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番外編 親友(とも)との出会い

僕は今でも4人に会った日のことは覚えている。恐らく、一生忘れないだろうな。






昔の僕は今みたいに一人ぼっちだった。遊ぶのも1人、何かをするにしても常に1人っきりだった。

我狼家は他の家とは違って、『子供だから』という理由が通用しない。だから小さかった僕は誰か友達とあそんだことがなかった、いや、友達すらいなかったのかもしれない。


当然、そんな家族の間でする話題もなく、毎日が孤独な日々だった。






だけど、どうやら『神』は僕を見捨てなかったらしい。


ある日の朝、僕は日課であるランニングをしていた。ランニングとは言っても普通の道ではなく岩山を登るのだが。


しばらく登り、折り返し地点に来たところで僕は、目の前に同い年ぐらいの少年がいるのに気づいた。

僕に気づいたのかその子は振り返ると笑いかけてきた。

赤い髪に鳶色の目、どこか活発な雰囲気を漂わす少年だった。

「こんなところにいるなんてめずらしいね。なんて名前?」

「りゅうが。」

「りゅうが、か。ぼくはかんや。よろしくね。」

突然差し出された右手に俺は訝しげな視線を向けていた気がする。

だけど、かんやはそれを気にもせず僕の手をとり、握りしめた。



これが僕と燗耶の出会いだった。



それから毎日、僕はランニングに行っては折り返し地点で、燗耶と話して、少し遊んで、そして家に戻る。

これを繰り返した。

時間にしてみればたった10分。

だけど僕の灰色の世界を彩るには十分な時間だった。



それからしばらくして、父さんが俺に一週間だけ自由な時間をくれた。

なにやら泊まり込みで修行に行くらしく、その間は稽古を見れないからだそうだ。

俺は次の日の朝、またいつものようにいつもの場所に向かい、そこに待っていた燗耶にそのことを話した。

「なら、ぼくのともだちにあわない?」

「ともだち?」

「うん。ともだち。」


恐らく、この時が一番最初に『ともだち』という言葉を知った時だった。




それから数日後、父さんは言っていた通り、兄さんを連れて出掛けて行った。

完全に出て行ったのを確認すると、僕は財布を大事に肩から提げた鞄に入れて家を飛び出した。




「うわあ。」

燗耶に連れられ商店街に来た僕はその人や物の多さに圧倒された。そしてまた自分は街の中にいるのだと実感した。

「こっちだよ。」

燗耶に手を引かれ、路地を抜けるとそこは少し広い公園だった。

そこには3人の子供がいた。

少年が1人、少女が2人。その3人は燗耶を見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。

「りゅうが、これがぼくのともだち。」

「きみがりゅうがくん?ぼく、りんど。よろしくね。」

茶色がかった黒髪に青色の瞳、少し中性的な顔立ちをしていた。

「わたし、かれんよ。よろしく。」

その横に立つ、ハキハキした感じがする茶髪のショートカットが口を開いた。

「よろしく。」

「えっと、わたしの名前はりんか。なかよくしようね。」

「う、うん。」

僕と同じ黒い目に腰まである黒い髪の少女。

その少女の目を僕は真っ直ぐ見れなかった。今思えば一目惚れだったのかもしれない。

僕たちはそのまま公園の中で色々なことをして遊んだ。追いかけっこもしたし、かくれんぼもした。

楽しかった。いつまでも続けばいいのにと幼いながらに思ったのを覚えている。




だが、楽しい時間は早く過ぎるもので、あっという間に自由だった一週間は過ぎてしまった。


だけど、寂しくはなかった。なぜならちょくちょく家を抜け出して遊びに行っていたからだ。

何度もバレたが、そのたびに修行をしていたと嘘をついた。

少し罪悪感があったが、4と一緒にいる時間はそれを吹き飛ばすくらい楽しかった。

燗耶と走り回り、華蓮とおやつを食べ、燐堵とラーメンの早食い勝負をやり、凜香と一緒に笑った。



だけど、もうその4人はいない・・・



龍牙は4人の亡骸を前にして、涙が止まらなかった。

「なあ、燗耶。また一緒に走り回ろうよ。絶対に負けないからな。」

返事はない。

「なあ、華蓮。また『福福亭』のいちご大福、食べようよ。」

返事はない。

「なあ、燐堵。また『銀龍』のラーメンで早食い勝負しようよ。」 返事はない。

「凜香。また、一緒にいてくれよ。好きだって言ってくれよ。」

返事はない。

「みんな、また一緒に笑ってくれよ!!死なないでくれよ!!1人にしないでくれよ!!」

だが、4つの亡骸は口を開くことがなかった。

「うわあああああああああああああああああ!!!!!!」



龍牙の瞳から大粒の涙が零れる。


龍牙はそのまま涙を拭いもせず、燗耶と凜香の瞼を閉じると、立ち上がった。


その瞳に今までにない色が宿り始めていた。



「許さない。」


その震えるたった一言が龍牙の気持ち(こころ)を映し出していた。


「お前らだけは絶対に!!」



そして、世界は真っ赤に染めあげられた。







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