第五話 秘密
「もう、6時間か。
おい、攫犀。あいつはいつ帰ってくるんだ?
もういい加減待つの飽きたぞ」
胡座をかいていた青冥が仰向け寝転がった。
「青冥、いい加減攫犀さんに対する態度を直せ」
それを冷ややかな目で見る叢炎が咎めた。
そんな2人を苦笑しながら見ていた攫犀は口を開いた。
「まあ、仕方がないよ。誰だって待つのはいやだからな。」
視線をまた祭壇に戻しながら呟いた。
「しかし遅いな。前は1時間くらいだったはずだが・・・。
まさか、何かあったのか?」
悶々とそんなことを考えていると、神殿の中央にある祭壇の中心に突如として光の柱が出現した。
「やっと、勇者様のご帰還ってか」
青冥は起き上がり、攫犀の横に移動した。
「全く、後で炙ってあげましょうか」
叢炎もそれに続き青冥とは反対側に立つ。
その間にも光の柱は少しずつ薄れ、中にいるものが出てきた。
それを見て、3人は何か違和感を覚えた。
「龍牙、だよな?」
「何言っているんですか?龍影様。
たった1時間で俺の顔を忘れたんですか?」
その昔から聞き慣れた声に攫犀は安心した。
龍牙は、消えた時と全く同じ姿でそこに立っていた。
だが、それから放たれている気配はとてつもなく濃いものへとなっていたのだ。
「さっきの刀はどうした?」
龍牙の周りにあの巨大な青龍円月刀が見当たらない。
「ああ、それならここにありますよ」
龍牙は右手を自分の首に下がっている銀色の破天石を弾いた。
するとその石は輝き始め、次の瞬間、龍牙の右腕にはあの巨大な青龍円月刀『旛龍』が現れていた。
「ああ、もう教えてもらったのか」
「ええ」
「そうか、ならいい」
攫犀は龍牙に笑いかけながら言った。
「それじゃ、帰るか」
「はい!!」
そして、龍牙達は神殿を後にした。
龍牙はその晩は、家へは帰らず、攫犀の宮殿に泊まった。
試験の疲れからか食事もとらず、龍牙はすぐに死んだように眠った。
「ぐっすり寝てるな」
それを見計らい攫犀は、龍牙の中から旛龍を取り出し部屋を出た。
自分の部屋に着くと椅子に腰掛け、その前の椅子に刀を置いた。
「神龍。あいつはどうだ?」
(若き村の長よ・・・、奴は一体なんなのだ?
あんな奴は見たことがないぞ)
「なにがあった?」
(今、見せる)
旛龍は輝き始め、その柄の先にある龍がくわえている珠から光が一筋、攫犀の額へと伸びた。
それは『流思の糸』と呼ばれる、他の者に自分の見たものを見せる能力であった。
その映像を見終えた攫犀の口から言葉が零れた。
「ありえん」
(私も自分の目を疑った。
だが、私を打ちのめしたあの力、間違いない、あやつは『私』だけではなく何か別のものを感じる)
「だが、普通、龍と契約した者が他の聖霊と契約すると死ぬはずでは?」
(つまり、それほどやつはイレギュラーな存在ということだろう。)
「そう・・ですか」
(全く恐ろしい存在だなやつは)
「なんだか嬉しそうですね」
(ああ、楽しくて仕方がない。
やはり長生きはするものだな)
「では、これから先、龍牙をお願いします。」
(ああ、何百年になるか分からんが引き受けよう)
「ありがとうございます」
(では、帰るとするか)
「では、よい旅を」
(うむ)
旛龍は鋭い閃光とともに目の前の椅子から消えた。
「さて、どうしたものか。」
次の日の朝、広いリビングで、攫犀と龍牙は食事をとりながら話していた。
「今日から龍牙、お前を鶯劍様に預けることにする」
その突然の切り出しに龍牙は全く驚かなかった。
「分かりました。で、鶯劍さんはどこに?」
「もうすぐ来るだろう」
そういうと、窓から部屋の中へと強風が襲った。それは、龍牙と攫犀の丁度真ん中で、木枯らしをおこし、その中から鶯劍が現れた。
「これはまた派手な登場で」
「ふん」
攫犀の皮肉に対し、鼻を鳴らしながら龍牙に近づき、手を差し出した。
「俺は鶯劍。一応『赤袴の鬼神』と呼ばれている」
差し出された手を握り、龍牙も答えた。
「我狼 龍牙です。これからよろしくお願いします、先生」
「ああ。出立の用意は?」
「できてます」
「なら、すぐに広場に行くぞ」
「はい!!」