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第二話 激

 一斉に動き出す帝国艦隊を見ながら秀吉は大きく跳躍した。

 そしてたどり着いたのはその艦隊の目標である破壊された壁の前だった。

「久しぶりじゃな、将軍」

 そこに立っていたのは、目の前の壁を破壊した張本人だった。

「もう三年になるかな?」

 三年前、全国から集まった強者共の中で最強を決める武芸大会が帝国で開かれた。

 何十もの一騎当千の猛者(もさ)の中、決勝戦に勝ち進んだのがこの二人、秀吉とラミレスだった。

 三日三晩、不眠不休の戦いの末、結果はドロー。

「あの時の決着をつけるとしようか」

「わしも同じことを考えとった」

 二人は同時に戦闘体勢に入る。

 ラミレスは右手を突き出し、秀吉は両手で棒を構えた。


 しばしの沈黙。


 すぐそばから聞こえる爆発音すら二人の意識から外されていた。

 そして、丁度二人の間に砲弾が落ちると同時に、動いた。


 先制は秀吉だった。


 棒に刻まれた文字の羅列をなぞり、ラミレスに向かって振るう。

 ラミレスは即座にそれがなんなのか察知し、その方向に向かって指を鳴らした。

 ズドンという凄まじい音と共に何もない地面が窪む。

「一瞬で大気を圧縮してぶつける。シンプルだがそれ故に発動スピードが速い」

「すぐさまこっちの技を見抜き、お得意の『簡易魔術(ショートマジック)』でその部分の重力を増加させるとはの。

 相変わらずじゃ」

「「やはり、強い」」

 お互いの実力を再確認した二人には笑みが浮かんでいた。

 しかしすぐさま、また同時に動き出した。


 今度はラミレスが仕掛けた。


 『簡易魔術』、それは冥術と比べ魔術が完璧に劣っているスピードを補う技術。

 威力は通常の魔術の半分以下だが、そのスピードは冥術をも上回る。


 発動条件は至ってシンプル。

 あらかじめ魔法陣を描いておき、そこに魔力を流すだけ、

 唯一、欠点があるとすれば、一つの魔法陣に対し一種類の魔法しか使えないことだろう。

 ラミレスの場合はそれを両手の甲に刻み、指を鳴らすのを合図に発動していた。合図を決めるのは暴発を防ぐためだ。

 秀吉は跳んでそれを交わす。

「『暗黒吸綴(グラビティ・ホール)』」

 宙に浮いたままの秀吉の体が一気にラミレスの右手に引き寄せられる。

「ちっ」

 秀吉はその間にまた文字をなぞり、ラミレスに向かって振り下ろした。

「っ!?」

 ラミレスは大気の塊を後ろへ跳んで交わす。

 そこで体にかかっていた引力がなくなったのを確認すると秀吉はまた文字をなぞり、ラミレスに接近する。金色の棒に赤い光が灯る。

「『蓮華(れんげ)』」

 秀吉はそれを先ほど以上の勢いでラミレスに振り下ろした。

 だがラミレスはその直線的な攻撃を体を横に向けることで交わした。

「かかったの」

「っ!?」

 だがその先端が地面に触れた瞬間、爆風がラミレスの体を吹き飛ばした。

 空中で体勢を立て直し、着地するとラミレスは片膝をついた。

 先まで自分が立っていた場所は深く抉られていた。

「相変わらず厄介な武器だ。なにが出てくるか見当がつかない」

「そりゃあそうじゃ。そうなるよう作ったからの」

 そういいながらも秀吉はラミレスとは別の方向へ歩くと、ある一点に棒を突き刺し、爆発させた。

「気づいていたか」

「そりゃあのぅ。あれだけの魔力を送っとるんじゃけに。さすがに気づくわ」

 秀吉は地面から引き抜くと今度こそラミレスの方に歩き出した。

「やはり秀吉、君にはここで退場してもらわなければならないみたいだ」

「ふん。やれるもんならやってみい」

 秀吉はまた文字をなぞり、棒に赤い光を灯すとそれを目にも止まらぬ速さで突き出した。

 連続で繰り出される神速の突きをラミレスは最小限の動きで避けきっていた。

 それで痺れを切らした秀吉は突き出した棒を振り上げ、降ろした。

 また地面に触れた棒から爆発が起きる。

 そこで飛び退きながらもラミレスは指を何度も鳴らした。

「『簡易魔術』ごときじゃあわしには効かん」

「そうだな。じゃあこれを受けてもらおうか」

「なに?」

 そう言って地面についた手から電流のようなものが走り、秀吉を囲んだ。

「『領域魔法』!!どこでこれを!?」

 秀吉は動き出そうとするが、全く思考に体が追いついていなかった。

「さて、そろそろトドメと行くか、


 『こいつ』でな」


 ラミレスは服を捲るとその奥にあるものを見せると同時に、

「しまっ」

「さようなら」


 二人の間から全ての音が消え去った。





『ははははっ』

 砲撃を止めた帝国艦隊母艦『レセップス』から突然笑い声が響いた。

『魔天道側の諸君、初めまして。私はラミレス。『ジャッジメント』第一位だ』

 それは先ほどまで秀吉と戦っていたはずのラミレスだった。

『早速だが、君たちに報告がある』

 それに何事かと兵士は耳を傾けた。

『君たちの長である羽柴秀吉はたった今、私の『模造品』によって命を落とした』

 その言葉に魔天道側に動揺が走った。

「ば、ばかな・・・」

 それは本部にいる秀吉の右腕である三成も例外ではなかった。

『我々は無駄な血はできるだけ流したくはない。

 だから、投降したまえ。今なら命は助けてやろう』

「惑わされるな!!向こうのはったりだ!!全軍、砲撃を再開しろ!!」

『証拠を見せようか?』

 三成が通信機に叫んでいるのを阻むかのようにラミレスは続けた。

 魔天道側は誰もが静止し、ラミレスの言葉を聞いていた。

『『レセップス』の甲板を見たまえ』

 リーフベールにいる全員の視線が一点に集まる。

 そこにはいつも通りの軍服を纏ったラミレスとあと一人。ラミレスの右腕に秀吉がぶら下がっていた。

「秀吉様!!」

『あれだけの爆発を受けて原型を留めているなんて驚きだよ。だが、それだけだ』

 ラミレスは甲板の端に近づき、そして・・・


 全員の視線が集まる中、重力に引っ張られ加速しながら秀吉は海に落ちた。


『お前たちもこうなりたくなければ我々に降伏しろ』

 その言葉に魔天道側は揺れに揺れた。



リーフベール 西部隊本部


「秀吉様がやられたとなれば、こちらに将軍を抑えられる者はいない。」

 西側一帯を担当している大隊長は悩んでいた。

 魔天道側は基本的に西、東、南の三部隊で構成されていた。それを秀吉が指揮するという指令系統を取っていたのだ。

 だが、あまりにも早い将軍の出陣がそれを狂わした。

 人数の少ない魔天道側は西大陸の東西南北四方向全てを警戒するために一つの場所に二人も武将を置けなかったのだ。

 特に北側はリーフベール以外断崖絶壁のためそこだけを抑えておけば大丈夫だと、秀吉一人に頼りきっていた。


 それらの小さな油断がこの結果を生み出していた。


「こんなところで部下を失う訳には・・・」

 そして苦渋の決断を下した。

「我々、西側大隊はこれより帝国軍に下る。

 帝国艦隊と通信を!!」

「は、はっ!!」


 また一つ魔天道側の駒が減った瞬間だった。





「ふっ、もろいな」

 部下からの報告を聞きながらラミレスは嘲笑した。

「この程度とは、こっちに来て正解だったな」

 ラミレスが振り返る先に立っていたのは、かつて龍牙達と一戦を交えた四兄弟の長男、雅壱だった。

 だがその表情は険しい。

「お前、よくもぬけぬけとそんなことを!?

 なぜ俺の弟を実験台にした!?そしてなぜそれを今まで黙っていた!?」

「あれは君の弟くんの意志だよ」

「なに!?」

「強くなりたいという欲求を満たすために彼は進んで実験台になったと聞いている」

「そんな・・・」

「それに、どうやら君たちのこれまでの目標は意味がなかったようだ」

「意味はある」

「ほぅ」

 雅壱の瞳には凄まじい意志が宿されていた。

「あの出来事を起こした張本人を殺す。それが俺たちの新たな目標だ」

「『俺たちの』か」

「なにがおかしい」

「いや、君の兄弟は全員消えたのにまだそれにすがっているように思えてね」

「貴様!!」

 雅壱の周りの空気がその放出された冥力によって一気に爆発する。

 だがそれはすぐに収まった、いや抑えられた。

 周りに生み出していた冥力の塊が次々に地面にめり込んでいく。

「静かにしてくれないか?私は忙しいのでね」

 それを行った張本人は、丁度接岸した戦艦の先端から飛び降りた。その後を追うように何十、何百もの影が飛び出していく。


 雅壱はそれをただ呆然と見つめるしかできなかった。


 俺は確かに全力で『冴糸』を展開した。なのに、なぜ?なぜ、あいつはいとも簡単にこれを凌げる?


 雅壱には信じられなかった、ここまでの圧倒的な力の差を。

「くそが」


 これが末席と首席の差か。


 雅壱は唇を噛み締めたまま戦艦の中へと消えた。





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