第三話 親子
「すまないが、この里の長と話があるのだが。」 龍牙達は、今、この里の中央施設の受付にいた。
「そのような連絡はきておりませんが。どちら様で?」
受付嬢がぱらぱらとページを捲りながら尋ねた。
「鶯劍だ。長に俺がきたと伝えてくれないか?」
「はあ。」
鶯劍の言葉に半信半疑ながらも従い電話を手に取る受付嬢。
「わたしです・・はい・・すいません、ですがあの、鶯劍となのるお方がこられ・・えっ、あ、はい、分かりました。失礼します。」
受話器をなるべく音をたてないように置いた後、受付嬢は立ち上がり龍牙達に向き直った。
「ご案内します。」
受付嬢の後に従い、通路を進みながら、龍牙は周りの壁などを見回した。
建物の中は、完璧に真っ白に染まっていた。床、壁、ドア、ドアノブまでも全てが真っ白でちり一つなかった。
「相変わらずここは目が痛くなるな。」
軽く目頭を抑えながら歩く鶯劍に視線を移す龍牙。
「先生なんでここはここまで白にこだわるんですか?」
少し周りを気にして小声で尋ねる龍牙に対して鶯劍は普通の声で吐き捨てるように答えた。
「さあな、どうせあのバカの趣味だろ。」
「誰のことですか?」
いやな予感を感じながら尋ねる龍牙。
「ん?この里の長に決まってるだろ。」
そんな龍牙を気にせずはっきり言う鶯劍。
「そんなこと、こんな場所で言っていいんですか?仮にもここ中央施設ですよ。」
「だから、なんだ。そんな考えさっさと捨てろ。ここでは必要ないぞ。それにな、」
周りをより気にし、さらに小声で言うが、全く気付かないいや気にしない鶯劍。
「恐らくお前もそのうち俺と同じ考えを持つと思うぞ。」
「どういう意味ですか?」
「この里の習慣とかとくに見たら吐き気がするぞ。
例えば、ここでは巨大ミミズとかを生で食うからな。」
「な、生ですか!?」
「ああ、覚悟しておけよ。」
鶯劍が冗談めかして話をしめたところで受付嬢の足が1つのドアの前で止まり、
「会長は中でお待ちです。」
とだけ龍牙達に言い残し来た方に歩いて行った。
そのあからさまな拒絶に唖然とする龍牙を尻目に、鶯劍はノックもせずに部屋の中へと入っていった。
「邪魔するぞ」
「ちょっ、先生、失礼ですよ・・・って、ああ!!お前、昨日の!!」
驚くのも無理はない。鶯劍を止めようとして龍牙が見た先には、昨日遭遇した蔦轡がいたのだ。
牙を剥き出しにし、飛びかかろうとしている龍牙に蔦轡は立ち上がり、頭を下げた。
「昨日は申し訳なかった。あの時は娘のことで興奮して、ついあんな事を。本当に申し訳ない。」
「ふん、親バカもそこまで行くと見ていてイタいな。」
「なんだと?もう一度言ってみろ!!」
「ああ。お前の親バカは見ていてイタいと言ったんだが?」
「一度ならず二度までも〜」「お前が言えと言ったはずだがな。」
あまりの呆気なさに拍子抜けする一方、1つの言葉が気になった。
「あの、娘って?」
(もしかして、いやいやありえない、ありえない。そんなことはないはず。 )
「なんだ?お前昨日会ったんじゃないのか?」
(はい、まさかでしたね。)
まじまじと蔦轡の顔を見、昨日会ったその少女の顔を思い浮かべる龍牙。
(うわ〜。どこも似てる気がしないな〜。本当に親子か?)
そんなことを龍牙が考えているとは知らず蔦轡は話を続ける。
「何分、年頃なので最近よく家を抜け出すのでね。
もう私そのたびに不安で不安で。
で、昨日はそれに加え、何か見知らぬ男と一緒にいるじゃないか!!
もう、あの時は殺意がわいてね。
それで、その、あんなことに・・・本当に申し訳ない。」
今度は土下座をする蔦轡に軽くひきながら、龍牙は鶯劍に囁いた。
(なんか、昨日とは全く性格が正反対なんですけど・・・。)
(あいつはかなりの親バカでな、娘っ子のことになると我を忘れるっていう悪い癖があるんだよ。)
(はあ、付き合っててむちゃくちゃ疲れるキャラですね。)
(全くだ。)
「もう頭を上げて下さい。もう、そんなに怒っていませんから。」
流石に、ずっと土下座させる訳にもいかず、頭を上げるように言う龍牙。
「だが、」
まだ土下座を続けようとする蔦轡に、龍牙は奥の手を使った。
「そのままでは、話ができないのでこちらとしては困るんですけど。
それに娘さんに今、白い目で見られていますよ。」
「な、なにっ!?」
見れば、龍牙の後ろに、整った小さい顔に茶髪のミディアムヘアー、細い体は、この時期にぴったりのワンピースを着ていた。
その大きな瞳は、常ならとても可愛さをアピールするのだろうが、今はそれは蔦轡を射殺す兵器と化していた。
「パパ、なにやってるの?」
蔦轡殺害兵器(据わった目に+眉間にシワ&こめかみがピクピク)の放出量をMAXにしたまま、麗那は蔦轡に近づいた。
「言ったよね。人様に迷惑をかけるなって。」
「いや、パパはね、ただ昨日のことを誠心誠意謝っているだけなんだよ?」
額に汗を滲ませながら弁解する蔦轡。
「それが、迷惑かけてるっていい加減気づきなさい!!!!!」
「ぐふっ!!」
麗那の怒号とともに、神速の右のローキックが蔦轡の脇腹を捉えた。
「うわ〜。」
麗那に蹴り飛ばされ、痙攣しながら気絶している蔦轡を見て、龍牙は哀れみを感じてしまった。
(バゴッ!!!って音したけど大丈夫かな、あの人。)
「なあ、麗那ちゃん。」鶯劍が恐る恐る麗那に話かける。
「なんですか?」
さっきまでの不機嫌さはどこにいったのかと言わんばかりににこやかな麗那。
また、怒り狂うのを恐れているのか、なにも言わない鶯劍に変わっておそらくこう言いたいのだろうと予想して龍牙は言った。
「いや、俺達、君のお父さんに話があったんだけど、あれじゃあ話できないな〜と思って。」
その言葉にすぐさま後ろを向き、泡を吹いている蔦轡を確認し、かぁーと赤面する麗那。
「す、す、すいません。私、ついついいつもみたいにパパを蹴り飛ばしてしまって。本当にすいません。」
蔦轡同様に何度も頭をさげる麗那を見て、
(ああ、やっぱり親子なんだな)
としみじみ思う龍牙だった。