第九話 開戦の兆し
「龍牙」
呆然としていた龍牙はその声にはっとした。
見れば目の前に止まっていた赤い飛空挺から見慣れた顔が降りてきていた。
「先生」
龍牙は沈んだ顔のまま鶯劍に近づく。
「ん?なにかあったのか?」
「いや、実は・・・」
龍牙は今日起こったことをできるだけ詳しく鶯劍に伝えた。
だが、龍牙の説明のある一点で表情を変えた。
「『俺と同じ顔の男を知っているか?』龍幻は本当にそう言ったのか?」
「はい」
「やはりあいつは、」
「先生?」
「ん?あ、いや、なんでもない。ただの独り言だ」
龍牙の呼びかけにはっとして若干焦りながら鶯劍は答えた。怪しまれるかと思ったが、龍幻が立ち去ったことにかなりのショックを受けているようで全く気づいていなかった。
「とりあえず一度『西』に帰る。後、その二人もな」
「え?」
鶯劍が指差した先にいたのは、
「え?私ですか?なんでまた・・・」
ソフィアとクロノスだった。
「『神武』の宿し主、ソフィア=アトランティカ。『時の女神』クロノス」
「『時の女神』?『神武』?」
「やっぱりそうだったのか」
常人の数倍の冥力や魔力に対する感性、そして龍牙を受け止めた砂の手。これらは『神武』の能力だったのだ。
「先ほどアトランティカ王と王妃に了承はとった。」
「だけど、なんで・・・」
「それは鑑の中で話すとしようか」
「だけどカルマさんとアニマさんが・・・あれ?」
ソフィアは振り返ってキョトンとした。
さっきまでいたはずの2人がいない。
「あれ?どこかに行ったのかな?」
「・・・」
その場から辺りを見回すが人っ子一人いない。
鶯劍は神殿の方をジッと見た後、まだ探している二人を連れて『ヘイムダル』の中へと消えた。
「くそっ」
崩れた神殿から少し離れたところにボロボロの体を引き摺るようにして歩く男がいた。
クロドである。
「くそっ、次は絶対に・・・」
「よ、新入り」
「元気かい?」
クロドは声のするほうへ目だけを向けた。
そこにいたのは先ほど龍牙たちが探していた、金髪碧眼のエルフ、カルマとアニマだった。
「なんか用か?」
「いや、慰めに来てやっただけだよ。新入りくん」
「なんだと?」
「いくら末席とはいえ、仮にも『ニヒリズム』の一員ともあろうものが負けるなんてね。自覚を持ってもらわないと」
「次こそは絶対に、」
「お前に次なんかないぞ」
「そうそう、実は僕たちにも任務があったんだよ。」
「任務?なんのだ?」
「それはね、」
その言葉にクロドが振り向いた瞬間、
その胴と足が切り離された。
「お前(君)の削除だ」
「くそ、がっ」
下半身を失ったクロドはなんとか足を元に戻そうとするがもう力は幾分も残っていないらしい。
「あれ?カルマ、手加減した?」
「そういうお前はどうなんだ?アルマ」
「ま、どっちでもいっか」
その上に二つの影がかぶさる。
「ちくしょう」
そう呟いたままクロドの顔に黒い筋が走り、『黒い塵』となって飛んでいった。
これが『魔獣使い(ビーストマスター)』クロドの最後だった。
『ヘイムダル』会議室
鶯劍を前に座った龍牙とソフィアは次の言葉を待っていた。
「帝国は北と南の神殿にある門を解放することでもう今すぐにでもやつらが言う『』を復活できる。
だが、まだ足りないものがある」
「足りないもの?」
「『首輪』」
「首輪?」
「そうじゃないんですか?先生」
龍牙の言葉に鶯劍は頷く。
「その通りだ。奴らはまだそれを手足のように扱うための『首輪』を持っていない」
「それと私たちになんの関係が?」
「俺達がその『素材』なんじゃないんですか?」
「え?」
ソフィアは目を丸くしながら鶯劍を見る。
それに鶯劍は軽く頷いた。
「そうだ。その『首輪』として必要なのがお前ら『四神』の血だ」
「やっぱり」
「そんな・・・」
「だから先に言っておく。もし殺されそうになったら血を差し出して逃げろ」
龍牙とソフィアはその言葉にギョッとした。
それは即ち危なくなったら仲間を見捨てて逃げろと言っているのだ。
「これは嘗ての『暗黒時代』並みの戦いになる。だからこそまだ幼いお前らには生きて欲しい、生き残って欲しい。だから常に選択肢に『逃げる』ということも入れておけ」
それだけだ、と言って部屋の外へ出た鶯劍はその場で足を止めた。
それは誰かがそこにいたのではなく、廊下中に『赤い照明』が点灯し始めたからだ。
「なんだ?」
『警告、警告。
これより『アフターバーナー』起動する。全員所定の位置へ』
「なにがあった?」
鶯劍は近くの伝声管を手に取り尋ねる。
『先ほど本部から緊急連絡が入りまして、実は・・・』
『ヘイムダル』
「おい、さっきのは本当か!?」
珍しく大声を出しながら鶯劍はに駆け込んだ。その後ろに龍牙、ソフィアと続く。
「はっ。ついに開戦するようです。期日は明日。帝国から正式に通告が来たようです」 鶯劍はその答えに唇を噛み締めた。
「遂に始まるのか・・・」
『魔天道』暁天城
「信長様」
定位置である像ではなく椅子に座った信長は顔を上げた。
「勝家か。どうした?」
「帝国が宣戦布告して来ました」
「やっとか」
「信長様?」
信長は立ち上がり、傍らに立てかけていた剣を取り上げ、目の前にかざした。
「50年前の恨み、今晴らす」
その表面は上から差し込む光を反射して、なにか怨念でも宿っているかのようにしく輝いていた。
『ヘイムダル』看護室
「うぅ」
うめき声を漏らしながらベッドに横たわったクロノスは目をうっすらと開けた。
ゆっくりと左右に視線を動かし、辺りを見回す。
消毒液などの医薬品の臭い、医療関係の施設の中かしら、と思いながらも体を起こした。
「起きたか?」
クロノスは懐かしささえ感じるその声にはっとして目を向けた。
「鶯劍・・・」
「久しぶりだな、クロノス。もう百年になるか?」
「ここは?」
「飛空挺の中だ。今、西に向かっている」
「信長がいる場所ね」
「そうだ。すまないな、勤めが終わってすぐに呼び出してしまって」
「別に構わないわよ。所詮私はあの人が残したものを守れなかったんだから」
「『創造神』のことを言っているのか?」
こくりとクロノスは頷く。
2人の間に沈黙が生まれる。
「あの娘はどうしてる?」
それを破ったのはクロノスだった。
「『天空の巫女』か?今は『西』で元気にやってる」
「そう」
その答えにクロノスはどこかホットしていた。
「やはり気になるか?神の最終血統が」
「ええ。彼女ほどの魔力を持っている人間はこの世界にはいないから」
クロノスは窓の外に目を向けた。『アフターバーナー』を起動した『ヘイムダル』はすごい勢いで進んでいるため、風景がそれこそ矢の如く駆け抜けていく。
だがクロノスはそんな光景ではなく、どこか遠くにあるものを見ているようだった。
アルカディア帝国 『栄光の九柱』大会議室
また中央省の大講堂のように吹き抜けになった『栄光の九柱』の大会議室に中心に国王を含め十三人が、上の閲覧席には数え切れないほどの兵士が集まっていた。
「今回、集まってもらったのは他でもない。」
そんな中、蒼龍が話し始めた。
「今日、我らアルカディア帝国は世界政府の名を借りて『魔天道』に対して宣戦布告した」
この場にいる誰もが知っている事実に誰一人として動揺の色を見せなかった。
「今まで他国からの追求を避けるためにわざわざ世界政府などというものを設立したが、今となっては我々にそんなものは必要ない。」
蒼龍は辺りを見回しながら出続けた。
「我々はまた世界政府と一つになり、この戦いで我らはこの世界を高みの見物をしている神の域に達する。」
そこまで言って蒼龍は後ろに立つ国王にマイクを渡した。
「我が同士達よ。今こそ、我らがこの世界をあの憎き冥術師どもから奪い返すのだ!!」
その言葉が終わると同時に壁を壊さんばかりの歓声が湧き上がった。
アルカディア帝国『世界政府』本部
「・・・分かりました」
チンっと音を立てながら受話器を置くと電話に出ていた男は後ろを振り返った。
「どうした?」
そこへ扉の脇に立っていた男が声をかけた。
「動きだすぞ」
「了解」
帝都を見渡せるこの部屋の中、二人の声だけが響く。
「まずは『WNP』を動かすとするか」
「ああ。これでやっと恩返しができる」
二人は笑みを浮かべながらその部屋を立ち去った。
実は自分は今年、受験生なので更新速度が遅く、または停止してしまうと思います。
私事で申し訳ないですが温かい目で見てやって下さい。