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第二話 修行?

「あの~、先生。失礼ですが、ボケました?」

「お前、それが師に対する口の聞き方か?」

「だって、こんな雨の中、濡れずに歩くなんて不可能じゃないですか。」

龍牙は外を指差しながら言った。

「百聞は一見に如かず。まずは見てみろ。」

鶯劍はそう言い残し、外へと歩き出した。

土の家の入り口から5メートルぐらい離れたところで立ち止まり、家の中へと戻ってきた。

「ええっ!?なんでどこも全く濡れてないんですか?」

だが、あれだけの雨にうたれたはずの鶯劍の体は全く濡れていなかった。

「いったいどうやったんですか?」

驚きの表情のまま龍牙は尋ねた。

「理屈は簡単でな、ただ冥力を体に纏うだけだ。」

地面に軽く図を書く鶯劍。

「だがな、ただ纏うといってもちゃんと練った冥力を薄い衣のように纏わなくてはならない。

龍牙、お前は確かまだ部分変化ができなかったよな?」

「・・・はい。」

龍牙は俯きながら答えた。

「なら、なおさらこれをやる必要がある。これは部分変化の1つ前の段階で、『絶障壁』というものだ。

本来これは相手の攻撃から身を守るための技なんだが、龍人兵にとってみれば、これができないと話にならないからな。」

「なんでですか?」

「龍人兵が得意とする部分変化は自分の変化させたい部位に冥力を纏い、さらにそこに契約した龍の力を注いで初めて可能となる。

つまり、これができなければ一人前の龍人兵とは言えない。」

「そうなんですか・・・」

「まあ一度やってみろ。」

鶯劍の言葉に、龍牙はしぶしぶ、冥力をコントロールし始め、自分の体を包み込んだ。

「行きます!!」




「へっくしょん!!寒っ。」

龍牙の一回目のチャレンジは、最初のうちはなんとか凌げたが、時間とともに効力は薄れ、頭から滝のような大雨を浴びた。

その後も何度か試してはみたが、ただ時間が数秒のびるだけで、それと言った成長は見られなかった。

「なんで上手くいかないか分かるか?」

「いえ。ただ、」

「ただ?」

「結構な量の冥力を注いだはずなんですけどね。

量が逆に多すぎて、コントロールができなかったのかな?

それとも根本的に足りないのか。う~ん。」

頭を抱えて悩む龍牙に苦笑しながら鶯劍は口を開いた。

「まあ、正解、だな。

お前は無駄に力を注ぎ込みすぎなんだ。

もっと量を減らし、その分できる限りそれを薄い紙のようになるまで圧縮しろ。

俺が言えるのはそれくらいだな。」

ブスッとした顔の龍牙に背を向けた。

「とりあえず、体を拭いて、今日は寝ろ。」

「・・・はい。」

龍牙は小さく頷いた。




夜中、鶯劍はペタペタという音に目が覚めた。

横を見ると、すぐ横に寝てるはずの龍牙の姿がなかった。

音のした入り口の方へと目を向けると、髪の毛から服から水滴を滴らせながら立っている龍牙が目に入った。

鶯劍はそれに軽く微笑みながら、瞼を閉じた。




次の日の朝、龍牙はガサガサという音に目が覚めた。

体を起こし、自分の体を見て違和感を覚える。

「なんで服が乾いてるんだ?」

「感謝しろ。わざわざ周りの湿度を下げて乾かしてやったんだからな。」

「えっ?」

視線をめぐらすと鶯劍が家の中央で火を起こしているのが見えた。

「寝る間を惜しんでの修行をやめろとは言わないが、すこしは限度を考えろ。」

「はい・・・、すいませんでした。」

素直に謝る龍牙。

「まあいい、とりあえず早く荷物をまとめて出るぞ。今日中には街に行きたいからな。」

「はい。」




30分後には2人はまた歩き始めていた。

その道中も龍牙は腕などの部分に冥力を纏う練習を忘れなかった。


「ん?見えてきたな。」緩やかな丘の上から見下ろすと、その先には商業都市として有名なだけはある賑やかな大きな街が見えた。

「へえ、大きな街ですね。」

身を乗り出して眺める龍牙。

「おい、もう行くぞ。」

「あ、はい。」

丘を2つ越えるとカリウスの門まで一直線の、脇には木々が生い茂っている道にさしかかった。

「先生。」

龍牙がこそこそと鶯劍の方を見ずに話しかけた。

「ああ、どうやら、後ろのやつとは仲間ではないらしい。

全く、目障りな奴らだ。」

そこへタイミングをあわしたかのように、鶯劍の言葉が終わるとともに8つの影が龍牙達の前に立ちはだかった。

「盗賊か、全く相変わらずこの街の周辺の治安は悪いな。」

1人が鶯劍に踊りかかった。

しかし、それよりも前早く、その男の腹に龍牙の拳がめり込んだ。

殴られた男は眼球が飛び出さんばかりに目を見開き突っ伏す。

その横で鶯劍は肩をすくめながら言い放った。

「こいつみたいになりたくなかったら、さっさと俺達の前から消えろ。

じゃないと、お前ら、死ぬぞ。」

サングラスの奥にある瞳をぎらつかせ鶯劍は告げた。

しかし、さすがと言うべきか無謀というべきか、盗賊は一気に手に持った武器を降りかぶりながら突っ込んできた。

「先生。」

「なんだ?」

「こいつら全員もらっていいですか?試したい技があるんで。」

「ふん。まあいい。」

「ありがとうございます。」

鶯劍は一歩後ろへ下がると同時に龍牙は背中の機械剣を引き抜き、両手で支えて1人の攻撃を受け止めた。

「『駁龍刃(ばくりゅうじん)』」

その次の瞬間には、その男は右肩から左足にかけて深く斬りつけられ、その周りもまた無数の斬撃に切り刻まれながら後方の木に激突した。

「『罵空波』(ばくうは)」

間髪入れずに、龍牙はその言葉を紡ぐと、一拍遅れて切りかかってきた長髪の男が吹き飛んだ。

その腹には丸い窪みができていた。

次の攻撃のために、龍牙は機械剣を地面に突き立て、残り5人に真っ正面から突っ込んでいった。

盗賊達も流石に頭を使ったのか、左右2方向から同時に鉄鞭を振るった。

しかし、それを龍牙は受け止めることはせず、跳躍し難なくかわすと、そのまま高く跳んだ。

空中で体を反転させながら拳を握りこみ、それを地面にいる2人へと打ち出した。

すると、その2人は急に地面に倒れこみ、全身が地面にめり込んだ。

それは冥力によって圧縮された空気を打ち出す、『気功波』という技だ。

その腕の反動を使い、地面に足が着く前に体をひねり、横に足を蹴りだした。

それは、空気を切り裂き、前にいた3人を巨大な斬撃となって襲った。

『空牙』(くうが)と呼ばれる、気功波同様に、白狼村では割とポピュラーな技である。

「ひ、ひぃ。」

先ほどの『空牙』を受けながらもリーダー格らしい女は、はいつくばりながら逃げようとしたが、その顔に黒い影がかかった。

「お嬢さん、悪いが話し相手になってくれないか?」

それは、女の目の前に立つ口だけが笑っている鶯劍のものだった。

「率直に聞こう。誰に頼まれた?」

しかし、女は口を固く閉ざし、答えない。

「何も言わないか。じゃあ仕方がないな、お前の仲間の命をもらうとするか。」

その言葉に女は目を丸くした。

鶯劍は刀を抜き、近くに倒れる男の首に当てた。

「もう一度聞く。誰に頼まれた」

女は目に涙をため唇を噛み締めた。

「そうか・・・。

参ったな、俺の負けだ。無駄な殺生はしない主義でな。」

鶯劍は刀をしまい、両手を上げた。

「おい、行くぞ。」

「はい、先生。」

2人は投げ出した荷物を持ち、門の方へと歩き始めた。

すると、2人の後ろからあのリーダーの声がかかった。

「あんたたちは、誰かは言えないけど、狙われている。

あいつ等は異常すぎる。気をつけたほうがいいよ。」

「そうか。ありがとうな。」

鶯劍はひらひらと手をふりながら歩いた。

龍牙はぺこりと頭を下げ、何事かを呟いていった。

「ふふっ。あの子、お元気でって言ってたわね。私もできればそうしたいけど、どうやら無理みたいね。」

目の前には足下まである黒いコートを着、フードをかぶった依頼主『だった』ものが立っていた。

「あんたら、最後にもうひと暴れするよ!!」

「おう!!」

駆け出した瞬間、8人を巨大な雷が呑み込んだ。







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