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第二話 捜索隊


アトランティカ街道


海底なのに上には空が見える。

そんなおかしな風景に首を傾げながら、龍牙はなぜか迎えに来ていたソフィアの後について歩いていた。

「あれは映写の魔法を応用したものなんです。あのドームをスクリーンにして映し出しているんですよ。」






昨夜の時点ではリンダが迎えにくるはずだったのに、朝部屋に迎えに来てたのはなぜかソフィアだった。


しかも、何か様子が変だ。そう龍牙の直感がそう告げていた。


だが具体的にどこがと聞かれてもなんともいえない。


聞くべきか聞かざるべきか。


龍牙がそうこう悩んでいるうちに2人は街道にさしかかっていた。

朝早いのに、街道は意外にも混んでいた。

ソフィアとはぐれないようにしないとな、と思っていた龍牙だったが、その考えは杞憂だとすぐに分かった。

「ふふっ」


もぞもぞと動き回るそれを見て龍牙はまた笑みをこぼした。

それは自分の腰ほどしかないドワーフ族の人達の頭だった。


だがやはり歩きにくいことに変わりはなく、あまり思うように進まない。

だがそれ以上龍牙が気になったのは、その中を縫うように進んでいる間、妙に明るく話すソフィアだった。

「なあ、」

「なんですか?」

「何かあった?」

「なんでですか?」

「いや、なんか無理してそうだったから。」

「そんな訳ないじゃないですか。」

アハハと作り笑いだとすぐに分かるような笑顔を浮かべていたが、ため息を1つつき肩を落とした。

「ばれてました?」

「ああ。」

ソフィアは作られた空を見上げた。

「・・・悔しいんですよ。」

「悔しい?」

「あなたのような子供に、しかも他の国の人に、こんなことをやらせるのはやはり・・・」

君の方が子供っぽいけどね。

そうは思ったがそこは口に出さなかった。

「いいよ。」

「えっ?」

龍牙の答えに驚きソフィアは足を止め、振り返った。

「俺は1人でも多くの親しい人を助けたい。そう思って今まで旅してきたから。」

「そう、ですか・・・」

ソフィアはその言葉に顔をうつむけた。

「まだ・・・」

「?」

「まだ今なら引き返せますよ?」

「なんでそんなことを?」

「嫌な予感がするんです。」

「嫌な予感。」

「ええ、誰かが傷つきそうなそんな予感が。」

ソフィアの顔色からして前にも同じ感じのことが起こったことがあるのだと龍牙は察した。

「大丈夫!!」

だからこそいつも以上に元気に返した。

「俺が守る!!」

その龍牙の言葉に一瞬唖然としたがすぐにクスリと笑った。

「そうですね。」

笑われたのは少し心外だけど、元気になったのだからよしとするか。


「じゃ、行くか」

「はい!!」

2人は知らず知らずのうちに駆け出していた。





アトランティカ 発着場


アトランティカのはずれにある発着場にはおもちゃの街のように色とりどりの船が並んでいた。

向こうには赤、青、緑、こちらには黄色、紫、白、そして、黒。

「これか。」

「はい。」

あれからノンストップで走りつづけた2人は実際なら歩いて30分の距離を10分でたどり着いていた。

そして今、全体が真っ黒に染め上げられた船の前にいた。

水中を進むため耐水性に特化した滑らかな曲線をしているそれに、龍牙は目を奪われた。

「これはソフィア様。もうお着きになってましたか。」

後ろからかかった声に振り返ると、そこには白い制服に身を包んだドワーフ族の男がいた。

「あっ、ライスさん!

ええ、今回はお世話になります。」

「いえいえ。で、そちらの方は?どうやらエルフでもなさそうですね?」

「ああ、艦長もご存知ですよね?白狼村の使者が来たというのは。」

「ええ、もちろんです。ということは、こちらが?」

「ええ。」

「これは失礼。私は長年この『ライオネル号』の船長をやっています、ライスです。よろしく。」

「我狼龍牙です。よろしくお願いします。」

差し出された手をしっかりと握るとライスに中へと案内された。

中は意外にも広々としており、様々な部屋が用意されていた。

ライスは用事があるらしく、手の空いている船員の1人に案内させた。

「こちらがトレーニングルーム。こっちがルーム。

もし色々と飲食するなら各自の部屋またはここにある食堂でお願いします。

この奥が各自の部屋となっていますので、ソフィア様は100号室、そちらの方が101号室になります。」

船員は2人に鍵を手渡すとぺこりと頭を下げ、立ち去っていった。

それを見送り、龍牙はソフィアと並んで割り当てられた部屋を探した。

「意外と広いんですね。」

「確かにここまでとは思ってなかったよ。」

「あっ、ここですね。」

ソフィアが立ち止まったドアには『100号室』というプレートがかかっていた。

「じゃあ、俺はこっちか。」

その右隣にある部屋に『101号室』というプレートがかかっているのを確認すると渡された鍵を差し込んだ。

ガチャリと鍵が外れるのを確認してからノブを回し、開けた。

「それじゃあ龍牙さん、30分後に中に置いてある服に着替えてここに集合しましょうね?」

「了解」

ソフィアが部屋の中へ入ったのを見届けてから龍牙も自分の部屋に足を踏み入れた。

中は、机にベッド、よこにあるドアの奥にはトイレと風呂があるといった意外にも質素な感じだった。

だが、逆にこっちの方が龍牙は落ち着けた。

ベッドにドカリと腰を下ろすとそのベッドの上に服が置かれているのに気がついた。

それを手に取りよく見てみると、どうやら今着ている服の上から着るものらしく、少し大きめのライダースーツのような黒い服だった。

紋章が編まれた服を置いておくのは少々気が引けていた龍牙に取って、これもまたありがたかった。





それからしばらくして、龍牙は2つの部屋の間の壁にもたれかかっていた。

「すいません、龍牙さん。待たせてしまって。」

「気にしなくていいよ。」

龍牙は背中を離して自分の体を見回した。

「これ着方あってるよな?」

「ええ。大丈夫ですよ。

とりあえず行きましょうか。」

「ああ。」

2人はまた並んでブリーフィングルームへと向かった。

その途中に何度か船員とすれ違ったが、その度になぜか睨まれた気がした。

この中でだけではない。

街の中を歩いて来た時も妙な視線を龍牙は感じていた。

「気にしないでください。」

「何を?」

「さっきから見られているでしょう?」

「ああ。だけどそれって俺みたいな普通の人間が珍しいだけじゃ・・・」

「確かにこの街に人間はいませんが・・・そうですね。先に話しておきましょうか。」

ソフィアは少し辺りを窺うと話し始めた。

「実は私たちは元々ここに住んでいませんでした。」

「じゃあ、どこに?」

「『スプリングル』」

「えっ?」

「龍牙さんは『暗黒時代』の話はご存知ですか?」

「ああ、一般常識程度には。」

「では、その時代が2つ存在することは?」

「2つ?」

「知らないですか。ええ、『暗黒時代』と言っても『第一次暗黒時代』、『第二次暗黒時代』の2つに分かれるんです。

『第一次暗黒時代』では『魔力』を持つ者たちの暴走によって始まり、『魔力』の封印で終わりました。

それから100年の間を開けて、『魔力』の復活に伴って、『魔力』を使う人の権利を奪還しようとしたのが始まりでした。これが50年前の話です。


私たちに関係しているのは間にある100年間、『魔力』を扱っていた人達は『冥力』を扱う人に迫害され始めたこの時期です。

それは一方的なものでした。『魔力』を失った人達は対抗する術もなく、ただ殴られ蹴られ、屈辱的なものでした。

その空白の100年間に私たちの本当の故郷である『スプリングル』は奪われたんです。」

龍牙はそれになんとも言えなかった。


そんな酷いことをしていたなんて・・・


「だけど、龍牙さんの故郷である白狼村の人たちは最後まで私たちに協力してくれた、数少ない仲間です。本当に感謝しています。

だけど、実際この戦いはまだ終わっているとは言えません。」

「なんで?」

「またなにやら北の大陸の方で不穏な動きがあるようです。

もしかしたら、また暗黒時代のような血で血を洗うような戦いが起こるかもしれません。

だけど、私たちは今度こそ戦います。私たちを助けてくれた人たちのために。」

「そっか。」

龍牙はなんと言っていいか分からなかった。全ての返答がソフィアの決意の前ではちっぽけなものに見えたからだ。

「だけど、なんか実際に体験したみたいな言い方だな。」

「ああ、実は母が丁度その頃に生まれたからよく話してもらったんですよ。私はまだ16なんで。」

龍牙は顎をはずれるほど口を開けて唖然とするしかなかった。

「ええぇぇぇぇ!?」

龍牙のその叫びに、こちらに歩いて来たエルフの女性は資料を落とし、隣にいたドワーフの男は飛び上がり、その資料をモロに頭にもらうとそのまま昏倒した。

だが龍牙はそれどころではなかった。

「ええ、なにか?」

「いや、だって、ええ?

だったら、ごめん。俺、年下なのに。」

「気にしなくていいですよ。逆にかしこまられると気分が悪いので。」

その天使のような微笑みに龍牙は安堵の表情を浮かべた。

「あっ、ここですね。」

見れば、もうすでにブリーフィングルームの前にいた。

どうやら他の人たちは集合しているようだ。

2人はそのまま躊躇いもなく入っていった。






ブリーフィングルーム


「すまない。会議室には入りきらない人数だったので急遽ここに変更させてもらった。」

前でライスが音声拡散器(マイク)を片手に話し始めた。

「今回の任務は、皆知っての通り。あのおかしな空間の調査だ。」

龍牙はそれを聞きながらも周りに視線を巡らした。

椅子に深く座り背筋を伸ばして聞く人、浅く背もたれに寄りかかっている人、はたまた壁に寄りかかっている人など様々だ。

「今、あの空間は我々『アトランティカ』にとって脅威となりつつある。」

やはりドワーフやエルフしかいないのか。

龍牙はそう思い視線をライスに戻そうとした時、1人の男が目に入った。身長からしてドワーフではない。だがその耳は尖っていなかった。

「人間?」

「我々『ライオネル号』が民の不安を取り除かなくてはならない!!」

それはまさしく人間だった。


だが、ここに人間はいないはず。なのになぜ?


龍牙がそうこう考えている内に男は視線に気づいたのか、颯爽と部屋を出て行った。

「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる。」

「分かりました。」

ソフィアに一言断ると龍牙は急ぎ足でその男を追うために、部屋を飛び出した。






???


誰もいないはずの倉庫からは、ごそごそという音が絶え間なく響いていた。

全く明かりをつけていないその中を、黒い影がなにかを漁っていた。


その部屋の扉には、『宝物庫』の文字が刻まれたプレートが。


しばらく鳴っていた音がピタリと止んだかと思うと、その影はゆっくりと目的のものを手に取った。

「見つけたぞ、『悲しみの珠』を。」

その手に握られたのは緑色に輝く珠だった。







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