表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/140

第二話 渓谷の中で

「『神雀』を渡せだと?

はっ、笑わせるな。

なにが悲しくて村から『あの()』を、しかもお前らのために手放す必要がある?」

馬鹿にするように笑う蔦轡。

「あるとしたら、」

それに対して、鶯劍は冷ややかにつぶやいた。

「なに?」

「あるとしたらどうする?」

鶯劍は気絶した龍牙を両手で抱えながら振り返った。

「お前の悪い癖だ。自分が見えるところにしか興味がない、いや考えられないのはな。」

「なんだと?鶯劍、お前は俺を馬鹿にしてるのか?」

鶯劍の言葉に苛立った蔦轡が吠えた。

しかし、それに負けず劣らずの大声で鶯劍は怒鳴り返した。

「なら、周りを見ろ!!

分かるか?今、世界は変わろうとしている、それもとてつもないスピードでな。」

鶯劍はそこから少しトーンを下げ、諭すように話した。

「分かるか?今、その混沌の渦の中心にあるのが、」

鶯劍は蔦轡の目をしっかりと見据えた。

「あの娘であるということを。」

バキン

蔦轡の立っている地面に亀裂が走った。

「なん、だと」

憤怒の形相で睨んでくる蔦轡に全く動じず鶯劍は繰り返した。

「この変動を完了させるのに必要なんだよ。

南北の2つの珠、そして、『四神』がな。」

「な、ならばなおさら迂闊に里から出すわけにはいかない。」

「ほう、ならここであの子を守り抜けるのか?」

「そ、それは。」



言葉が出て来ず、俯く蔦轡。

「お前はいいのか?強大な力を手に入れるためだけにあの娘が無惨に殺されるということに。

いや、もしかしたらそれ以上に、この里で行われていた『あのこと』が表沙汰になったらマズいかもな?」

 鶯劍は蔦轡に背を向け、飛び去ると同時に言った。

「ま、なんにせよ、お前の娘さん次第だ。」





岩から岩へと飛び移りながら眠っている龍牙に話しかけた。

「それにしても、お前はなんでいつも何かの力に目覚める度に暴走するんだ?嫌がらせか?」

その問いに答えが返ってくるわけもなく鶯劍はため息をついた。

「少しはそれは抑える側の身にもなってみろ、全く。」

ホームに戻り、龍牙を寝かせながら鶯劍はさらに呟く。

「だけど、あれだけ言われたらいくら温厚な龍牙でもキレるか・・・。だけど、やはり、」

 安らかに寝息をたてている龍牙の顔を見て、ふとさっき感じた違和感について考える。

(あの感じ、龍牙が記憶にないと言っていた、政府軍を全滅させた時に似ていた気がする。)

鶯劍も龍牙の横に寝袋を持ってきて、寝転んだ。

(だが、今回はまだ自我を保っていた。つまり、力に『慣れて』きたのか?)

龍牙の顔をもう一度見る。

まだ幼いこの体に一体いくつの悲劇に出くわしたのだろうか。何人もの人の死を見てきたのだろうか。


(ふっ、こいつはこいつ。俺にとって、弟子以外の何者でもない。もうこれ以上考える必要はない、か)

鶯劍はそこで思考をやめ、来たるべき明日のために目を閉じた。




 次の日の朝、適当に朝食を取った後、龍牙達は東へ向かって歩き始めた。

「そういえば先生、」

そんな中、龍牙が急に鶯劍に話しかけた。

「ん?」

「あの後ろをつけていたヤツの気配が昨日までなかったはずなのに、今日はありますね。」


龍牙は頭は動かさず目だけで鶯劍を見た。

「ああ、そうだな。」

「あれ?気にならないんですか?」

鶯劍の反応の薄さに戸惑う龍牙。

「はっきり言って、今はそれよりもあの鳥達の村がな、その、苦手というか」

珍しく歯切れの悪い鶯劍に龍牙はため息をついた。

「つまり、嫌いだから本当は行きたくないということですね。」

「うっ。」

はっきりと言われた鶯劍はがっくりと肩を落とした。

「お前も行けば分かるぞ。」

「へっ?」

鶯劍の呟きは龍牙の耳には届かなかった。




1時間ほど歩きやっと龍牙達は村の入り口に着いた。

「そういや先生、この村ってなんて言うんですか?全くこの近辺に村がないんですけど。」

龍牙が地図を見ながら尋ねると、鶯劍はその質問に顎に手を当て考えた。

「さあ、何なんだろうな。」

「はい?」

「実は、俺も知らないからな。」

「だけど、前に来たことがあるって。」

龍牙は前に鶯劍が何度か訪れているのを聞いていたのだ。

「ああ、4回来たことがあるが、4回が4回とも名前が変わってたんだ。」

「つまり、毎回コロコロ名前が変わるから分からない、と。」

「まあ、そういうことだ。」

「 そりゃあ地図にも書くわけないか。地図に書いている途中で名前変えられたらその地図自体がぱーになっちゃうだろうし。」

そんなことを話しながら龍牙達は村の中へと入った。

門のところで衛兵に睨まれたが気にかけることもなく真っ直ぐ一番大きな建物に向かって歩きだした。





「村の中に入ったか。」岩陰に潜みながらそう呟く影があった。

「向こうも薄々感づいてきたみたいだし、そろそろやるかな。」

その影は鮮やかな赤色の唇を歪ませて微笑んだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ