第四話 試験3
「そろそろだな。」
時計を見ながら呟く攫犀。
「龍牙、祭壇に上がりなさい。」
「はい。」
やっとかと龍牙は軽く伸びをした。
そんな龍牙の両足が祭壇上に揃うと同時に眩い光が龍牙を包んだ。
攫犀達はそのあまりにも強すぎる光量に、手をかざし、目を瞑らずにはいられなかった。
光が弱まり、攫犀達がそこを見た時には、
龍牙は消えていた。
「くっ」
霞む視界の中、痛む頭を抑えながら龍牙は起き上がった。
「ここは?」
周りは濃い霧が覆っているため、龍牙は自分が今いる場所がどこか全く分からない。
ただ龍牙が分かるのは、いつの間にか先ほどまでいた石造りの床ではなく、土の上にいるということだ。
「これが第三の試験会場てことか。まったく、なにをすればいいんだ?」
そんなことをぶつぶつ言いながらも、龍牙は歩き始めた。
だが、霧はとても濃く、1メートル先ですら全く見えないほどだった。
とぼとぼ歩いていると龍牙は何か壁のようなものにぶつかった。
「ぶっ!?あれ?」
その壁に触れてみると、それはほのかに温かく、表面はとても硬いが、弾力のあるような、変わった壁だった。
龍牙は訝しみ、ぺたぺたと触っていると、その壁が急にもぞもぞと動いた。
「?」
尚も触り続けていると、大きな音をたてながら突風が巻き起こった。
そのあまりにも強い風に、龍牙は周りの霧と共に吹き飛ばされた。
地面にうつぶせになってしがみつきながら、風によって晴れた霧の先に見たのは、鼻をムズムズさせている巨大な龍だった。
「な!?」
(よくぞ来た、我が新たな主となるべき者よ。)
「えっ?」
耳からではなく、頭の中に直接語りかけてくる声に龍牙は驚いた。
「誰だ、お前は!?どこにいる!?」
(我が名は『・・』)
「今、なんて言った?どこだ、どこにいる!?」
(まだ聞こえぬか。仕方があるまい。)
「何を言っているんだ。どこにいる!?出てこい!!」
(先から前にいるのだが?)
「え!?どこにもいないだろ。」
(だから、前にいると言っている。)
「まさか・・・」
龍牙は目の前にいる龍を見た。
「お前なのか?」
「その通りだ。」
「うぉっ!?」
突然、頭ではなく空気を震わすその声に驚いた。
「つまり、あんたが第三試験の試験官ってわけだよな?」
(そういうことになるな。)
「で、俺は何をすればいい?」
(我を倒せ。)
「は?」
とんでもない答えに龍牙は呆れた顔をした。
(何も、驚くことではあるまい?力が欲しいならまず我を従えてみせよ。)
「だから、なんで俺があんたを従えなきゃいけないんだ?なんの関係もないのに。」
龍牙は少しイラつきながら尋ねた。
(関係はある。なぜなら、私が『神龍』そのものだからな。)
その言葉に龍牙は目を丸くした。
「あんたが、俺の中に宿る『神龍』なのか!?」
(そうだ。よって、お主が力を欲するのであれば、我を従えよ。さすれば、力を授けよう。)
「分かった。つまりあんたを倒して服従させろということか。
なら、さっさと始めよう。」
(ああ、いいだろう。
ルールは簡単だ。相手に致命的ダメージを与えた、または相手が負けを認めた時点で終了だ。
忠告しておくが、私はいいが、お主は死ぬかもしれぬぞ。)
「かまわない。死ぬ気なんてさらさらないからな。」
龍牙は、先ほど手に入れた刀を構えた。
「いくぞ!!」
(来い。)
龍牙は、いきなり真っ正面から突っ込んで行った。
神龍は、それに対し、巨大な鱗を龍牙に向けて打ち出し、龍牙の動きを止めようとする。
だが、龍牙はほぼ真上から降ってくる巨大な刃を直角に横によけた。
激しく鱗が地面に突き刺さる音を横に、龍牙はまた突撃を始めた。
(まずは、距離をつめなきゃ話にならないな。)
今度は、さっきとは違い、蛇行して、飛んでくる鱗をくぐり抜ける。
「はああっ!!」
構えていた刀を横へ一閃して斬撃を放つ。
だが、それは神龍の堅固な鱗の前に霧散した。
「くっ」
龍牙はさらに加速し、龍との距離をつめようとするが、その瞬間、 目の前から大量の剣が龍牙目掛けて突き出された。
「!!?」
龍牙はとっさに後ろに飛ぶが、何本かの剣に身体のあちこちを浅く切り裂かれた。
その時、攻撃を受けながらも神龍のいる方へ目を向けた龍牙は気づいた、
さっきまでそこにいたはずの巨大な龍の姿がないことに。
「しまった!!」
体勢の悪い状態のまま、後ろを見ようとする龍牙の目に入ってきたのは、迫り来る巨大な拳だった。
ドゴオオォォン
巨大な拳は派手に土を舞い上げた。
「やはりしょせんは子供、か。まだまだだな。」
神龍は珍しく口から言葉を吐き出しながら打ち出した腕を引こうとした。
が、なぜかそれはびくともしない。
神龍は自分の拳の先端に何かが触れているのを感じ、 風を巻き起こして舞い上がった土を吹き飛ばす。
すると、そこに見えたのは、無傷のまま立っている龍牙の姿だった。
そしてその左腕は神龍の拳の先を掴んでいた。
神龍もそれに気づき、また、力一杯引っ張るがびくともしない。
そんな中、龍牙の見開かれた銀色の右目が紅く輝き始めた。
次の瞬間、
神龍の右肩の部分がごっそりとなくなっていた。
(ぐっ。まさか、このタイミングで開眼するとは!?
しかも『竈滅眼』とはな。)
神龍は左手で傷口を軽く抑える。
(だが、まだ甘い!!)
神龍は周りに飛ばしていた鱗から大量の炎弾を打ち出した。
だがそれは、突然出現した氷の壁によって阻まれてしまった。
「なっ、なんだと!?」
あまりの驚きのせいか、神龍は無意識の内に声を上げていた。
その氷の中心にいる龍牙の左目は碧色に輝いていた。
「『竈烈眼』も同時に開眼しただと!? 」
神龍は、がらにもなく叫んでいた。
「俺にはな」
(!?)
そんな神龍に龍牙は呟いた。
「俺には、やらなきゃならないことがあるんだ。」
体中についた埃を払い立ち上がる。
「だから、こんなところで立ち止まってる暇なんかないんだよ!!」
そう叫ぶと、龍牙はまた動きだした。しかし先と何かが違う。
さっきまではただ距離をつめ、決定打をあてるために突撃していた。だが、今度はそうではない。
龍牙は、神龍を中心に円を書くように走り始めた。
そして、少しずつだが、確実に距離を詰めていく。
その龍牙のあまりの速い動きに木枯らしが発生し、土を舞い上げた。
神龍はそんな龍牙を捉えようとするが、舞い上がった土と龍牙のスピードのせいで、全く触れることすらできない。
龍牙はそのまま何回も回り続けながら、さらに神龍への距離をつめる。
その竜巻が神龍とぴったりと同じ大きさになったとき、龍牙はついに攻撃を開始した。
まずは、その竜巻の中を風の流れに合わせながら、縦横無尽に飛び回り、お返しと言わんばかりに神龍の体に切り傷をつけていく。
神龍もそれを防ごうとするが、あまりにも大きすぎる表面積のせいで、全く防ぐことが出来ない。
そんな神龍の意識が逸れた一瞬の隙をつき、龍牙は神龍の上空へと跳び上がった。
空中で体勢を整えながら背中にある機械剣を左手で抜刀し、その二本に大量の冥力を注ぎ込む。
すると、どこからか龍牙の周りに何十という両刃の大剣が出現した。
龍牙は二本を交差し肩に担ぐと、一気に神龍へと降下し、振り抜いた。
龍牙の手の中にある二本の大刀は易々と神龍の鱗を切り裂き、
機械剣は翼を切り落とし、青龍円月刀は神龍の本体を縦に一刀両断する。
浮遊していた大剣達は、華麗にしかし冷徹に、切り落とした翼や本体をバラバラに切り裂いた。
その嵐のような攻撃で、勝負は決まった。
龍牙は機械剣を背中に収めると、近くの岩に腰かけた。
そのまま地面に青龍円月刀を突き立て、ため息をついた。
「おい、もういい加減出てこいよ。」
「ばれていたか」
近くの岩の影から出てきたのは先ほどまで闘っていた神龍だった。
だが、何故かその体積は先ほどのとは比べものにならないくらい小さい。
その小さい翼を羽ばたかせ、龍牙の膝の上にちょこんと座った。
(いつから気付いてた?)
「最初からだ。あれだけのでかさで、俺が気づかない訳がない。
だからあれは偽物だって気付いたのさ。
まあ決定打は、戦闘中の高速移動、あの時だな。」
(龍が高速移動してもおかしくないだろう?)
「そうじゃない。あれだけのでかさのものが高速移動して、風が起こらない訳がないんだよ。」
証明は終了だと言わんばかりに龍牙は肩をすくめた。
(ああ。そういうことか。なるほど)
どこからかメモ帳を取り出し器用に4本の指で鉛筆を持ち、メモし始めた。
「あのさ、早く帰りたいから、約束通り力をくれよ。」
(分かっている。そう急ぐな。)
そう言うと神龍は空中で勢いをつけると、龍牙の胸へと飛び込んだ。
それは、何の抵抗や痛みもなく、易々と龍牙の中へと入っていった。
(これで契約完了した。これよりお主が我の主だ。)
すると、龍牙の横に突き立てていた青龍円月刀が輝き始めた。
(我の意志はこの刀に宿しておく。これで、覇剣の完成というわけだ。)
その刀は今までの虚脱感がなくなり、生き生きしているように龍牙には見えた。
(主よ。願いが3つほどある。)
「なんだ?」
(一つはこの力を悪用しないこと。)
「そりゃあな。」
(もう一つは、怒りに任せて、力を使うな。)
「ああ、誓う」
(そして、最後の一つは、これで仲間を守り抜いてもらいたい。)
「勿論、守り抜くさ。そのために欲した力だからな。
なあ、俺からも一ついいか?」
(なんだ?)
「頼むから、主じゃなくて、龍牙って呼んでくれよ。」
(分かった、龍牙よ。)
「ありがとな、神龍。」
(神龍とは呼称。我の名は旛龍だ。覚えておくよう。)
「旛龍か。まあ、よろしくな、相棒。」
(お手柔らかにな。)