするのを龍牙は気づき、首だけをその方向にむける。それにつられ残りの2人もそちらに顔を向ける。

そんな3人の目に入ってきたのは、黒い衣装に身を包んだ麗那だった。

その顔は、走ったのか少し火照っている。だが、注目すべきは、その麗那が着ている服だった。それは、まさしく魔女が着ている黒いローブ、そして、頭にはお約束のとんがり帽子がのっていた。

「・・・麗那、その服は?」

他2人も思ったであろう疑問を龍牙が麗那にぶつける。

「ん?ああ、これ?これはこの村では旅に出るときにはこの服装でなくてはならないっていう習わしがあるからさ。それに、これを着ている方が魔力の消費も少なくてすむしね。」

麗那がローブの裾をつかみ、くるりと回ると、いつの間にか、麗那はいつも着ている服へと変わっていた。

「さらにさらに、他の服への変換能力まであるという優れものなのだ。」

「ほぉ、『破型』を服に取り込んだのか。確かにそれは便利だな。俺も欲しいところだが・・・、くれる気は全くないみたいだな。」

「当然だ。」

麗那の横に1人の男が現れた。蔦轡である。

「何が悲しくてお前などに私の里の最新の物を渡さなくてはならないのだ?」

「ふん。逆にお前から物をもらったら恐くて使えないな。殺されそうでな。」

「よく分かっているではないか、鶯劍。流石にこうも付き合いが長いと考えることも似通ってくるようだ。」

アッハッハッと笑いあい、2人は厚く握手をする。

「娘を頼むぞ、鶯劍。」

「誰に向かって言っている。」

「フッ、そうだな。」

蔦轡は鶯劍と手を離すと今度は龍牙にさっきとは逆の手を龍牙に差し出した。

「受け取ってくれ。若き勇者よ。」

「えっ。」

蔦轡が差し出した手を広げると、そこには紅い珠があった。

「これは私の里で代々、守り通して来たものだ。 大事に扱ってくれ。」

「そんな大事な物受け取れないですよ。」

「いや、これは君にはこの先絶対に必要になる物だ。その珠とともに言い伝えられてきたのは、『背には巨大な大刀、腰に小刀を差す若者にこれを与えよ。』というまさしく君を表しているんだよ。どうか受け取って欲しい。」

頭を下げる蔦轡を見て、溜め息を1つ零す龍牙。

「分かりました。だけど、僕は勇者じゃない。ただの・・・復讐者だ。」

「君にとってはそうかもしれない。だが、他にとってはそれが世界を救うと同義かもしれない。

感じ方は人それぞれだ。君は周りを気にせず、自分の思うがままに行動すればいい。私は、そう思うよ。」

蔦轡は少し屈みながら、龍牙の手の上に紅い珠を置き、笑いかけた。

その龍牙はしばらく見つめていたが、つられて笑う。

「じゃあ、いただきます。」

そういい、龍牙が珠を握りしめると、それは幾つもの光へと砕け、龍牙の首飾りについている紅い破天石に溶け込み、神々しく輝き始めた。

「どうやら本当に君だったようだね。」

その光景に自分の判断は正しいと思ったのだろう、蔦轡はとても嬉しそうに麗那の肩に手を置く。

「今のはいったい?」

「さあな、俺はそういうことについては無知だからな。ま、そのうち分かるだろ。」

「そうですかね・・・」

鶯劍の楽観的な発言に一抹の不安を感じながら、その首飾りを握りしめた。

「はいはい、元気を出す。4人の中で一番年下がテンション低くてどうするの?はい、スマイルスマイル。」

暗い表情をしている龍牙を心配してか、陽気な声を出しながら、麗那は龍牙の背中をバシッと音をたてて叩いた。

「いたっ。」

「ほら時間が勿体無い。早く行こう?」

「同感ですね。」

「ああ、行くとするか。」

「しゅっぱ〜つしんこ〜♪」

麗那の陽気な声とともに、龍牙達は朱雀里を後にした。







アルカディア帝国 エレメントタワー最上階 皇帝の間


常は皇帝が利用するはずの部屋に、なぜか、皇帝とは別の人間が、しかも、いすに座っていた。

蒼龍である。

机の上に様々な書類があるにも関わらず、足を投げ出していると、扉から控えめなノックの音が聞こえた。

その扉を開けて入ってきたのは、

「ほう、これは珍しい訪問者だな。どうしたんだ?サヴァリス。」

「それはこちらのセリフですよ、伯爵。なぜあなたが陛下の部屋に、しかもその席に我が物顔で居座っているのですか?」

少し怒りを感じているのか、震える拳を握りしめる。

「ふん。もうすぐ私たちを裏切るつもりのお前には関係ないことなんじゃないか?」

(なっ!?)

蒼龍の言葉にサヴァリスは動揺を表に出さないよう必死になる。

「どういう意味ですか?」

平然を装った顔で尋ね返すサヴァリスに蒼龍はイスを回転させ、背を向けた。「ふん。まあ、いい。で、なんの報告だ?」

「この報告はあくまで陛下宛てなので、あなたにお教えする必要性はないかと。」

「どうせ、その後すぐに俺の下に舞い込むんだ。多少、順番が変わったところで差し支えはないだろ?」

「ですが・・・」

「教えろ」

突然振り向いた蒼龍の目を見て、サヴァリスは身じろぎ1つできなかった。

(な、なんていう殺気、それに威圧感。こんな、こんな怪物に勝てる訳がない。)

「わ、分かりました。」 サヴァリスは震える手で資料をめくり、報告した。

「難関とされていた『封玉』の回収が終了し、第一段階が終了しました。 よって翌日より、第二段階を開始します。」

「それだけか?」

「他に何か?」

「『四神』の成長はどうだ?」

「順調のようです。」

「そうか。」

蒼龍立ち上がり、ガラス張りの壁に歩みより、街を見下ろす。

「では、失礼します。」

サヴァリスが部屋を出、扉が閉められる音を背に、蒼龍は微かに口を歪め笑い始めた・・・。




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