第六話 告白
村の中央にある広場には大きな人だかりができていた。
「今日、このような場を設けたのは皆も知っているであろう。」
その中心では1人マイクを通して話している者がいた。
それは、正装で身をつつんだ攫犀であった。
「今、新たな龍王に仕える勇者が誕生した。」
攫犀は大きく手を広げ、宣言するかのように言った。
「その者の名は、我狼龍牙!!」
その言葉に広場にいる観客達から歓声が湧いた。
「おおっ」
と、どよめくのもいれば、
「なんであんなガキが、」などと毒づく者も中にはいたが、どうやら大半はこのことを喜んでいるようだ。
「では、龍牙上がってきてくれ。」
そう攫犀は下に向かって声をかけた。
その声の先にいたのは、緊張のあまり体がカチコチに固まってしまっている龍牙だった。
「ひ、ひゃい。」
普通の返事ですら噛んでしまう龍牙に苦笑しながら攫犀は龍牙を誘導した。
ガタンと音をたてて椅子から立ち上がり、右腕と右足を同時に出しながら龍牙は舞台に上がった。
階段を上がりきった瞬間、観客からの歓声は3倍以上に膨れ上がった。
「これより新たな龍王の使いとなった我狼龍牙に話してもらう。」
そういい残し、攫犀は舞台袖にさがった。
マイクの前に立った龍牙は背中に嫌な汗をかいていた。
観客達は、静まり返り龍牙の言葉を待つが、いつまで経っても話し始めないことにざわめき始めた。
「おい、龍牙。」
舞台袖からひそひそ声で呼びかける攫犀を無視し、龍牙は深く息をついた。
龍牙は悩んでいた。
それでも決心したのか、龍牙は顔を上げ、口を開いた。
「僕はまず皆さんに謝らなくてはならないことがあります。」
その場にいた者はほとんど怪訝な顔をした、ある2人を除いて。
「この度の戦、これだけの被害を村に与えた原因は、
俺の父親です。」
そのあまりにも衝撃的な発言をした龍牙自身は、観客から罵声を浴びせられると思っていた。
だが、なぜだかいくら待っても何も起こらない。
「そんなこと、みんな知ってるぞ。」
そんな龍牙に向かって観客の中から声が上がった。
それに合わせ、そうだ、そうだ、といたるところから声が上がった。
「なら、なぜ俺のことを祝福してくれるんですか!?
この裏切り者の息子に!!」
龍牙は心底信じられないと言わんばかり声を張り上げた。
「だからなんだよ!!」
「そんなのお前には関係のないことだろ!!」
何百人という観衆から返ってくる言葉を龍牙は素直に受け止められなかった。
「だけど、俺は・・・」
「龍牙、もういいじゃないか。」
いつの間にか龍牙の後ろにいた攫犀が龍牙の肩に手を置いた。
「お前は何も悪くない。やったのは蒼龍達だ、お前ではない。
それに、お前は最後の最後まであいつらを連れ戻そうとして、我を失いながらも村を救ってくれた。それで十分だろ?」
その言葉に感極まったのか、龍牙は堪えきれずに泣き出してしまった。
泣きながらも龍牙は呟いた。
「あれは、村のためなんかじゃ、ない。あれは、俺の、みんなを守りぬけなかった、自分への、怒りなんだ。」
そんな龍牙にハンカチを渡しながら攫犀は呟き返した。
「それでも私達を守ってくれたことには変わりはないだろ?」
龍牙の肩に手を回し観客の方へ目を向けさせる。
「周りを見てみろ、誰もお前を責めてなんかいない。」
龍牙は言われた通り、観客もとい村人達の方を見ると、
「我狼龍牙、ばんざ~い!!」
「いいぞ、泣け泣いちまえ。」
「かわいいよ~。」
「頑張れ~。」
皆、笑っていた、あんな地獄を目の当たりにしたのに。
龍牙は、現実逃避か、と思ったがすぐに、違うと思った。
彼らは強いのだ。
あれだけの惨劇を体験しながらも、強く、前を向いて生きようと思って生きているのだ。
「全く、かなわないな。」
ぼそりと呟き、深々と龍牙は頭を下げた。