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第十話 父と娘

 駆け出したケイミーは、右手に持つ機械剣を振り下ろした。

 ゼウベルトがそれを体を反らしてかわすのを見ながら、ケイミーは無理やり体を捻り、もう一度同じ軌道で機械剣を振り下ろす。

「っ!?」

 ゼウベルトはとっさにかわそうとしたが、その異常な剣速に避けきれないと反射的にそれを左に持っていた剣で受け止めた。


 だがそこでゼウベルトは気づいた。一本しか出していないその剣で受け止めたということは、


「もらった」


 ケイミーの左手に握られていた雷鮫がそのがら空きの腹部に突き出された。

「ふっ」

 だが、ゼウベルトは一瞬笑みを浮かべると、重ね合わせた剣を滑らせながら体を回し、ケイミーの右に逃れていた。

 しばし背中合わせの状態でお互いに牽制しあっていたが、二人は同時にそれぞれの前方に跳んで距離をあけた。

 地面を滑って勢いを殺してから、二人はまた一気に駆け寄り、刃を交えた。

 二度、三度とそれを繰り返してから、十メートルほど間をあけて対峙する。

「ふむ。なかなか強くなったな、ケイミー」

「貴様に誉められても嬉しくともなんともない」

 余裕の笑みを浮かべるゼウベルトに対し、ケイミーは微塵もその切っ先を揺らさない。

「だが所詮はコピー。もう底が見えて来たな」

「そろそろ口を閉じた方がいい」

「なに?」

 ケイミーは一度構えを解くと、双劃を横にして、目の前に掲げた。

「ver.2.5extra」

 その刀身は白く輝き始め、一気にはじけた。

「『鋼糸扇』」

 柄から伸びる幾千幾万もの細い鋼の糸はケイミーの手の僅かな動きにも反応し、ゆらゆらとその身をくねらしていた。

「何かと思えば、そんなものか」

 ケイミーは応えずに柄をもう一度しっかりと握り締め、それを余裕の笑みを浮かべているゼウベルトに向けて振った。

 その動きに連動し、上方十メートルにまで伸びていた鋼糸が巨大な剣山となってゼウベルトを襲う。

 その恐ろしいまでのスピードはゼウベルトに声を出す暇すら与えず、ズドンという巨人の足音のような重低音と共に地面につきたった。


 爆発が起きたような強風に金髪をなびかせながらケイミーは視線を逸らさなかった。


「これだけ派手にやっておいてこの程度か?」


 現れたゼウベルトはまたあの横に角がついたヘルムを被っていた。その体に傷一つない。

「呆れたものだな」

「何を言っているんだか」

 ケイミーは呆れたようにため息をついた。


パキッ


 どこからか聞こえる何かが割れる音に、余裕の笑みを浮かべていたゼウベルトは意外そうな顔をした。


パキッパキッ


 意外にもその音は近い。


パキッパキッパキッ


「何?」

 ケイミーにははっきりとゼウベルトが驚いているのが見えた。それは感覚的なものではない。ただ単に、ゼウベルトのヘルムが粉々に砕け散っていたからだ。

「あれ?見えなかったかしら?」

 今度はケイミーが余裕の笑みを浮かべていた。

「ケイミー・・・」

 憤怒の形相のゼウベルトにケイミーはまた鋼の糸を振るった。

 また上から襲いかかる無数の剣に、ゼウベルトは前に跳んでかわすと、そのままケイミーに向かって駆け出した。


 圧倒的な力が迫ってきているというのに、ケイミーは冷静だった。


 雷鮫を小指と薬指で挟んだ状態で、双劃の柄から伸びる鋼糸を一束、指に引っ掛け、ほんの少し動かしてやった。


 たったそれだけで、人の胴程もある鋼の糸が空中で散らばり、ゼウベルトの周囲に降り注いだ。

「っ!?」

 だがそこは流石というべきか、ゼウベルトはとっさに目の前に魔法陣と共に爆発を生み出し、その爆風で無理やり自分の体を攻撃範囲の外に押し出した。

 その鼻を掠めるように落ちてきた鋼糸を気にもかけず、ゼウベルトはまた走り出す。

「逃がさない」

 それを追うように鋼糸が飛んでくる。

 足下を狙ってきた時は跳んで、胴を狙われたら剣で弾いて、少しずつだが距離を詰めていく。

「はあああああ!!」

 しびれを切らしたのか、ケイミーは鋼糸を全て一度手元に戻すと、それをケイミーの方に走り出したゼウベルトに向けて繰り出した。

「ダメだ!!」

 ユウの制止がかかった時には既に、扇形に広がりながら飛んでゆき、一気に地面に突き刺さっていた。

 だがその直前に、ゼウベルトは音を置き去りにして一瞬、その姿を消していた。

「なっ!?」

 ケイミーが再びその姿を視認した時、ゼウベルトは飛んでくる鋼糸の上に立っていた。

「ふん」

 そこからケイミーまでは一直線、何も遮るものがない。

 大剣を生み出しながらゼウベルトは一気にケイミーに向かって、銀色の橋を駆け抜けた。


 ものの数秒でケイミーに迫るとためらいなくその剣を振るった。



「があああああああ!?」

 だが、それが届くことはなかった。


 剣が触れる寸前で、ゼウベルトの全身を襲った電撃がその攻撃をキャンセルさせていたのだ。


「な、何を・・・」

 雷鮫と双劃の柄尻を離しながらケイミーは、煙を上げながら痙攣を続けるゼウベルトに鋼糸を何重にも巻きつけ放り投げた。


 それはまさしくさっきと正反対の状況だった。


「ユウさん、どうやったらアレを父上からはがせるんですか?」

 ケイミーは視線を鋼糸でぐるぐる巻きにしたゼウベルトから離さずに問いかける。

「左胸、に刻まれた、刻印を消す、しか、ないですね」

 ユウもまた顔をしかめ、ゼウベルトの方を見ながら答えた。

「分かりました。なら、」

 ケイミーは左手の雷鮫を掲げ、

「それを焼いて消すしかない」

 思いっきり柄どうしをぶつけた。

 一瞬の火花の後、先よりも膨大な電流が鋼糸を、そしてゼウベルトの全身を駆け巡った。

「があああああああ!!」

 殺してしまう一歩手前、限界ギリギリの攻撃にゼウベルトは吼えた。

 

「ふ、ざ、け、る、なああああ!!」

 獣のように吼えながら、ゼウベルトは電撃を無視して鋼糸から逃れようともがく。

「っ!?」


 強い引きを感じたケイミーは急いで鋼糸をより強く手繰り寄せるが、


ブチッ


 それより早く、間抜けな音と共に鋼糸が引きちぎられた。


「そんな・・・」

「ククク」

「っ」

 ケイミーはその信じられない出来事を呆然と見ていたが、ゼウベルトの口から漏れる笑い声にハッとして視線を戻した。

「この力、久しいな」

 体中から煙が立ち上るなか、上に掲げた右腕をじっくりと見まわしていた。

 遠目から見ればそれは黒いままで、特に変化は見られなかった。だが、ケイミーはその変化を視認できた。

「なぜ・・・」

 ゼウベルトの全身を覆っていた鎧はその形を変え、鱗を生み出していた。

 徐々にある形に変わっていくその姿に、ケイミーだけでなくユウも見覚えがあった。

「その姿は・・・」

「シェイド・・・ディビィジョン」

「カカカ、知っているなら話が早い」

 ゼウベルトは背中に生やした翼を感触を確かめるようにはためかした。

「貴様・・・なぜ、なぜドラゴンの力を持っている!?」

 鋭い爪に、全身を覆う堅牢な鱗、強靭な翼、それはまさしくドラゴンだった。

「ゼウベルト(俺)が元々ドラゴンだから、これで十分か?」

「なら、まさか、お前があの人の・・・」

 ユウの言葉にゼウベルトは一瞬驚いたような顔をした。

「そこまで知っているのならもう俺が話すことはない」

 そう返しながら、剛石を一度腰に差し直し、足場を馴らした。

「もういいか?今から俺はお前らを攻撃する」

「どういう意味だ?」

「そのまんまだ。お前たちでは反応できないだろうからな」

 ゼウベルトは肩をすくめると腕をだらりと下げた。

「行くぞ」

 ケイミーは一瞬たりとも目を離さないとゼウベルトを睨みつける。


「がはっ」

 だが、気づいた時にはもう体が近くの木を突き破っていた。


 転がりながらケイミーは先まで自分が立っていたところに片足で立っている漆黒の龍を見た。


(見えなかった・・・)

 ケイミーは確かにゼウベルトが動き出したところまでは見た。だが、その後はまるで見えなかった。


 自分だけ時が止まってしまったような感覚だった。


 それはただゼウベルトが超高速で動いただけだと認識すらできない。

(なんで・・・)

「遅いな。さて、次はお前らだ」

 ゼウベルトが歩み寄っていくのは動けないユウとそれを庇うように立つ黎明だった。

「どけ」

 段々と口調が荒くなってくるゼウベルトに恐怖しながらも黎明は爆弾を結わえた手裏剣を投げつけた。

 また派手な爆発が起こる。だがその爆炎をゼウベルトは腕をただ一振りするだけかき消した。

「邪魔だ」

「黎明、逃げて、下さい」

 黎明は目尻に涙を溜め、膝をガクガクと震わせながらもユウの前から動かない。

「嫌だ」

「黎明!!」

「もう逃げないって決めたから」

 黎明の瞳には強い意志の光があった。

「あなたは村のために一人で孤独の中で戦っていた」

「・・・」

「だから、今度は私があなたを助ける!!」


「大した心意気だ」

 ゼウベルトは微かに口の端を吊り上げる。

「だが、雑魚に用はない」

 振り上げられた漆黒の腕に黎明は目を閉じることなく、唇を噛み締めた。


「死ね・・・ん?迎えか?」

 ゼウベルトは上げた腕を下ろし、視線を横に向けた。

「お前が案内人か」

「ああ」

 木々の間から返ってくる声は年配の人特有のしわがれた声だった。

「名は?」

 暗い影から現れた人物に、ユウは横になったまま目を見開いた。



「マーズ。『ジャッジメント』補佐官」







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