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第六話 緑の光

「がっ、ぐっ、」

 肉の山が黒い塵となっていくのを見ていた龍牙は、ドサッと膝をついた。

 その手に握られた旛龍や体中の鱗も塵となって散っていく。

「龍牙さん!!」

 前のめりに倒れていく龍牙を、駆け寄ったソフィアがギリギリのところで受け止めた。

「はっ、はっ、はっ。」

 龍牙の額からは汗が滴り落ち、その息は荒かった。

「くそっ。まだ、足りないのか・・・」

「えっ?」

「父さんや兄さんはこんなもんじゃない。あの人達は強い。」

「お父さんやお兄さん・・・?」

「俺はもっと強くならなくちゃいけない。」

「憎いんですか?お二人が。」

 ソフィアのその透き通った瞳に龍牙は見入ってしまった。

「ああ。あの2人は、俺の・・・」

 そこで、龍牙は話すかどうか迷った。だが、そのソフィアの目は真剣だった。

「・・・親友(とも)を殺したんだ」

 龍牙はソフィアとともに壁にもたれかかりながら、あの惨劇について話し始めた。




「そんなことが・・・」

 もう話すのは何人目かな。


 龍牙は自嘲の笑みを浮かべた。

「じゃあ龍牙さんが旅しているのは、」

「あの2人を・・・殺すためだ」

「っ!?」

 龍牙の目を見たソフィアはその中に、とてつもない意志を見てとれた。

 たった10歳の少年がその小さな胸にここまでの残酷な決意をさせるなんて・・・

 ソフィアは失礼と分かりながら同情のような感情を持ってしまった。

「話こんじゃったな。そろそろ、みんなも戻ってくる頃かな。」

 龍牙は何事もなかったかのように立ち上がった。

 だが、ソフィアは気づいていた。その目の端に涙が溜まっているのを。






 それから間もなくして、エルフの2人が戻ってきた。

「どうだったんですか?」

「さっぱりだね」

「全く何もなかったな」

「あれっ?あの、ドワーフの方はどこに行かれたんですか?」

 ソフィアの声に2人は顔を見合わせ、その船員が消えた左側の通路を見た。

 だがその通路はただ平然と闇をつくるだけだった。

「アレックスのやつは何やってるんだ?どう思う?アルマ」

「何かあったのかもしれないな、カルマ」

 今更だが2人はそっくりだな、と龍牙は思った。

「行くか」

 カルマと呼ばれたエルフが歩き出した。その刹那、


 扉から光の波が噴き出してきた。


「なっ、なんだ!?」

「何が・・・」

「あ、あれ!!」

 ソフィアが指さす先には、先ほどまではびくともしなかった巨大な扉が観音開きしていた。

 この眩い緑色の光はその先から発せられているようだ。

「なんだっていうんだよ・・・」

 呆然とするアルマの横を龍牙は通りすぎた。

「おい!!お前、どこに行くんだ!?」

「聞こえるんだ・・・」

「あ?」

「聞こえるんだ、女の人の声が・・・助けを呼んでいる声が。」

 そう言い残すと龍牙は駆け出した。

「おっ、おい!!」

 アルマの静止の声を気にもとめず、龍牙の姿は光の中へと消えていった。

「ったく、なんなんだよ!?」

「まあ、落ち着け。まずは隊長に報告して指示を仰ごう」

「ああ」

 カルマは耳に付けた通信機に手を当て、話しを始めた。

 その間に扉から溢れてくる光量も少なくなってきたようだ。

「・・・分かりました。失礼します」

 通話が終わったらしいカルマは耳から手を離すと口を開いた。

「合流するのを待て、だそうだ」

「そうか」

「じゃあ龍牙さんはどうするんですか!?」

「姫様、あんな何があるかも分からないところに無闇に行くのは無謀です。」

「ですけど・・・。」

 ソフィアは尚も行こうとするが、その前に2人は立ちふさがる。

「退いてください。命令です」

「その命令には従えません」

 そう言い合っていると、突如また、中から爆発音が聞こえた。

 3人はその音源に目を向けたところで気づいた。


 龍牙がこちらへ吹き飛ばされてきているのを。

「龍牙さん!!」

 そして、その体の中から何かが溢れてくるのを。


 その間にも龍牙は床に落ちてくる、どうやら意識がないようだ。


 みるみる床との距離は短くなるが、3人は誰も動かない、いや動けなかった。

 そして、龍牙が床に当たるそう思った瞬間、龍牙は、


巨大な手に握り込まれていた。


「え?」

 その異様な光景に3人は目を見開いた。

 しばらくすると、その手はゆっくりと床に沈み込み始め、後には龍牙とその脇に抱えられた金髪の女性だけが残されていた。






???


「これか。」

 仄かに灯る緑色の光の中、男は自分の背丈と同じぐらいの高さがある台のまえに立った。

 鏡面のようなその台に映ったのは、龍牙と行動を共にしていたドワーフだった。

「もういいか」

 男は手を奇怪な形で組むと、その体全体が歪み始めた。

 次にその歪みがなくなった時にそこにあったのは、ドワーフの男ではなく、

「ふう」

 帝国軍暗殺部隊隊長、陰戰(いんせん)だった。

「お初にお目にかかる」

 目の前にある台のさらに奥、そこにある透明な結晶に恭しく一礼した。

 その中には金髪の女性が佇んでいた。


 その女性は目を閉じ、祈りを捧げるように手を組んでいる。

「早速で悪いが、ご退場願おう『時の女神』よ。」

 陰戰は懐を(まさぐ)るとそこから周りの光と同じ色に輝く珠を取り出した。


 それはアトランティカにある王宮の宝物庫から奪われたものだった。


 陰戰は一歩踏み出すとそれを台の窪みにはめ込もうと手を伸ばす。だがどこからか、カチャという音を聞いた瞬間、すぐさま後ろへ跳び退いていた。


 珠を持っていない方の手で頬に触れると、口元を覆っていた黒い布は切り裂かれ、その下にあった頬に痛みが走った。


 右を見れば、そこにあったのは刃渡り30センチはある小刀だった。


 陰戰はそのまま首を回し、自分の立つ場所へと走ってくる人影を視界に捉える。


 この円形の空間の中で、中心以外をくり貫かれたようにしてあるここにたどり着くには、巨大な門と反対側に回り、橋を渡る必要がある。今ちょうど1人、その通路をこちらに向かって走っていた。

「また私の邪魔をするか、『流星』」

「お前こそ、何やってるんだよ!!」

 それは龍牙だった。

「『時の女神』にご退場を願っているだけだが?」

「ふざけるな!!」

 龍牙は間にあった崖を恐れもせず、陰戰に跳躍1つで迫り、双劃で斬りつけた。

 だが陰戰はただ体をそらすだけでそれを避ける。

 龍牙は直ぐに刀を返すと陰戰の右腕を斬ろうと刀を振るう。

「甘いな」

 だが、先ほどまでのクロドとの激戦もあって、龍牙の体力は限界に近かった。

 それを軽々とかわした陰戰は腰から引き抜いた針を龍牙の首に突きつけた。

「この際だ。ついでにお前の『神龍』もいただく。」

 陰戰は針の軌道をすぐさま修正し、龍牙の胸目掛けて突き出す。

「がっ!?」

 だが、それが触れる一瞬前に陰戰は吹き飛ばされていた。

「え?」

 それを傍らに見ていた龍牙も唖然とした。

 だが辺りに響く何かが割れる音に龍牙は現実に引き戻された。

 その方向を見れば、あの女性を閉じ込めていた氷にヒビが入っていた。

 そのヒビは次第に広がり、ついには


砕け散った。


 龍牙はとっさに、倒れてくる女性をその腕で受け止めていた。


「この人はいったい・・・」

「『時の女神』」

「!?」

 龍牙は振り返るとそこには無傷の陰戰が立っていた。

「この世界を生み出した『二神』の片割れであり、あの『暗黒時代』を生み出した張本人。


『時の女神』、クロノス」

 女性はその言葉にビクッと体を震わすと目を開いた。

「お前さえ、お前さえあんなことをしなければ、私の家族は死なずにすんだ!!私の部下達も生活を失うことはなかった!!」

 常は冷静沈着な陰戰もこの時ばかりは激昂していた。

「それをお前は、世界を手中に納めたいがために、我々魔術師を利用した!!」「違う。私は、そんなこと・・・」

「黙れ!!もう私たちにお前は必要ない」

 陰戰は手に握る珠を見つめた。

「我々が神となる」

「止めなさい!!あなた達が呼び出そうとしているのは・・・」

「黙れ」

 陰戰は凍てつくような視線を向けながら腰から魔道銃を抜き、引き金を引いた。

「きゃっ!?」

「うっ!!」

 クロノスを庇った龍牙はその弾丸をまともに受け、2人纏めて吹き飛ばされた。

「く、くそっ」

 朦朧とする意識の中、自分の見慣れたモノを見つけた。

 龍牙は左手でクロノスを抱え込むと右手で壁に突き刺さった雷鮫をしっかりと握り締め、その勢いを殺した。

だが、それでもここは崖に突き出た結晶。 今度は人を地面に縛り付ける鎖である重力が龍牙の腕を襲った。

 もう翼を広げるほどの力もない龍牙はまさに八方塞がりだった。

「お前たちはそこで見ているがいい。

 これでまた我ら帝国の栄光が近づく」

 露わになった口元に浮かぶのは笑み。

「さあ、開け。南の門よ!!」

 陰戰はそのまま珠を窪みにはめ込んだ。

 ガチャンという音を合図に台が中心の珠の部分を残し、6つに別れていく。

「うわっ!?」

 だがそれは台だけでなく、中心部分自体が6つに分かれ、広がっていく。

 龍牙は振り落とされまいとよりしっかりと雷鮫を握り締めた。

「ぐっ」

 突如、目の前に光の柱が現れた。

 その眩い光に、龍牙は目を覆いたくなるが、両手が塞がっている今、それすらできない。

 狭めた視界の中、中心に立つ陰戰が見えた。

「・・・」

 吹き荒れる風のせいでその声は聞こえなかったが、龍牙は何か不吉なものを感じていた。

 しかし神は龍牙にそんなことを考えている暇すら与えてくれないらしい。

 狭まれた龍牙の視界はいつの間にか黒いものに覆われていた。

「嘘だろ・・・」

 それは直径1メートルは裕にある岩だった。

 それがなんなのかを知り得ても今の龍牙にはどうしようもなかった。

「があっ!!」

 黒い砲弾をモロに受けた龍牙はクロノス共々吹き飛ばされた。

「ちく、しょ・・・」

 そしてそこで龍牙は意識を手放した。







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