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第五話 海底に潜むは・・・

二手に分かれてから龍牙達は実に20分もの間、階段を降り続けていた。

先頭を5人の内唯一のドワーフの男が行き、その後ろに2人のエルフの男、その後ろを龍牙とソフィアが歩いていた。

下るにつれ、壁の材質が変わっていくのを見ながら龍牙はいい加減だるくなってきた足を踏み出す。

その横ではソフィアが軽く肩で息をしていた。

「大丈夫か?ソフィア。」

「え、ええ。大丈夫です。」

手の甲で額の汗を拭いニコリと笑って見せるが、無理をしているのは明らかだった。

「ほら。」

龍牙は一歩ソフィアの前に出ると体を屈めた。

「いや、いいですよ。まだ大丈夫ですから。」

「無理は禁物だ。

これから戦闘があるかもしれないからな。」

ソフィアはしばらく悩んだが、皆を待たせる訳にはいかないと思ったのだろう、そのまま龍牙の首に腕を回した。

龍牙はそれを確認すると、立ち上がり一度ゆすり上げて歩き始めた。

「私の方が年上なんですよね・・・?」

「ああ。俺、まだ10だから。」

「ええっ!?」

ソフィアの声に何事かと前の3人が軽く振り返った。

口を手で押さえばつの悪そうにソフィアは顔を俯ける。

その仕草に苦笑しながらも龍牙は自分の足下を見た。

160を超える身長と、それなりについている筋肉は、明らかにその年齢と不釣り合いとしか言いようがなかった。


中にはこの体を羨ましがる者もいるかもしれない。だが龍牙はこの体が大嫌いだった。


周りと明らかに違う子供というのは基本的に敬遠されがちである。


龍牙もその例に零れず、この身長のため、昔から龍牙は同じ年頃の子供達から避けられていた。

さらに我狼家の家風も相まって龍牙には友達と呼べる者がいなかったのだ。


そこまで思い返したところで、龍牙はまた今はもういない4人の親友の笑顔が脳裏を掠めた。

「龍牙さん?」

「ん?ああ、ごめん。ぼーっとしてた。」

無意識のうちに握りしめていた首飾りから手を離し、龍牙はしっかりとした足取りでまた階段を降り始めた。






それからさらに5分ほど下ると、今までの壁だけだった風景はガラリと変わり、広い空間に出ていた。

そこへ降り立った5人は、この異質な空間を見回した。

寸分違わず並べられた岩壁、巨人の像を左右に構えた見上げんばかりの門。


どれもが規格外だった。

その床には雪でも積もったのかと見紛うほど、綺麗に埃がたまっていた。恐らく何十年何百年とここに人は来ていないのだろう。


辺りを見回しながらも先までと同じ隊列で門の前へと歩を進めた。

近くで見るとやはり門や像は大きかった。

「うわあ。」

呆然とそれを見上げる龍牙とソフィア。

その前では、3人がその門を開けようと必死に押しているが、案の定ビクともしないようだ。

この人数では無理、どこかに開閉スイッチがあるはず、と判断した5人はそれぞれ思い思いの場所へ移動し、捜索を始めた。

見れば左右に一本ずつ通路があるようで、龍牙とソフィアを門の前に残し、3人はその通路へと歩き出した。

その姿が見えなくなると、

「これっていつ作られたんですかね?」

「さあ。もしかしたら、この世界ができたころかもな。」

『正解だ。』

急に広場に響いた声に龍牙はとっさに背中の双劃を握っていた。

「誰だ!?どこにいる!?」

龍牙は左右を見渡すが誰もいない。

「ここだよ。」

気配のする上空に目を向けるとそこには黒い足先まであるコートを羽織った、黒い短髪の男がいた。その背中には悪魔のような黒い鋭い羽が生えていた。

龍牙はとっさに双劃を抜き、顔の前に構えると、丁度その位置に黒い波動が飛んで来た。

それを斬り伏せた龍牙はまた男へと視線を向ける。

「いい反応だ。しかも頭もいいみたいだな。よく『避けなかった』な。」

「ちっ。」

「まずは自己紹介といこうか。

俺はクロド。『ニヒリズム』だ。」

「『ニヒリズム』!?」その一単語は龍牙の目を丸くさせるのには十分だった。

「へえ、知ってたのか。意外だな。だけど今はそれはどうでもいい。」

床に接したクロドの足から黒い煙のようなものが辺りに広がっていく。

「『兄弟』の仇、とらせてもらう!!」

そのまま駆け出したクロドに合わせ、周りに漂っていた黒い煙もまた龍牙に襲いかかった。

獣の牙、爪などの形に不規則に変化する煙に何かを感じた龍牙は小脇にソフィアを抱えて跳んだ。

空中で一回転し、そのままクロドを飛び越えてまた地に足をつけた。

「ソフィア、下がっていてくれ。」

龍牙はクロドから目を離すことなくそう告げた。

ソフィアもまた龍牙の足枷となりうることを知り、素直に後ろへ下がる。

龍牙は気配でそれを感じとると、しまった双劃の代わりに首飾りを弾いた。

「『兄弟』の仇って、人違いじゃないか?」

「しらを切る気か?

お前はあの四兄弟とやりあう前に俺の『兄弟』を21も殺したんだからな。」

龍牙はしばし沈黙し、クロドの周りに漂う黒い煙を見てハッとなった。

「あの魔物たちか?」

「やっと思いだしたか・・・だが、もう遅い!!」

いつの間にか龍牙の横に立っていたクロドが黒く鈍く輝く右手で襲いかかった。

「っ!!」

龍牙はとっさに横に避けるが、黒い爪が龍牙の左肩を引き裂いた。

そのまま床を転がり、立ち上がろうとするが、またも目の前に黒い爪が迫ってきた。

龍牙は旛龍を振るってそれを弾き返す。

クロドはそのまま後ろへ跳ぶと2人の間にまた静寂が訪れた。

2人から発せられる力のせいか、吹くはずのない風が2人の黒髪を揺らしていく。

龍牙が旛龍を正面に構えると、それに合わせ髪の色素が薄まり、銀髪へと変わっていた。

「そうだ、その銀髪だ。

俺の『兄弟』を消した憎き色。」

両手に黒い霧を纏いながら憎々しげに呟いた。

「『兄弟』を失った虚脱感、お前に分かるか?」

「魔物が兄弟なんて変わってるな。」

皮肉ともとれる龍牙の言葉にクロドの眼光が鋭くなるが、それだけだった。

挑発に乗ってくると期待していた龍牙は軽く舌打ちをした。

「お前には、消えてもらう。」

霧を足へと絡みつかせながら、右手を龍牙に突き出した。

「俺の手でな!!」

その突き出された右手を握りこむと同時に、


また戦闘が始まった。






???


全体的に青で統一された大型飛空挺の中、その操縦室では船員が慌ただしく動きまわっていた。

「目標まで後どのくらいだ?」

その中で唯一平然としている艦長であろう女が傍らに座る航空士に尋ねた。

「後、一時間ほどです。」

「よし、ではこれより全員戦闘準備に入れ!!砲撃兵は弾薬や砲弾などのチェックに回れ!!」

「「「「はっ!!」」」」

艦内はさらにその慌ただしさを増すのだった。





龍牙はその眼を紅と碧に染めながら駆け出した。

狙うは足。

一瞬にして間合いを詰めると体を屈めながら旛龍を横に薙いだ。

クロドはそれを上に跳躍、そのまま龍牙のこめかみ目掛けて右回し蹴りを放つ。

常人では反応できないその攻撃を龍牙は左足を浮かせ重力を利用することで横に逃れた。

追撃がくると呼んだ龍牙は瞬時に左腕に銀色の鱗を纏わせ、巨大化させた。

案の定、そこへクロドの黒い爪が打ち込まれ、派手に火花が散る。

しばらく押し合うとお互いがお互いを弾き返し間をとり、また助走をつけてぶつかった。

一度、二度、三度、もう傍らにいるソフィアには2人の動きは捉えきれず、ただぶつかった時に生じる火花の波しか見ることができなかった。

何度目かの交錯でクロドは旛龍を蹴り付けると今までより少し遠く間をとり、着地すると同時に地面に手をついた。

「もう限界か?全くたいしたことな・・・なんだ?」

その言葉を紡ぐ途中に龍牙は自分の周りの異変に気がついた。

龍牙の周りを黒い霧が囲んでいるのだ。

「喰らえ、」

蠢くその霧が少しずつ形を整えていく。

「『地獄剣山(ヘルファング)』!!」

そして四方八方から黒い犬型の魔物が龍牙に襲いかかった。

「ふっ。」

龍牙はすんでのところで上へ跳び、回避した・・・ハズだった。

「ぐっ!!」

だが、その肩にいつの間にか出現していた黒い蛇が鋭い牙をたてていた。

「くそっ!!」

旛龍を短く持ち、その首を切り裂くが、まるで何ごともなかったかのように蛇の噛みつきは強くなっていく。その間にも周りにあた魔物達は龍牙の体中に傷をつけていく。

龍牙はすぐさま左肩に鱗を纏い、無理やりその魔物の牙から逃れた。

「くっ!!」

龍牙は黒い包囲網から飛び出し間合いを取ると全身の状態を確認した。

体中に鋭い痛みが絶え間なく走り、魔物達に引き裂かれたスーツはもうそれ本来の機能は果たせていなかった。


確認を終えた龍牙に、今度は腕に黒い犬の首を手に装着したクロドが迫る。

打ちつけるように上から繰り出されたその攻撃を龍牙は避けずにその刀身で受け止めていた。

「よく止めたな。」

「くっ!!」


龍牙は苦しそうな表情を浮かべる。

「そりゃあそうだよな。

少しでも建物に亀裂が入ればそれで終わりだから、な!!」

クロドはそのまま腕に力をこめ、刀ごと龍牙を吹き飛ばした。

「まだまだ!!」

クロドはまだ宙に浮いたままの龍牙に何度も攻撃を加え、最後には黒い霧を雲のように展開したところへと蹴り込んだ。

「『獄蛇の(ヘルバイト)』」

その黒い霧からは無数の黒い帯が出現し、縛り付けようと龍牙の体に触れる、その一瞬前、

ソフィアは見た。

龍牙が両手に光輝く旛龍を握っているのを。

そして、


黒い紙吹雪が散った。


「なっ!?」

驚くクロドの前にヒラリと龍牙が着地した。

その手に握られているのは、『2本』の旛龍。


「『旛龍』 第二破型『双極刀(そうきょくとう)』」

左手で逆手に握った旛龍をクルクルと器用に回しながら龍牙はクロドに向かって歩き出した。

唖然としていたクロドだったが、すぐにまた余裕の笑みを浮かべた。

「ふん。今更『破型』したところで、俺に勝てはしないぞ。」

クロドが足を踏み出すとなぜかそのコートが翻され、その裏から大量の魔物が出現した。

「お前ら!!待て!!」

出現した犬や蛇、鳥などの形をした魔物達は、一目散に龍牙へと襲いかかる。


だが、その何十もの魔物達は一瞬にして霧散した、龍牙のその一振りで。

クロドは散っていく黒い霧をただ見つめるしかできなかった。


「また俺の『兄弟』を、やったな。」

怒りの表情を浮かべたままクロドは龍牙にまた躍りかかった。

「死ねえ!!」

だがその動きに先ほどまでのキレはない。

龍牙はただ刀を握る手に力をこめると、クロドの手よりも早くその体を貫いた。



「ごめん」

クロドの体に旛龍を突き立てたまま龍牙は震えていた。

「ごめん。」

魔物とはいえクロドにとっては掛け替えのない家族だったのかもしれない。

「ごめん。」

それを殺めてしまった龍牙はただ謝るしかなかった。

「ごめん。」

「何がだ?」

「え!?がはっ!!」

突然発せられた声に驚き、顔を上げるとその頬を思いっきり殴りつけられた。

何度か床をバウンドしながらも龍牙は体勢を立て直し、『それ』を見た。

全身に黒い、しかしところどころ白い霧を身に纏ったクロドを。

「ふん。」

クロドは自分の胸を貫く旛龍を自分で抜くと、それを無造作に投げ捨てた。

「な、なんで・・・」

「なんで?理由はいたってシンプル。俺は『魔物使い(ビーストマスター)』と呼ばれている。」

そういいながらクロドは自分のコートに手をかけた。

「だけどそれは魔物を自由に使えるからじゃない。」

クロドはコートなどを脱ぎ捨て、上半身を露わにした。

「なっ!?」

龍牙はその姿に驚愕した。なぜなら、その体に数え切れないほどの魔物の頭が生えていたからだ。

「その身に住まわせている魔物の数だけ命があるからなんだよ。」

「『兄弟』ってそういうことか。」

「また1人死んだ。お前の命で償ってもらおうか。」

クロドは全身をまた黒い霧で纏い、硬質化させながら龍牙に迫り、そして怪物じみたその剛腕で殴りつけた。


その一撃は建物を揺らし、派手に埃を巻き上げた。




「この程度か、神龍。」

クロドはまだ生々しく潰した感覚ののこる右腕を引き抜いた。

「ん?」

そこでクロドは違和感を覚えた。

ふとその手を見るが血液はついていた。だが何かが違う。

遅れてクロドはその手に裂けるような痛みを感じた。

その血はクロドのものだったのだ。

クロドはバッと前に目を向けるがそこには誰もいない。

「どこにいった!?神龍!!」

「ここだ。」

クロドがその声の方へ目を向けた瞬間、ドスッという鈍い音とともにその体が揺れた。それに遅れて旛龍が壁に刺さる音が聞こえる。

「ぐふっ。」

クロドの口から息が零れた。

いくら多くの命を持っていても痛覚は生きているようだ。


腹を貫かれたクロドは口の端から血を流しながら、それを投げつけた方を睨みつけた。

その手にはもう一本の旛龍があった。

「そろそろ終わりにしようか。」

「舐めるな!!」

クロドは走り出そうとしたが、なぜか旛龍に貫かれた部分に違和感を覚えた。そうまるで、


何かがまだ貫通したままのような。


クロドは傷口に手を当てるが何も触れられない。だがやはり何かに引っ張られている感触がしていた。

「悪いけど、これで終わりだ。」

いつの間にかクロドの後ろに回り込み、壁に刺さった旛龍を引き抜いた龍牙は、諭すように言った。

「なんだと?」

クロドは振り返ろうとするがなぜか金縛りにあったかのように指一本動かせない。

「なぜ、なぜ動かない!?」

「見せてやるよ。」

龍牙が2本の旛龍を打ちつけ、カチンと音をたてるとその2本の旛龍からクロドまで一直線に銀色に染まっていく。

それは次第にクロドの方へと伸びてゆき、最終的にはクロドの体は銀色の鎖が完璧に縛り付けていた。

「なっ!?」

見ればその鎖はクロドの傷口も貫通していた。

「冥力を実体化する、前に戦った相手の技だ。どうやら俺にも使えるみたいだ。」

「冥力で編んだ鎖だと!?

じゃあまさかさっきの攻撃も!?」

「そういうことだよ。冥力に形を与えるということは形状は自由。

ここまで言ったらあんたなら分かるよな?これから俺がすることが。」

龍牙は両手の旛龍をしっかりと握りしめた。

「まさか・・・止めろ!!」

「じゃあな、ビーストマスター。」

そして龍牙はそれを思いっ切り引き、



クロドの体を血肉の山へ帰した。





???


「ここか・・・」

雑多なものが置かれた倉庫の中、男は背伸びをして一個だけ壁から飛び出したブロックを押し込んだ。

すると何かがハマる音とともにゆっくりと男の足下にぽっかりと穴が開いた。その奥からはうっすらと緑色の光が見えた。

男はニヤリと笑みを浮かべると、そのままその闇の中に姿を消した。






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