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第壱拾四話 敵襲


暁天城最上階 魔窟


蘭丸(らんまる)か。」

「はい。信長様。」

腰ほどまである長髪を後ろで束ねた、女性かと間違えるような美形の青年が信長の前で片膝をついた。

「実は・・・」

「敵か。」

「お気づきで、いかがしますか?」

「主がゆけ。」

「はっ。」

蘭丸は一礼すると足早にその場を去った。

「ついに始まるか、『新時代』が。」

信長のその言葉は単なる独り言なのか、それとも誰かに向けられたものなのか。

ただその表情から分かることが1つ、


この状況を楽しんでいるということだけだった。




暁天城城内 広場


仮面の男はマントの裾を引きずりながらもすでに本丸の前にある広場の真ん中にさしかかっていた。

その後ろを見れば、すでに戦闘があったのでろう足や腕などの残骸が転がっていた。

残っている衣装からして警護兵のものらしい。

男は一度本丸の最上階を見上げるとバサッとマントを翻した。

「ゆけ。」

すると、そこから無数のムカデが現れ、瞬く間に広場を真っ黒に染めあげた。

それは徐々に移動を始め、隙間という隙間から本丸の中へと侵入し始めた。

「派手にやってるな、羅門(らもん)

広場の真ん中に立ち尽くした仮面の男に塀の上から声がかかった。

亞琥都(あくと)。」

月夜に浮かび上がった影はひらりと宙を舞うと羅門と呼んだ仮面の男の前に優雅に着地した。

切れ長の目に少し長めの黒髪、スッとした鼻には銀縁のメガネがのっていた。

「これならもう気づかれているよな。」

「兄さん・・・どこ・・・」

「人の話くらい聞いて欲しいんだけどな。」

「お前たちか、侵入者というのは。」

その図太い声に2人は揃ってその方向へ目を向ける。

すると本丸の横にある平屋の中から禿頭の男が現れた。

「俺は名を佐久間(さくま) 勝家という。手合わせ願いたい。」

月明かりに照らされたのは信長に報告していた勝家だった。

それを見た羅門はすぐさま飛びかかろうとしたが、それを亞琥都が手で制した。

「俺がやる。お前は捜索を続けろ。」

「・・・わかった。」

羅門は素直に頷くと、後ろに跳んで距離をとりムカデ達に全神経を集中した。

それを確認した亞琥都は一歩踏み出し腰から一丁の銃を取り出した。

銀色のボディに3点バースト(一度に3発の弾丸を撃てる)を付け、さらには少し長めのマガジンを付けていた。

「というわけで俺が相手をするよ、おじさん。」

「ふん。」

勝家は鼻を鳴らすと右手に持っていた槍をしっかりと両手で構えた。

それに対し亞琥都は自然体だった。

月が雲に隠れ、辺りを静寂が支配する。

その黄色い姿が現れた瞬間、2人の足下で砂利が弾けた。

「はっ!!」

勝家は数歩駆けた所でその手に持つ槍を横に薙いだ。

亞琥都はそれを後ろに跳んでかわすとその体勢のまま引き金を引いた。

スパパパンという3点バースト特有のこぎみよい音と共に金属同士がぶつかり合う音が辺りに響いた。

「小賢しいわ!!」

それは勝家は迫り来るその弾丸を『攻撃しながら』防いだ音だった。

そんな攻守を組み合わせた烈火のごとき勝家の攻めに、亞琥都は自然と回避に専念せざるを得なかった。

「どうした?逃げてばかりでは勝てぬぞ?」

勝家の挑発に亞琥都は避けながらため息をついた。

「そうだよな」

「もう終わりか!?」

「そろそろ限界かも。」

「なら逝けぇ!!」

勝家はさっきよりも一歩前に詰めるとまた横に薙ぎ、銃を持つ亞琥都の右腕を狙う。

だがそれは右手の銃によって防がれた。

「!?」

安全な刃の部分ではなくそのすぐしたに銃を当て、防いだ亞琥都は驚き、軽く目を見開く。

一瞬の交錯の後、2人は一定の距離を開け、止まった。

亞琥都は左手で右頬に触れると指先にぬるぬるした血が絡みついた。

かなり深く裂けていた。

「よくかわしたな。」

「『三連棍(さんれんこん)』か。」

『三連棍』とは一種の仕込み槍である。普通の槍を3つに分け、それらを鎖で繋いだものである。

これにより、より変則的な攻撃が可能となり、さらには寸前で微妙に攻撃範囲を広げることもできる武具である。

だがもちろんその扱いはかなりの難易度を誇る。

「これはまた変わった武器だな。」

「それよりも、貴様もいい加減本気を出せ。」

三連棍をまた一本に繋げなおした。

「何のことだ?」

「とぼけるな。その腰にさしてあるものをだせ。」

その言葉に亞琥都は目を見開いた。

「気づいていたのか。」

「当たり前だ。それよりも早くそれを出せ。失礼とは思わないのか?」

「わかったわかった。だけど・・・」

亞琥都はジャケットを翻し、腰にさしていたものを引き抜いた。

「後悔するなよ。」

「!?」

その言葉を最後に2人の間に爆発が巻き起こった。






暁天城1階通路


「勝家殿がでられたのか。」

蘭丸は袴を履いているとは思えない速さで駆けていく。

何度か角を曲がり、出口にさしかかったころ、目の前に見慣れた顔があった。

「濃様!!」

「蘭丸。」

いつもの着物姿の濃姫はその声に反応し蘭丸に顔を向けた。

「どうかなされましたか?」

「いや、なんか面白そうなことしてはるなと思いましてな。」

「そうですか、ですがすいません。

外の敵は私が対処することになりましたので。」

「そうどすか。なら私は高みの見物としゃれ込みましょか。」

濃姫はなぜか上機嫌で上へ上がって行った。

蘭丸はそれにやれやれと肩をすくめると外へと踏み出した。




暁天城地下2階 


「騒がしいな。」

暗闇の中、鶯劍の声が木霊する。その息はマラソンでもした後のように荒れていた。

「一度上がるか。」

呼吸を整えると階段に向かって歩きだした。

プチッ

「ん?」

足下から何かが潰れるような音が聞こえた。

足をどけ、暗闇になれた目で見てみると、

「ムカデか。」

ムカデがその胴体を潰されて息絶えていた。

立ち上がり、また歩き出そうと踏み出した足を鶯劍は途中で止めた。

「誰だ、こんなことをしているのは・・・」

足を戻し、振り返るとそこにあったのは、


闇の中で煌めく無数の緑色の目だった。


「掃滅する。」

それを見つめる鶯劍の目もまた鮮やかな赤色に輝いていた。








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