第三話 突
近々、キャラ紹介などを別に投稿したいとおもいます。
西大陸南端 海上要塞『ベルモント』
西大陸の南端に位置する、東西に細長く大陸への侵攻を妨げるかのように伸びた島、通称『海上要塞ベルモント』でもまた帝国艦隊による侵略作戦が始動していた。
「全軍、三方に分かれて攻撃を開始。その後、陸上戦に持ち込む」
南端の制圧作戦では『ジャッジメント』第八位であるゼクトが指揮を取っていた。
「全軍、全速力で突撃しろ」
海上要塞というにはあまりにも少なすぎる砲台にゼクトは魔天道側の戦力が多くないと判断し、一斉攻撃を仕掛けた。
実際、ゼクトの読み通り南端を守る魔天道軍は帝国軍の一万に対したったの千しかいなかった。
それは戦力が足りない、という訳ではなく、ただそれ以上『必要なかった』のだ。
「皆、準備はよいか」
海上要塞の中核であるソーマ城には五百人の精鋭が集まっていた。その全員が頷く。
その前で話しているのは、豪傑で知られる柴田勝家だった。
「作戦は先に言った一つだけ。その後はただ目の前の敵をねじ伏せる、それだけだ」
あまりにもおおざっぱすぎる指令にも関わらず、その場にいる誰もが異を唱えなかった。
皆、分かっていたのだ。これは勝家が全面的に彼らを信頼していると言っていることに。
「出陣じゃ!!」
『おお!!』
その場にいた全員が一気に持ち場へと飛び出した。
「おかしい」
ゼクトは今の状況に疑問を感じていた。
「少なすぎる」
先ほどから潰した砲台にいた兵士を合わせても百人しかいなかったのだ。
「なぜだ・・・」
「ゼクト様、もうすぐ接岸です」
考えこんでいたゼクトはその報告に頷き、傍らに置いていた刀を腰に差した。
「海上に艦隊の半分を残しておくよう伝えてくれ」
「はっ」
ゼクトはそう言い残すと甲板に向かって歩き出した。
木々の生い茂る中、勝家は手を上げて制止を促した。後ろについて来ていた者たちもそれに従い足を止めていく。
勝家はそれに手だけで進行の合図を送る。
特別な訓練を受けた彼らは足音一つ立てずに指示通り移動していく。
それを頼もしく思いながらも勝家は木々の間から微かに見えるものに集中した。
「よし、上陸だ!!」
島を通り過ぎ、その裏にある本島に接岸した六の戦艦から雪崩のように兵士が出てくる。
「壱から参部隊はこのまま直進して江戸を目指せ。残りはここら一帯を制圧した後それを追う」
西大陸は四大陸の中で最も小さく、最南端であるここから江戸までたったの二日で行くことができるのだ。
だからこそかなりの数を配備していると読んでいたが・・・
「何を考えている・・・」
ゼクトはそう呟きながらも山道に歩を進めた。
「はっ、はっ、はっ、」
出発から三十分。全く舗装されていない山道は普段平らな道を歩きなれている帝国兵には厳しいようで、所々で息を切らし、肩で息をしていた。
南側は標高の高い山が連なっているため北に行くならば少なくとも一つは山を越えなくてはならない。
上り坂は必然的に進行速度も遅くなる。
後続部隊も早くもあの一帯を制圧したようで、すぐ後ろをついてきているのがゼクトの目に映った。
「細長く伸びた隊列、上り坂、兵士達の疲労度。マズいな」
ゼクトはそれになんとも言えない危機感を覚え、後から支援部隊として来る飛空挺団に乗ってくるよう指示しようとした時だった。
『ブオォォォォ』
「なんだ?」
ゼクトと同じように誰かがどこからか聞こえた音に足を止める。するとそれにつられて次々に足を止めていく。
『ブオォォォォ』
今度こそはっきりと進行方向から聞こえた角笛のような音に部隊の進行が完全に止まった。
そしてその視線の先、丁度坂が終わったところから砂埃をたてる黒い影が見えた。
その影はだんだんと数を増やし、ついには百にも及んだ。
「『フィアファンゴ』だ!!全軍退け!!」
ゼクトが叫ぶがもう遅かった。
黒い剛毛で身を包んだ岩と見紛う巨体が次々と兵士達をなぎ倒していく。
帝国兵も応戦するが、勢いに押され、一人また一人と倒れていく。
その黒い雪崩が終わった時には既に半数以上が戦闘不能になっていた。
「くそっ」
憎々しげにそう呟きながらゼクトは辺りを見渡し、さらにその表情を歪めた。
「やはり・・・」
「包囲完了。かかれ!!」
その号令とともに左右にそびえる山から黒い影が一気に飛び出した。
それがまだ空中にいる間に地面が爆発した。
爆弾を起動させたと分かるのにそんなに時間はかからなかった。
それによってまた戦力は減り、もう千人にも割り込んでいた。
「くそっ!!」
ゼクトは刀を抜くと上から飛び降りてきた一人を真っ二つに切り裂いた。
だがそのような対処を全員ができる訳もなく、至る所から爆発音が響く。
恐らく冥力を纏った武器を叩きつけたのだろうと予想をつけながら、ゼクトは走った。
途中、何人かを斬り伏せながら視界の開けたところに出る。
「くそっ」
そこから改めて見るとそれは悲惨なものだった。
逃げ惑う帝国兵にためらいもなく刀を突き刺す魔天道側の兵士。
地獄だった。
「なにをやってる?」
「っ!?」
突然後ろからかけられた声にゼクトはとっさに飛び退いた。
そこにいたのは、たくましい肉体を鎧兜で包み、普通のよりも二周りは大きい槍を携えた男だった。
「その反応、お主が大将か?」
「・・・そうだ」
「なら魔天道側の大将として言う、降伏せよ」
「なにを・・・」
そう言ってはみたが、もう敗北以外有り得ないのはゼクトにも分かっていた。
「もうそちらに勝ち目はない。補給支援かつ切り札だった飛空挺も破壊した」
「なっ!?」
ゼクトは信じられなかった。最後の望み、飛空挺による爆撃すら封じられるなど。
決断は早かった。
「・・・全員、武器を捨てろ!!」
ゼクトはそう命令しながらも自分の刀を手放さなかった。
「ん?」
「すまない。だが、これが俺なりのけじめだ!!」
ゼクトはそう呟くと悠然と立っている勝家に斬りかかった。
勝家はそれを槍の柄で受け止める。
「それがお主の生き様か。良かろう」
それを弾き返すと勝家は両手でしっかりと槍を握った。
「魔天道第参獅団隊長、柴田勝家。いざ参る!!」
男の意地をかけた戦いが今、始まった。
西大陸 江戸 暁天城『魔窟』
いつものように椅子に深く腰掛け肘をついていた信長がゆっくりと瞳を開いた。
「来たか」
「信長様」
椅子から立ち上がった信長は傍らに控えていた欄丸の手から愛剣を受け取り、腰に差した。
「欄丸、頼むぞ」
「はい」
信長は部屋を出ると、そのまま忽然と姿を消した。
後に残っていたのは、
無数の黒い羽根だった。
無機質な光沢を見せる戦艦に覆われた江戸の海岸沿いでは、異質な騒がしさに満たされていた。
艦隊からの砲撃は展開された防護壁が防いでくれているが、問題はその内側。
海岸に沿って作られた防護壁の裏にある通り、そこには魔天道の兵士達がズラリと並んでいた。
だがそれが今は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌していた。
「やっぱり私は海が嫌いですわ」
潮風になびかされた金髪を手でおさえながら、その中を悠々と歩く麗しい女性は呟いた。
「だって、髪がいたむんですもの」
彼女が一歩踏み出す度に何人もの兵士が倒れていく。無言で倒れる者、絶叫を上げる者、自分の首を血が出るまでかきむしる者。
まさに地獄だった。
「よくこんなところで生活できますね?」
残虐な死をバラまいているその女性が問いかけたその先にいたのは艶やかな着物に身を包んだ女性。
「これはこれは、こんな化粧の濃いお方にお褒めにあずかり光栄ですよって」
濃姫だった。
いつも通りの笑顔を浮かべているが、額には青筋が浮かんでいるのが見える。
濃姫のその言葉に女性はまだ余裕の笑みを浮かべている。
「私はジャッジメント第八位 『芳香のレミア』
よろしくお願いいたしますわ」
「これはご丁寧に。ケバいから頭の中まで真っ白かと思ってましたけど、意外にも礼儀はわきまえてはるんですね」
さすがのレミアも濃姫のその言葉には表情を歪めた。確かにレミアの方から甘い香りが漂っている。
「あなたは好きになれそうにないですわ」
「奇遇どすな」
濃姫の周りの空気が一気に放出された冥力によって爆発する。
「うちも同じこと考えてましたよって」
濃姫は両方の袂から愛銃を一瞬で取り出し、引き金を引いた。
その目にも止まらぬその早撃ちに、レミアは全く動けず、その頭を撃ち抜かれ、後方に派手に脳漿が飛び散った。
「ん?この程度どすか?」
濃姫は余りの呆気なさに拍子抜けしながらピクリとも動かないレミアに近づいた。
「『ジャッジメント』もたいしたことないですよって」
「そんなことはないですわよ?」
突然自分の後ろから聞こえた声に濃姫はとっさに横に跳んだ。
地面を転がり、片膝をつきながら首筋に触れると血がベットリとついていた。
そしてさっきまで立っていた所に目を向けると先ほど頭を吹き飛ばされたはずのレミアが
「「「よくかわしましたわね」」」
三人いた。
濃姫は先ほどの死体に目を向けるとそこにあったのは、頭のない魔天道の兵士だった。
「っ。皆さんはお下がりなさい。邪魔ですよって」
濃姫はそれに唇を噛み締めると後ろに控えている兵士達に向けて叫んだ。
それに頷き兵士達は立ち去っていく。
それを視覚ではなく聴覚や地面の振動で確認しながら、濃姫は銃のグリップの上の方を握った。
「よくもまあ色々とやってくれはりますな」
「あら、最後の一人はあなたがやったのでは?」
「黙れ!!」
濃姫は三人の内の一人に銃撃ではなく蹴りかかった。
手応えはなかった。
「ちぃっ」
今度はすぐ横に後ろ回し蹴りを繰り出す。
だがそれもまた煙のようにかき消された。
「あらあら、もう終わりですか?」
エコーがかかったようなレミアの声に振り返るとそこには、
「これまた面倒な」
十を超えるレミアが立っていた。
『どうしますか?』
「もちろん、こうするんどす!!」
濃姫はマガジンを交換していた左手の銃でレミア達ではなくその中心に向けて引き金を引いた。
吐き出された弾頭は『紅』。
地面に着弾したそれは一瞬にして爆発を生み出した。
『なっ!?』
爆発は一体また一体と飲み込み、一瞬にして十以上いたレミア達を葬り去っていた。
「そこ」
「ぐっ」
そして濃姫が繰り出した蹴りは何もない空間からレミアを蹴りだしていた。
蹴り出されたレミアは倒れる体を片腕で支え、そのままバック転の要領で濃姫から距離を取った。
濃姫は甘い匂いが漂う中、レミアを追撃しようと走りだすがその目の前でレミアの姿が周りの風景に溶け込むように消えていった。
「くっ」
それを見て立ち止まってしまった濃姫はいきなり横からの衝撃を受けた。
見ればさっきの倍以上のレミアが拳を繰り出していた。
「あら、今のはあなたかしら?」
「いや、そういうあなたじゃなくて?」
「あちらの方なら知っておられるのでは?」
何十ものレミア達がそれぞれと会話をしているのに濃姫は眉をひそめた。
「なんどすか?これは」
分身をしてくることからレミアの能力は『火』『風』『光』のどれかと予測していたが、声が別々の方向からするなど見たことも聞いたことがなかった。
「ふう、とりあえず」
濃姫は右手の銃をしまい、腰から新たな銃を引き抜き、引き金を絞った。
そして耳元で止めどなく獣に吼えられているような爆音を鳴り響かせながらレミア達を穴だらけにした。
その手に握られていたのはドラム型のボックスをつけた『自動小銃』だった。
その銃口から煙を立ち上がらせながら濃姫は砂煙に隠れたその先を睨んだ。
「うっ!!」
だが、突如、濃姫は体中に痺れが走るのを感じた。
痺れは次第に強まり、ついには濃姫の全身の自由を奪った。
立つこともままならず、地面に倒れ込んだ濃姫は唯一動かせる目で砂煙の中にある影を睨みつけた。
「面倒だから終わらせていただきますわ」
「いったい・・・なにを・・・」
「あなたに麻痺香を嗅がせただけですわ」
「な・・・」
「全く。少しはやるかと思ってましたのに、残念ですわ。わざわざ紫煙を使わずにいたのに・・・」
レミアはそこでため息をつくと動けない濃姫を蹴り飛ばした。
「わざわざ一度幻術を解いて蹴らせてあげたのに、どうしてくださるんですか?
この私の顔を蹴ったんですよ?」
つかつかと歩み寄ったレミアはまたその腹を蹴り飛ばした。
濃姫はそのまま壁に叩きつけられ、力なく倒れた。
レミアはそれにまた近づくとその頭を踏みつけた。
「ぐっ」
「どうやって殺して差し上げましょうか?ゆっくりと苦しみながら?それとも激痛でショック死?
おーほっほっほっほ」
かかとでぐりぐりと濃姫の頭を押さえつけながら高らかに笑い声を上げた。
最低ですね。
濃姫は血がにじむほど強く唇を噛み締めた。
こんなんに負けるなんて、耐えられませんよって。
濃姫の心はまだ折れてはいなかった。
後、二分あれば・・・
「さて、そろそろ死んでもらいますわ」
レミアは腰から小さなガラスの瓶を取り出した。
その中に入っているのは紫色の液体。
「あなたには私のお気に入りであるこの『紫煙』で苦しみながら死んでもらいますわ」
濃姫はその色と口調からそれが猛毒であることを悟った。
その濃姫の顔の真上でレミアはその瓶の栓を抜き、ゆっくりと傾けた。
先端部分に紫の液体が溜まってゆく。
ここまで・・・か。
呆然と見上げたその視線の先で、今まさに死への一滴が落ちようとした、その瞬間、
「ちっ!?」
レミアに向けて無数の炎弾が撃ち出された。
目標をずらされた紫の雫は濃姫の顔のすぐ横で火掻き棒を押さえつけたときのような音を立てながら穴を空けた。
まだ動けない濃姫はその炎を見て何が起こったのか全てを理解した。
それが飛んできた方を睨みつけると、レミアはドレスに隠れた太ももからある一つの、細い指ほどの長さしかない機械を取り出し、それを握り込んだ。
刹那、地面が爆発した。
地面から現れたのは無数にある足に何個にも分かれた体、その先にある頭は二つある巨大なムカデだった。
「これは・・・」
濃姫はそれを見て唖然とした。それはかつて自分が鶯劍と共に命がけで戦って倒した羅門だった。
「いったい、なんで・・・」
「羅門。あいつらをけちらしなさい」
その先にあったのは先ほど逃がしたはずの自分の部下たち。それらがこの怪物に果敢にも挑もうというのだ。
「やめな、さい。あんさんらでは・・・」
「分かっています」
濃姫の囁くようなか細い声に先頭に立っている兵士が応えた。
「ですが、だからといって我らが主を見捨てる訳にはいきません!!」
その言葉に濃姫は目を丸くした。
「まあ、なんて無駄なことを。羅門」
レミアの呼びかけにムカデが体を持ち上げた。「蹴散らしなさい」
それからは一方的だった。
何人もが刀を手に一斉に飛びかかるが、全てその甲殻に防がれ、逆に吹き飛ばされる。
上から振り落とされた尾に潰されていく。
そして体中から噴き出された酸は生きたままその体を溶かしていた。
濃姫は唇を強く強く噛み締めた。
もう怒りで一杯だった。レミアや羅門にではない、部下が殺されているのを何も出来ずに見ている自分が憎くて仕方がなかった。
その虐殺は続き、二百はいた兵士達はもう残り五十人にまで減らしていた
だが、彼らの頭に『撤退』の文字はない。
「うおぉぉぉぉ!!」
「おらぁぁぁぁ!!」
「はあああああ!!」
「死ねぇぇぇぇ!!」
雄叫びを上げながら残った全員がそのムカデに飛びかかった。
ムカデはそれを避けようとはせず身をひねり、空中にいる兵士達に向けて尾を振った。
当然、兵士達もそれで吹き飛ばされることを覚悟していた。
だがいつまで経ってもその衝撃が来ない。
遅れて巨人の足音のような音と共にそのすぐ横に何かが落ちた。
兵士達は一度地面に着き、周りを見渡すと目の前に先ほどまでくっついていたはずのムカデの尾が転がっていた。
ムカデ自身もやっと気づいたのだろう。君の悪い超音波のような奇声を発しながら悶えていた。
そこにどこからか炎弾が撃ち込まれた。
さらに奇声を発するムカデ、それを呆然と見ていたレミアにもそれは撃ち込まれた。
「がっ、あああああ!!」
油断をしていたレミアはその直撃を受け、全身をその炎で焼かれていった。
光を発さない黒い炎に。
「この炎は!?」
生き残りの兵士達はそれを見て歓声を上げた。
その前、炎に巻かれたレミアの横に黒い影が舞い降りた。
「ふん」
そこに降り立った男に濃姫は息を呑んだ。
「信長様・・・」
いつもならめったに外に現れないはずの信長までいた。
「なんで・・・」
「無様だな、濃」
欄丸の言葉を遮り信長が口を開いた。
その言葉に濃姫は顔を曇らせる。
「我はそんな女を妃にした覚えはないぞ」
「・・・」
明らかな拒絶の言葉に濃姫は唇を噛み締めた。
だが信長はそんな濃姫に近づくとぼそりと囁いた。
「蹴散らしてこい」
その一言に濃姫はハッとなって信長の方を見るがその時には既にレミアの横を通り抜けていた。
「い、か、せるか!!」
火が消えたレミアは悲惨な姿をしていた。
身に纏っていたドレスはズタズタに破れ、至る所が黒く焦げ白煙を上げていた。
体中にできた火傷のせいで体も上手く動かないようだ。
レミアは気力で去っていく信長の背にどこからか取り出した魔道銃の引き金を引いた。
その銃口から吐き出された白い弾丸は寸分の狂いもなく後ろから信長の心臓に向けて飛んだ。
だがそれがその肉をえぐることはなかった。
その銃から吐き出された弾丸は全て信長の体に弾かれていたのだ。
「くっ。羅門、あいつを止めなさい!!」
その地面に倒れ込んだレミアの命令に、ムカデは目の前の兵士達をその尾で吹き飛ばし、角笛のような鳴き声をあげながら信長に頭から突っ込んでいった。
左右から巨大なノコギリが迫る。
だが、その牙が噛み合う時には信長が上に飛んでいた。
「邪魔だ」
信長は腰から両刃の剣を引き抜くと、一気にそれを真っ二つに引き裂いた。
たった一撃、それだけで実力の差を知るには十分だった。
羅門は苦悶の声を上げながら体を持ち上げる。すると、切り裂かれた根元から徐々に再生を開始していた。
「しぶとい」
信長は横に向けた剣に左手を当て、ゆっくりとその表面をなぞった。なぞられたところから黒い何かを纏っていく。
そして体積を倍化したその剣で回復仕切っていないムカデを今度は横に切り裂いた。
「だが我を引き止めるには役不足だ」
巨大な頭が二つ、宙を舞う。
巨人の足音のような重低音を奏でながら落ちた頭部をチラッと見てから信長はもう一度まだ身悶えている頭を失ったムカデを見た。
すでに切り口から再生を始めているのが見えた。
信長は目をスッと細めると地面に剣を突き立てた。
「そこか」
誰に向けたのか分からないその呟きの後、信長を中心に大地が揺れた。
それから間もなく、まだ揺れは止まらないがムカデの動きが完璧に止まった。
「見つけた」
信長はニヤリと不敵に微笑むと剣を持ち上げた。
だがなぜかその先には黒い蛇のような不気味な筒が繋がっていた。
その信長の前をまるで地割れのように地面が隆起し、ついにはじけた。
それはとてつもなく長い黒い刃だった。
その先端には不気味に動く赤い物体が突き刺さっていた。
「それが貴様の心の臓か」
信長が剣を握り込む力を増やすとそれに合わせムカデもその物体も不規則な痙攣を繰り返した。
「燃え散れ」
その剣の根元に発生した黒炎はその剣を伝い、ついには赤い物体に燃え移った。
それは不気味に変形しながらなんとか逃れようとするがどうしようもなかった。しかもなぜかムカデまでもまた身悶え始めた。
「やはりその通りか」
呟くと同時に突き刺した剣を勢いよく上に振り抜いた。
風船が破裂するような音共に赤い物体、ムカデの心臓ははじけ、
辺りに血の雨が舞った。