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第壱拾六話 急降下


どれくらいの時間がたっただろうか。

龍牙はうっすらと目を開いた。

ぼやけた視界に最初に映ったのは空ではなく木製の天井だった。

「ここは?」

龍牙はまだぼんやりした頭のまま、ベッドから体を起こし、周りを見回たそうとした。

「痛ぅ!!」

だが、体中に激痛が走り、またベッドの上に横になってしまった。

仕方なく首だけをめぐらし周りを見回した。

そこは、ベッドとそのすぐ横に置かれた机以外家具がなく、右側に窓、左側にドアというシンプルな木造の部屋だった。

「ふぅ、なんで俺こんなところにいるんだ?

確か地下街で・・・」

自分がここにいる経緯を思い出していると、またあの惨劇が蘇った。

「燗耶、凛華、燐堵、華蓮・・・」

龍牙は無意識の内に自分の首にかかっている淡い光を放つ円柱型の破天石をにぎりしめていた。

その時、急に左側にあるドアが開き、攫犀が入ってきた。

そして、龍牙の意識が戻っていることに気づいた。

「龍牙!!気がついたのか!!」

珍しく大きな声を出しながら、龍牙に抱きついた。

「龍影様!?って、ちょっと痛いですよ。」

龍牙は先の泣いていたのを隠すかのように、少しオーバーに顔をしかめた。

すると、ドアの方からあきれたような声がかかった。

「おい、攫犀、いい加減放してやればどうだ?」

それは、蒼龍から龍牙の身を守ってくれた謎の男、鶯劍だった。

「え?あ、ああ、すまない、龍牙。」

攫犀は、泣いている龍牙を見て、ぱっと手を離した。

龍牙は、また、ベッドに体を沈ませながら、攫犀に尋ねた。

「龍影様、あの~、そちらの方はいったい誰ですか?」

「そうか、龍牙は知らないんだったな。」

オホン、と軽く咳払いをしてから攫犀は紹介を始めた。

「このお方は、鬆神(すがみ) 鶯劍(おうけん)

30代龍影だ。」

その簡潔な紹介に龍牙は驚愕した。

30代龍影といえば、50年前に起こった、200年に一度という大戦で一人で3万の敵と戦い、勝利したという伝説を持つ、豪傑として有名なのである。

だが、彼はそれだけでなく、かなりの策士でもありその大戦中、死者どころか怪我人すらも出さないという奇跡的な勝利を納めた戦いもあったらしい。

しかし、龍牙はその伝説が目の前にいるのが信じられなかった。

なぜなら、30代龍影はその大戦中に10万の敵を相手にし、敵をほぼ全滅に追い込みながらも最後に討ち取られたと教えられていたためである。

「だけど、30代目は死んだなずでは?なぜ生きているんですか?」

「なぜって、そりゃあ、機関が彼の存在を消したからに決まっているじゃないか。」

攫犀はさらっとそんなことを言ってのけた。

「なんで、そんなことを?」

「それは・・・」

「もう少し待て、もうすぐその意味を知る時が来る。」

攫犀の代わりに鶯劍が答えた。

「どういう意味ですか?」

龍牙は、サングラスの奥にある、鶯劍の鮮やかな赤い瞳を見た。

「時がくればわかる。だから、その時のために今は自分の体のことを第一に考えろ。いいな?」 龍牙は鶯劍の威圧におされ、何も言い返せず、頷くしかなかった。


「とりあえず、今はしっかり休め。おい攫犀、行くぞ。」

鶯劍は攫犀をサングラスごしに軽く睨んで、出ていった。

「はいはい、分かりました。はあ。まあ、それじゃあな、龍牙。」

それと相反するように攫犀は手を振りながら出て行った。

「ちょっと、どういうことですか!?ねえ、龍影様!?」

その背中に向けて伸ばした手は、なにも掴めず、彼らを引き止めることはできなかった。

今の自分の立場が分からない動揺から、唇を思いっきり噛み締めた。

「いったい、なにがどうなってるんだよ。」

誰に向けて言ったわけでもない呟きが虚しく室内に響いた。







攫犀達が部屋を去ってから何時間がたった。

鶯劍は、眠って体を休めろと言っていたが、いざ眠ろうにも、あの惨劇が何度も瞼の裏に浮かび、龍牙は全く眠れずにいた。


「みんな・・・」

少しずつだが痛みのひいてきた体を起こし、窓から夕暮れに染まる赤い空を見るでもなしに見ていると、ドアがノックされた。

 誰だろうと訝しみながら返事をする。

「どうぞ。」

「失礼します。」

そこに入ってきたのは、スーツに身を包んだ、女性だった。

「あの、どちらさまで?」

「はじめまして、私、攫犀様の秘書をやらせてもらっている柑那(かんな)です。

これから、村の方針を決める会議を行うので、それに出席してもらうためにお迎えに上がりました。」

その言葉を理解するのに龍牙は5秒は要した。

「なんで、僕が?」

「それは、この村を救った張本人だからに決まってるじゃないですか?」

さらりと答える柑那。

それに対して龍牙は動揺を隠せなかった。

「僕はなにもしてないですよ。」

その言葉に柑那は少しイラついたようだ。

「そうですか。龍牙様の中では、村を半壊させた敵軍をほぼ全滅させた、ということはたいしたことではないのですね。

まあ、いいでしょう。とりあえず、ご出立の用意を。

10分以内にここを出ないと間に合いませんよ?」

しかし、龍牙は最後のほうの言葉を聞いてはいなかった。

それよりも最初に言っていた言葉の方が気になっていた。

(全滅?そんなこと僕にできるわけないじゃないか。どうせ誰かと間違えてるんだろ。)

「龍牙様、きいてますか!?」

気がつくと柑那の顔は龍牙のすぐ前にあることに気づき、飛び上がった。

だが、すぐに体中に激痛が走り、龍牙は悶絶した。

ある程度痛みがひいたところで、目に涙をためながら、龍牙は柑那に尋ねた。

「あの~、体中が痛くて、全くと言っていいほど動けないんですけど・・・」

「ああ、そこは心配御無用です。私は『風竜』の契約者ですから。」

いいながら、柑那が指を鳴らすと龍牙はフワッと宙に浮いた。

龍牙は初めてのことに(翼を使って飛んでいたのだが、全く覚えていない。)びっくりして目を見開いた。

「あまり、動かないで下さいね。」

柑那は立ったまま自分の体を浮かすと窓へと向かった。

「 では、行きましょう。」

そう忠告しながら柑那は窓から飛び降りた。

そして、龍牙も後を追うように、窓の外に運ばれる。

そこで下を見ると、初めてそこは北の岩山の一角に作られた龍人兵の本部であることに龍牙は気づいた。

しかも、その最上階(地上50メートル)であることも。

「はは、まさか、ね。

は、はは、は、ギャアアアアア!!」

案の定、龍牙は人生初の地上50メートルからのダイブを体験するはめとなった。







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