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第三話 出会い

 全員が避難したのを確認すると、龍牙は燃え盛る家々の間を縫い、宮殿に向かって走り始めた。


 ところどころ家屋が倒れ道を塞いでいたが、龍牙は全く意に関さず、その上を飛び越え、ただ一直線に宮殿へと向かった。

「あっ。」

 途中、龍牙は地面に倒れこんでいる人を見つけ、助けようとその人に触れた。

「うっ。」

 だがその身体は周りの火とは対照的に冷たく、そして固くなっていた。

 胃から湧き上がるものを押し戻し、歯を食いしばり足にさらに力を込め、背を向け走り出した。





 それから数分後、宮殿前の広場に龍牙は足を踏み入れた。

 ここから宮殿まで後数分というところだろうか。

 そう思いながら走り出した龍牙の鼻頭に、突然、巨大な黒い物体が飛び出した。

「なっ!?」

 一瞬にして現れたそれは、見上げるほどの巨大な壁だった。


 それを呆然と見上げる龍牙をあざ笑うかのような軽い調子で話しかけてくる声があった。

「おい、坊主。どこに行くんだ?」

 龍牙は数歩下がり、その声のする方へ目をやる。

 すると、その龍牙の視界に捉えられたのはその巨大な壁の上に胡座をかいて座る影だった。

 その影は全く身動きもせず銅像のようにただじっと座っているかと思うと、急に15メートルはあろうかという壁からなんのためらいもなく飛び降りた。

「えっ!?」

 龍牙の手前にそれは激突することもなく、ひらりと軽やかに着地した。

 龍牙はその着地したものの姿を見て、悲鳴を上げそうになった。

 なぜなら、その顔は若い男の顔だが、熊のような毛がびっしりと生えた黒い腕、その先には手の代わりに虎の頭が一つずつつき、体は牛、足は鷹の足という、人間とはかけ離れた体をしていたのだ。

「もう一度聞く。坊主、お前は何をしている」

「あ、・・あ、あ」

 龍牙は驚きよりも恐怖のあまり声が出なくなっていた。

(落ち着け、落ち着くんだ)

 自分にそう言い聞かせるが震えは治まるどころかそれが近づいてくるにつれ大きくなっていった。

「あ、あんたは、誰だ」

 龍牙は震える唇を必死に動かして言葉を紡ぐ。

「俺か?俺の名はスレイター。世界政府の独立治安維持部隊に所属している・・・って言ってもわからねえか。」

「な、なぜあんたみたいな政府の人がこの村にいるんだ。」

「それは、簡単だ。お前らの仲間数人がこちらに寝返ってきたから、この機に一気に制圧しようって話さ。」

 龍牙は驚きのあまり、意味が理解できなかった。

「わかりにくかったか?

 そうだな、簡単にいえば、お前らを『皆殺し』にしようって話だ。」

 その言葉でやっと理解した龍牙は見た、その獲物を見つけた時のような獣の瞳を。

「本当は俺は子供を殺さない主義なんだが、これも命令なんでね。

これに従わないと俺がああなっちまう。

とすぐ横の建物を指差しながら言った。

 そこに恐る恐る龍牙は視線を向けてみると、もとは人体だったのだろう肉の塊が散らばり、あたり一帯血の海になっていた。

 それを見た瞬間、龍牙は何もいえず嘔吐した、先ほどこらえたものを、胃の中のものを全て吐きだした。

 吐き出してきっても、龍牙は何も言えず荒い息のまま、目に涙を溜めていた。

 そんな龍牙にスレイターは近づき、虎の頭のついた右腕を振り上げた。

「悪いが俺のために死んでくれ坊主。」


 龍牙を喰いちぎろうと口を開いた虎の手をスレイターは振り下ろした。


だが、いつまでたってもこない衝撃に違和感を感じ、龍牙が恐る恐る閉じていた目を開けた。

それと同時に龍牙の前にドスッという音ともに、何かが落ちてきた。

龍牙はそれに驚きしりもちをつき、スレイターはその想像を絶する痛みに絶叫をあげた。

「があああああああああああああああ!!」

それはスレイターの右腕についていた虎の頭だった。

そんな怪物と恐怖におののく龍牙の間に颯爽と1人いや1頭の龍が舞い降りた。

「龍人兵だと!?しかもその紋章は、1stクラス!?

今、龍人兵は本隊と攻戦中のはず。なぜ、こんなところにいる!?

それにその背中の青い鎚!?」

目の前に立っている龍にスレイターは長々と吠えた。

「なあに、別の任務についていてたった今戻ってきただけのことだが。」

それに対し、事も無げに流暢にその問いに龍は答える。

「くそっ。」

スレイターは建物の屋根ほどの高さまで飛び上がった。

「今はひくが、次に会う時は覚悟しておけよ。

碧炎の龍 青冥」

翼をはためかせ、言葉を残し南の山の方へと去っていった。

それを青冥と呼ばれた龍は追わずに見届けた後、初めて龍牙に声をかけた。

「大丈夫か、我狼家の坊ちゃん。けがはないか?」

龍牙はその問いに頷き、緊張感がなくなったためか、ぺたりと座りこんでしまった。

その様子を見て安心したのか青冥は鼻から長く息を吐き出し、広げていた翼を体に巻き付けた。

一瞬眩く輝いたかと思うとそこには1人の男が立っていた。

その男は容姿からすると30ぐらいであろう。背が高くがっしりとしたいい体つきをしていた。

それを見た龍牙は、相手の正体よりも先に、


「あの、失礼ですけど、人間、ですよね?」


と質問していた。

質問した後、龍牙は後悔しながらも答えを待った。

すると青冥は吹き出して、豪快に笑い始めた。

「ハハハッ。人間ですよね、か。それは傑作だ。」

しばらく笑った後、腰をかがめ龍牙に話しかけた。

「龍人兵と会ったことがないのか?」

龍牙は首を傾げる。

「いえ、会ったことはありますけど。」

「まだ見せてないのか・・・。なら仕方がないか。」

ゴホンと咳払いした後、

「ああ、俺はれっきとした人間さ。だが、普通の人とは違う。」

青冥は胸を張りながら続けた。

「俺は龍人兵だ。

ちなみに1stクラスだからな。」

胸を張りながら青冥は龍牙に説明した。

「ということは、さっきの能力が噂に聞く龍人化ですか?」

「その通り!どうだ?かっこいいだろ。」

満面の笑みのまま青冥は返した。

それにつられて龍牙も笑いそうになるが、重要なことを思いだして急に走り出そうとした。

しかし、青冥のたくましい腕に捕まってしまい、走り出すことができない。

「おいおい、どこ行こうってんだ。

坊ちゃんが行かなきゃいけない方向は全く逆だぜ。」

「違います。僕は宮殿に行きたいんです。」

龍牙のその答えに青冥は真剣な顔を見せた。

「なぜ、宮殿に行く必要がある。」

「なんでって、龍影様を助けるために決まってるじゃないですか。

早く行かないと、龍影様が」

「ガキがなめた口聞くんじゃねえ!!!!」

『あぶない』と言い終わるまえに青冥に怒鳴りつけられた。

そのあまりの迫力に龍牙は顔を青くして固まる。

「お前みたいなガキが1人行ったところで死体が1つ増えるだけなんだよ。もっと自分の力量を知れ。」

強い口調で言われ、龍牙は

「そんなもの勇気でもなんでもねえ。それは無謀っていうんだ。」

龍牙はその言葉を聞いてやっと冷静さを取り戻した。それを見た青冥は口調を和らげた。

「それにな、攫犀のやつはもう安全なところに避難できている。

だからお前も早く逃げろ。」

もう一度龍牙に笑いかけると、青冥はまた龍と姿を変え、戦場へと飛びたった。

どんどん小さくなっていく青冥の後ろ姿を見送り、龍牙は近くの避難場所の入り口へと走り出した。






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