第壱拾壱話 覚醒
避難所に突撃したWGPの指揮官はその大通りを見渡した。
そこには、大人子供関係なく地面に倒れているのが見える。
彼らに与えられた任務は白浪村の完璧なる『削除』、つまりは全滅させろということだった。
指揮官はただその任務の遂行のために大通りに横たわっている人たちを確実にしとめるよう命令を出した。
命令をだした後、もう一度大通りに目を向けると、その通りの真ん中に背をこちらに向けて立っている少年の姿が見えた。
それは、友を失った悲しみに打ちひしがれていた龍牙だった。
指揮官は驚きながらもその子供に対しあきれていた。
「なんだ、あのガキは。そんなに死にたいのか。」
指揮官は、笑いながらも冷静にその黒髪の少年を射殺するよう命令をだした。
何十人もの兵士がその命令に従い、少年にむかって発砲する。
その小気味よい銃声を聞き指揮官は確実に死んだと思っていた。いや、普通の子供なら確実に死んでいた。
だが、次に見た光景に指揮官は自分の目を疑った。
何百もの銃弾が、少年の差し出した手の前ですべて止まっていた。
その少年の顔には何一つ表情がない。
だが、その奥深くにとてつもない怒りが秘められているのを、その場にいた全員が肌で感じていた。
その少年の自慢の艶のある黒髪はいつの間にか白銀に染まり、目は殺意に満ちた 燦然たる銀色になっていた。
指揮官はもう一度撃つよう命令したが、同じ結果を導くだけだった。
(なんだあの少年は!?化け物か!?)
龍牙は凍てつくような冷たい瞳でその兵士たちを見渡し、ただ一言呟いた。
「殺す」
その言葉を紡ぐと同時に龍牙は前に突き出している左腕を横にかるく振った。
すると、龍牙の前で止まっていた銃弾が向きをかえ、龍牙ではなく兵士たちの方を向き、小刻みに震え始めた。
龍牙がまた左腕を思い切り振ったその瞬間、無数の弾丸は銃以上のスピードで飛び、何十の人体と6つの機械に大量の風穴を空け、爆砕した。
指揮官とその兵士たちは自分たちが死んだことを認識することもできずに息絶えた。
「ウオオオオォォォォォォォォ」
龍牙は突然、ドラゴンのように吼えた。
「ォォォ、ガ、ガグゥ、ガハ 」
その声は次第に呻き声へと変わり、体の一部が輝きだし、一定間隔で不気味に膨らんだり萎んだりを繰り返した。
最初に変化が起こったのは腕だった。
急に光り始めたかと思うと、その光の中でいびつな形へと変形を始め、その光が消えた時そこにあったのは、
鈍く銀色に輝く指先が切り裂けないものはないといわんばかりに尖っている、銀色のウロコに覆われた腕であった。
変化は終わることをしらないのか、今度は右の肩甲骨の辺りで変化が起こった。
また腕のように光り始め、そこから巨大なものが現れた。
それは、荒れ狂う嵐すらもろともしないであろう、ゆうに2メートルはあるドラゴンの翼であった。
激痛のあまりうずくまっていた龍牙が面をあげると、その顔にも変化が起きていた。
龍牙の顔の半分がドラゴンの頭をかたどったヘルムに覆われているのだ。
龍牙は自分の腕をじっくりと見回した後、生まれたての翼を動かし感覚を確かめた。
そして、龍牙は目にも止まらぬ速さで飛び立った、
天空へと。
世界政府独立治安部隊 母艦 マンティコア
その頃、WGP地上艦隊の母艦であるマンティコアでは、豪華な料理を乗せたテーブルを挟んで、艦長であり、今作戦の最高司令官である テルム=ワーカー がある男を前にしてワインを飲んでいた。
「これで、私達の勝利は確実なものになりましたな、蒼龍殿、いや蒼龍元帥とお呼びした方がよろしいのか。」
そう、テルムの前に座っている男、それこそが、白浪村の裏切り者である我狼蒼龍であった。
「まだ、爵位をいただいていない身より、普通に名前で構わんよ、テルム艦長。」
全く表情を浮かべずに返答する蒼龍。
「そうですか。それにしても白浪村はいつになったら降伏するのですかね。素直に降伏したら苦しまずに死ねるのに、愚かな民族どもめ。ハッハッハッハ。」
左手にグラスを持ったまま、右手を額に当て笑い続けるテルムを、まるで虫でも見ているかのような目で蒼龍は見、窓から自分の故郷が燃えているのを見つめた。
そんな蒼龍を見たテルムは、口を歪めたままふざけたように話しかけた。
「おや、やはりまだ故郷に未練がおありなのですかな、蒼龍殿?
それとも、自分がなるはずだったものを奪ったご子息のことでも考えていたのですか?」
こらえられなくなったのか、テルムはまた大声で笑い始めた。
しかし、今回はさっきとは違いすぐに笑い声が止んだ。
「ふん。考えたくもないが、当の本人がいては考えるしかないだろう?」
窓から外を眺める蒼龍。
「なんだと?どこにいると言うんだ?どこにもいないではないか!!」
喚くテルムにあきれかえったようにため息をつき、窓の外を指差して面倒くさそうに教えた。
「あの村の上を見てみろ。」
そういいながら蒼龍は部屋を出て行こうとした。
「どこに行く?」
「なに、かわいい息子に会いに行くだけだよ。」
不気味な笑みを向けられたテルムはただ呆然とその後ろ姿を見るしかなかった。