第二話 試験1
鉄 叢瞑は白狼村において、いや、南大陸のほとんどを占めるヒドゥン国内最強部隊とまで云われる、龍人兵の1stクラスに属していた。
その容姿は、黒髪の頭に赤い布を巻き、龍牙と似たような黒いシャツやズボン。さらには、足の先まであるマントを羽織っているという鉄という名に相応しい服装だった。
そんな中で一際目を惹くのは、腰に差している日本刀の柄の先端にある紅い竜頭である。
「そっちこそなんだ?
それが命の恩人対して言う言葉か?」
どうやら、中身は名前ほど暗くはないようだ。
「どういう意味ですか?」
「とぼけやがって。さっきの野郎、後ろ手に銃を構えてたんだぞ。それを俺が阻止してやったんだから感謝しろよ。」
龍牙の肩に腕を回しながら軽い調子で話す鉄。龍牙はそれに目もくれずその手を払いのけた。
「だけど、よくすぐに俺だって分かったな。気配消してたのによ。」
その手をさすりながら鉄はどっかりと近くの瓦礫には腰かけた。
「やっぱり、戦闘時のお前の集中力の前からは隠れきれないか。」
その言葉に龍牙は驚いた。
「気づいてたんですか?」
鉄はやれやれと言った感じで口を開く。
「2年間もつるんだら流石に気づくっての。
特によ、お前の戦闘中とじゃ言葉使いがかなり変わってるんだぞ。
普通の時は年相応の話し方なのに、戦闘に入るとまるで大人みたいな話し方になってるから気をつけろよ。」
「なんでですか?」
「それが弱点になっちまうからだろ。」
立ち上がり、マントをはためかす。
「だけどそれは今日中に治ると思うぞ。」
「そりゃあ言葉使いくらいすぐに・・・」
「違う、そういう意味じゃあない。
常時その状態でいれるようになるって言ってるんだよ。」
宮殿の方を遠目に見ながらそう言う鉄に龍牙は違和感を感じた。
「どういう意味ですか?」
「まあ、それはお楽しみと言うことにするか。 それよりも、さっさと用事を終わらせるか。」
「用事?」
「ああ、用事ってのはな」
後ろを見ていた鉄はマントを翻しながら、刀で龍牙に切りかかった。
「!?」
龍牙は驚きながらも、冷静に背中の機械剣を抜刀し、受け止める。
「お前の命をいただくことだよ。」
鉄はさらに刀に力をこめ龍牙の機械剣を後ろへ弾き返した。
その突然の攻撃に龍牙は右によろける。
鉄は弾き返したその刀をそのまま一回転させ、中段から横へ一閃し、龍牙の左脇腹を狙う。
だが、龍牙の左手で抜かれた小刀によってそれは凌がれた。
それでも、鉄は攻撃の手を止めない。
鉄は防がれた刀をさらに体を回転させることで、次の攻撃へとつなげた。
その体の回転を使った横凪ぎで右足を狙うが、龍牙はいち早く上空後方へと跳躍し、かわした。
龍牙にとってこの跳躍は距離をとり、体制を立て直すための動きだった。
だが、鉄はそれすら許してはくれない。
鉄は龍牙の落下してくるところを狙うのではなく、空中にいる龍牙に突っ込んだ。
自分が落下したところを攻撃されるとばかり思っていた龍牙は遅れて鉄に刃を振るう。
龍牙のその攻撃が届いたと思った時には、鉄の姿は龍牙の後ろへと抜けていた。
鉄の刀の鍔なりとともに、龍牙は全身から血を噴き出しながら頭から落ちていった。
「なっ!?」
自分の身に起こったことが理解できなかった。
しかし、傷が浅かったのか、すぐに体勢を立て直し、着地した。
そこへ即座に切り返し、鉄はまた突っ込んだ。
しかし、今回はその純白の刃は龍牙を貫くことはなかった。
10メートルの高さから振り下ろされた鉄の刀は、紅く輝く結晶を埋め込まれた機械剣に受け止められていたのだ。
勢いがなくなったのを確認した龍牙はすぐに腰から小刀を引き抜き、鉄に向かって斬りつけた。しかし、鉄が後ろに跳んだため、それは外れたと思われた。
だが、その瞬間、龍牙はまさに斬りつける前の構えで鉄の後ろに出現した。
そして、明るく輝く黄色の結晶を埋め込んだ小刀で、鉄の背中を切り裂いた、
「ぐふぅ!!・・・、な~んてな。」
ハズだったが、龍牙が切り裂いたのは鉄の残像だった。
周りを見ると、そこには何百という数の鉄が地上だけでなく空中にも出現していた。
「「「これで終わりだ」」」
何百もの残像が一気に龍牙に突っ込む。
しかし、その残像達は龍牙に触れる事なく一瞬にして消し飛ばされた。
突然のことに唖然としていた鉄は見た、消えた残像達の中心にいる龍牙の機械剣から膨大な量の冥力が吹き出し、その攻撃範囲が5倍以上に広がっているのを。
そして、それを両手で肩に担ぎ、振り下ろそうとしているのを。
「こいつはヤバいな。」
「はあああああっ」
龍牙は極限までためこんだ冥力を打ち出す。
それは、最初はレーザーのように伸びていたが、だんだんと形を変え、最後には龍へと変化していた。
その龍は鉄を喰わんと顎を大きく開く。
鉄は、それに全く動じず真上に上げた刀を振り下ろし、その龍を縦に真っ二つにさばき、しのいだ・・・ハズだった。
「なに!?」
だが、鉄は浅くだが、無数の斬撃に切り刻まれていた。
そう、あの龍は無数の斬撃によって形造られたものだったのだ。
「ちっ、くらうくらわないの問題じゃなくて、どれだけダメージを軽くできるか、かよ。
なめてんじゃねえぞ!!」鉄も残りの斬撃を吹き飛ばそうと、受け止めている刀の先から、鋭い斬撃を放った。
「消えろ!!」
その斬撃は難なく龍牙の生み出した龍を切り裂いた。
それを見た鉄はそれをほくそ笑んでいたが、
「なっ!?」
切り裂いた先にある光景に驚愕した。
その先に見たのは、鉄の目の前に迫っている銀色に輝く龍牙だった。
そう、龍牙は自分で放った斬撃の龍をトドメとしてではなく、自分がそれに紛れこむためのカモフラージュとして使ったのだ。
さっきまでの立場はこの時、逆転した。
鉄はとっさに構えたが、龍牙の姿はすでに鉄の後ろにあった。
龍牙の小刀の鍔なりの音とともに鉄から、さっきの龍牙以上に血が吹き出た・・・かと思ったがそうはならなかった。
血の吹き出る音がしないことに疑問を持った龍牙は首をめぐらした。
すると、そこにあったのは人間の体でなく、体の所々にねじや鉄板などがつけられている『鉄竜』だった。
その鉄竜、鉄が口を開いた。
「おめでとう、合格だ。」
姿をもとに戻し、拍手をする鉄。
「はい?」
「だから、お前合格なんだよ。」
「だからなにがですか?」
銀色の瞳で睨む龍牙。
「お前が1stに相応しいか判断するための試験だよ。」
「はい?」
龍牙は全くわからないといいように眉間にしわをよせた。
「これは、突然のしかも身内による襲撃にあったときに対処できるかどうかっていう試験なんだよ。」
「なるほど。だから、こんなにギャラリーがいるんですか。」
納得した様子の龍牙は周りを見回した。
「もう出てきてもいいですよ。
それとも、これに歓迎して欲しいですか?」
機械剣を抜き挑発する龍牙。
すると、龍牙のすぐ横の建物から聞き覚えのある声がした。
「分かった分かった。だから頼むからそれは勘弁してくれ。」
「だから素直に出て行った方がよいと言いましたのに」
「ほう、あのガキが1stとはな。ん?どこかでみたような。」
そこに現れたのは、攫犀、叢炎、青冥の3人だった。
「やはり、龍影様でしたか。そんな気がしたんですよね。」
龍牙が深くため息をつくと、それに合わせるように瞳と髪の色が元に戻った。
「参ったよ。龍牙、君は予想以上だ。この村に引き留めておきたいぐらいだ。」
「それは、どうも。」
素っ気なく答える龍牙に攫犀は苦笑した。
「もう少し喜んでくれよ。まあいい。 これで、君は第一試験を突破した。残すは2つ。さあ、次に行こうか。」
「どこに行くんですか?」
「ついて来たら分かるよ。」
そう言い残し攫犀は風を巻き起こしながら消えた。
龍牙も見失うまいと足に力を込めた。