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第九話 交渉

「私も、あなた方の旅に同行させて下さい!!」

泣き止んだケイミーは、手紙を握り締めたまま、龍牙達に頼みこんだ。

「何故だ?」

鶯劍は内心を探るようにケイミーを見る。

「あなた方と共に旅をすれば、いつかはまたサヴァリス様とあえると思うからです。」

「だけど、安全な所で待っていてくれと頼まれたのならその通りに行動すべきでは?」

龍牙の言葉にケイミーは首を横に振る。

「いつ戻ってくるかわからないのに待ってなんかいられる訳ないじゃないですか!!私はそんなに気は長くないんです!!」

「先生、どうします?」

龍牙が鶯劍の方を見ると同時に鶯劍は口を開いた。

「分かった。許可する。」

「なんだと!?」 鶯劍の言葉に蔦轡は怒りを露わにした。

「敵の罠かもしれない所に行き、さらには、その敵を仲間にするだと!?

ふざけるのもいい加減にしろ!!」

「ふざけてなどいない。」

あくまでも冷静な鶯劍。

「この女は仮にも隊長だ。何か有益情報を持っているかもしれない。ならそれを利用しないのもどうかと思うが?」

「僕も同感です。」

そういう龍牙の横に麗那は並び言った。

「私もそう思うわ。女としてそう思って当然だもん。」

「どういうこと?」

麗那の熱弁に首を傾げる龍牙。

それを見てため息をつく麗那。

「はあ、龍牙はそういうニブキャラな訳ね。」

「に、ニブキャラ?何がさ?」

「はいはい。お子様はシャラーップ。」

「ふふっ。」

やっと心にゆとりが出来たのか、そんな風に言い合う2人を見てケイミーは微笑む。

「そこまで言うならなにか有益な情報を教えて貰おうか。」

蔦轡は言い合う2人をチラチラと見ながら、ケイミーの方を向いた。

「そうですね。じゃあ皆さんは今の帝国の基本方針はご存じですか?」

「いや。」

ケイミーの問いに首を振り、答える鶯劍。

「帝国はこの世界を手に入れるために、聖霊王を手に入れようとしていました。」

「いました。ということは、今は違うのか?」

「ええ、その通りです。聖霊王の力を手に入れにくいと云われる理由をご存じですか?」

「傲慢だとか・・・かな。」

「まあ、それもあります。」

龍牙の答えににこやかに返すケイミー。

「知性が高いからだろ?」

鶯劍が壁にもたれながら答える。

「その通りです。だからこそ思い通りに力を行使できない。

なら、知性を持たない同等の力を持つものを手に入れればいい、そう帝国は考えたのです。」

「確かに筋は通っているな。」

蔦轡の感想に頷き、ケイミーは続ける。

「ええ、だから今、帝国は三段階に分けてこの計画を実行しています。

第一段階は、資源の調達

第二段階は、戦力増加及び城などの軍事施設の増設

そして第三段階は、聖霊王に匹敵するほどの力を持つと言われる『聖獣王』の確保です。」

「ほぉ、で、今はどこまで進んでいるんだ?」

鶯劍はケイミーの説明に感心しつつ、尋ねる。

「だいたい、資源の確保が終盤を迎えているくらいですね。」

「なら、早めにユーラス公国のエステル城に行きましょう。

敵が増えると厄介だ。」

「ああ、そうすべきだな。

まずはそれを終わらせてから次を考えるとしよう。」

龍牙の提案に賛成の意を述べる鶯劍。

「出立は明日の正午としておこう。」

「「「了解」」」

3人声を揃え応える。 「で、いいな、蔦轡。」 鶯劍は蔦轡の方を見やりながら尋ねる。

「・・・好きにしろ。」

「ああ、そうさせてもらう。」










「へぇ、洞窟の中が村になっているんだ。」

周りを見回し感嘆の声を上げる龍牙。

「そんなに珍しい?」

そんな龍牙の顔を覗き込むようにして聞く麗那。

彼らは今、朱雀里の南側の岩山の中にある居住区にいた。

そこは、巨大な縦穴を囲むようにして様々な家屋が10階層に別れて並んでいる。この世界ではここでしか見ることのできないとても奇異な光景だった。

「僕の村にも確かにこんな感じのところはあったけど、あれは避難所だったしね・・・」

「どうしたの?」

「いや。なんでもない。」


心配そうに聞いてくる麗那に笑って応える龍牙。

「そう?ならいいけど。」

まだ心配そうに見ていた麗那だが、一つの扉の前で止まった。

「ここが私の家。ゆっくりしていってね。」

「どこかに行くの?」

「うん。ちょっとね。」 麗那は行き先を告げず走っていってしまった。 だが、龍牙はそれを逆にありがたく感じていた。

(みんな、俺、信じてもいいのかな。)

龍牙は天井のゴツゴツとした岩肌を眺めた。

(同じような匂いがしたからって敵だった人達を・・・)

『いいんじゃないか、信じて。』

「えっ?」

聞き覚えのある声を耳にし、辺りを見回す龍牙。

『ここだよ、ここ。』

龍牙にとって大切な、しかし今はもういないはずの親友達が、巨大な縦穴の脇、そこに並んで立っていた。


全員、上から注がれる月光のせいか、全身が白く輝いていた。

「みんな、なんで?」

『なんで?って、俺らがいたら悪いのか?龍牙』

真ん中にたっている燗耶が口を開いた。

「これは、また夢なのか?」

『夢なわけないよ、龍牙。』

その横にたつ凛華が笑顔で応える。

『ほら、早くこっちに来いよ。』

「今行く!」

龍牙は満面の笑みで、4人に近づき、燗耶の差し伸べられた手を掴んだ。

その瞬間、4人は細かな光の粒となって龍牙にまとわりつき、そして、


消えた。


「えっ?」

龍牙は気づいたら、縦穴の底へ向かって落下していた。

龍牙はまだ状況を把握できず、勢いを殺すなどのことを考える余裕がない。

そんな中、もう後数メートルで底という所で、龍牙の薄れゆく意識の中、落下地点に一つの影がよぎるのを見た。








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