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第壱拾参話 序章

「覚えていてくれて嬉しいぜ? 流星。」

 赤い髪をかきあげながら、少年は不敵にほほえんだ。

 それを向けられた龍牙は、ただその意外な人物の登場に焦っていた。


 これまで敵という敵に全く遭遇していなかったのに、まさか初っ端から『ジャッジメント』に出会うと思っていなかったのだ。


「彗厭・・・なんでお前がここにいるんだ?」

 龍牙の問いに彗厭は笑みを携えたまま、やれやれと肩をすくめた。

「逆に訊くけど、お前、ここをどこだと思ってるんだ? 『栄光の九柱(ラスターナイン)』は俺達帝国軍の本部だろ?」

「そういう意味じゃない。なぜお前が地下にいる?」

「それも簡単だ。」

 彗厭は右手を真っ直ぐ龍牙達の方へ向け、その指を鳴らした。


「お前らを待ってたんだよ。」


 その声と共に金属がぶつかる派手な音が部屋の中を駆け回った。


 その音源へ目を向け、龍牙は予想通りの事態にため息をついた。


 さっき龍牙達が通った通路が分厚い金属板によって塞がれていたのだ。


「これで逃げられない。」

「何をする気なんだ? 彗厭。」


 龍牙は、その金属板から、ニヤリと笑う彗厭に冷たい視線を向けた。


「なに、お前たちにいいことを教えてあげようと思ってな。」

「いいこと?」

「ああ。」


 そう言いながら彼の前に現れたのは、北大陸の地図。


「これから一時間後、西に行っていた本隊が帰還する。」


 地図上に赤い矢印が現れ、点線でこの都市に向かうルートを示した。


「一時間だと? なぜそんなに早く・・・」

「で、そのさらに二時間後、『魔天道』が攻めいってくるはずだ。」


 鶯劍の声を遮り続けられた言葉に一同に動揺の色が走り抜けた。


 その理由はただ一つ、

 計画が違うからだ。


「そんなデマを言って何がしたいんだ?」


 ただ一人、鶯劍だけは顔色を変えない。


 だが、彗厭の顔には先ほど以上の笑みが浮かんでいた。


「別に。ただ事実を伝えたまでさ。

 後、もう一つ伝えなくちゃいけないことがある。」

「なんだ?」


 鶯劍が促すと彗厭は腕を持ち上げ上を指した。

「この『栄光の九柱(ラスターナイン)』の天辺に二本の塔があるよな?」


 龍牙の記憶の中にも確かにそれはあった。

 だが、それが何だと言うのか。


「その塔の間に巨大な針があるんだ。」


 彗厭の頭上には今度は二本の塔とその間にある巨大な針を映し出した。

 鶯劍を始め一同は訝しげな表情を浮かべる。


 全く彗厭の真意が掴めなかった。


「実はあれは避雷針じゃない。」

「じゃあ、何なんだ?」

「何だと思う?」


 問い返された龍牙には全く答えが見えない。先から一人置いて行かれているようにさえ感じていた。


「分からないのか?

 なら教えてやるよ。あれはな、」


 勿体ぶるかのように彗厭が間を空けると、頭上の映像に変化があった。

「ん?」


 見れば、その針が根元から折れ曲がり始めているのだ。

「二つの塔、鋼の針、まさか!?」


 何かに思い当たった鶯劍は叫んだ。


「やっと気づいたか。

 そう、これは、嘗てある事故から産まれた兵器、『Ω(オメガ)』。それを滅ぼすために生み出した、対神用兵器、


『神への反逆(フラクタルショット)』」


「『神への反逆(フラクタルショット)』?」


「まさか、それを魔天道の部隊に撃ち込む気か!?」

 鶯劍は叫ばずにはいられなかった。

「正解だ。」

「お前たちはそれが何か分かってるのか!?

 その一撃で国が一つ吹き飛ぶんだぞ!!」

「え?」


「ああ、知ってるさ。だからこそそれを教えてやってるんだよ。」

「何が言いたい。」

「つまり、こういうことだよ。」


 彗厭が腕を横に振ると同時に部屋中に赤い四角に囲まれた6つの数字がいくつも現れた。


「これから百分以内にこの『フラクタルショット』の動力を止めたらお前らの勝ち。ダメだったら俺たちの勝ち。シンプルだろ?」

「お前、人の命をなんだと・・・」


「私は遊び道具にしか思っていないが?」


 突如響いた高い声に騒いでいた一同が固まった。

 ここには女性はソフィアしかいないはず。だが、ソフィアとは明らかに違う声が確かに聞こえた。


 そしてその視線は自然とある一点に集まった。


 ニヤリと笑う彗厭に。


「意外とバレないな。流石は雅壱、といったところか。」


 その容姿とは似合わない女性特有の高い声を発しながら、彗厭は手を顔の前に翳した。


 そしてその下から現れたのは妖艶な雰囲気を持つ女性、


「アルタ=シルベスター」

「初めまして、鬼神。会えて光栄だ。」


 アルタはまるで招き入れるように両手を開いた。

 それに対し龍牙達はまだ何が起こったのか理解すら出来ていない。


 それに気づいたのかアルタは視線を鶯劍から龍牙に向けた。

「私は彗厭の姿を借りただけ。」

「雅壱の思念体か。

 で、お前らは本気なのか?」

「ああ、それが皇帝のご意向だ。」


 事も無げ言ってのけるアルタに龍牙は言いようのない怒りが湧いてきた。

 人を命をなんだと思っているのか!? お前らは何様なんだ!? 

 色々な言葉がその幼い頭の中を駆け巡る。


「タイムリミットはこれから百分。動力室はこの道を進んで、最初の分かれ道を左だ。」


 龍牙の殺気を受けながらもアルタは眉一つ動かさずに自分の後ろを示した。


 問い詰めようと鶯劍が足を踏み出すが、それと同時に後ろから悲鳴が上がった。


「う、うわああああ!!」「っ!?」

「あああああ!!」


 声のする方へ目を向け、龍牙は目を見はった。

 先までそこにいたはずの八人が霧のように消え去っていたのだ。そして残されたのは大きな穴。

「では、健闘を祈る。」

 ニヤリと不敵に笑ってから、アルタは床を蹴る音と共に姿を消した。



「急ぐぞ。」

 追おうと思えば追えただろう。助けに行こうと思えば助けられただろう。

 だが鶯劍はどちらも選ばず、ただ残り二人を促した。


 彼らが向かうのは、動力室。






 リゴラス山脈


 厳しい寒さが続く『リゴラス山脈』で一台の魔道四輪が爆走していた。


「で、後どのくらいでつくのよ?」

 五人乗りの後部座席、その窓際に座っていたロッソが前に乗り出した。


「このまま行けば後三時間ぐらい。」

「三時間か、長いわね。」

 もう何時間も見続けたせいで見飽きた銀世界。

 それにまた視線を向けて、ため息をつく。


 運転席に座る黎明はバックミラーごしにそれをただ見ていた。


 三人掛けの後部座席の左にロッソ、真ん中には可愛らしく眠っている麗那、右側にはケイミーが座っている。


 ケイミーはあれから全く様子が変わらない。


 今もただぼうっと外を見ているだけだ。



 だが、黎明は何も言わない。


 それはひとえに彼女も全く同じ境遇に陥ったことがあるからだ。


 目の前で仲間の命が消えていく。


 今でも夢に見るその辛さは彼女も理解していた。

 そしてこれは誰かに、ではなく自分で乗り越えなければならないこともまたよく理解していた。

 思考を巡らせながらも魔道四輪を走らせていると、前から明るいオレンジ色の光が射し込んできた。


「抜けたわよ。」


 派手な揺れに少し顔をしかめながらも、黎明はその先にあるものを睨んだ。



 憎き、『栄光の九柱(ラスターナイン)






 北大陸 西南部 港町『ウィッグ』


 港町ウィッグは漁業の盛んな町だ。

 その新鮮な魚介類は付近の村だけでなく、帝都まで送られるほど人気が高い。


 普段はその魚介類の売り出しで賑わいを見せるウィッグだが、今日はなぜかいつもの賑やかさがない。


 代わりにあるのはどよめき。

 人々は揃って天を見上げていた。


 大人達は空を見上げため息をつき、子供達はなぜか飛び跳ねてはしゃいでいた。


 その幼い顔を影がよぎる。


 その顔だけではない。この町の殆どを何かの影が覆っていた。


 彼らの視線の先にあるもの、それは数え切れない飛空挺団だった。


 所狭しと並んだそれらに遅れて響くのは、換気扇が回るような重い金属音。


 空はもう完璧に金属の鳥に覆われていた。


 だが、それは何もしない。


 ただただ、通り過ぎていくだけ。


 それもそのはず。彼らの目的地はここではない。

 彼らが目指すのは、




帝都、アルケイディア




 

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