第壱拾参話 仮面
???
「ん?ここは?」
龍牙はいつの間にか真っ白な空間の中にいた。
「旛龍、どこだ?」
『ここだ。』
「うぉっ!?」
いきなり目の前に現れた巨大な瞳に龍牙は尻餅をついた。
「脅かすなよ。」
『ふっ、まあいいではないか。
さて、始めるとしようか。』
「待ってました。」
龍牙は飛び起き、旛龍の次の言葉を待った。
「で、何をするんだ?」
『これを持て。』
旛龍の前に2本の鉛筆が現れた。
龍牙はそれに素直に従い、手に取った。
「で?」
『書け。』
「は?」
『両手に一本ずつ持って、右手は丸を左手は三角を同時に書け。』
「なに?そのありきたりなの。」
『これができなければ新たな力など手に入るはずがない。』
「分かったよ。」
渋々といった感じに龍牙は床にしゃがみこみ書き始めた。
暁天城 正門
時刻は深夜2時。辺りは静まり返り、見渡す限り門番以外人影がない。
この世界にしては珍しく、光の魔鉱石ではなく松明を使った明かりは不規則に影を揺らめかせる。
「交代まで後どんくらいじゃ?」
門番の1人が左に立つもう1人に話しかけた。
「後、30分くらいじゃろ。ふぁ~」
話しかけられた方は欠伸まじりに答えると視線をまた前に向けた。
「ん?」
そして気づいた、目の前の大通り、その中心に誰かがいる、と。
「酔っ払いか?」
「にしてはおかしいとは思わぬか?」
酔っ払いならふらふらと歩くはずなのにその人影は真っ直ぐ正門の方へと歩いて来ているのだ。
「全く、おい!!そこ!!」
門番の声に反応せずそのまま歩を進めたその人影はもうすでに正門の5メートル前にまで近づいていた。
「おい!!聞いてるのか!?」
門番の1人は松明を持ったままそれに近づいた。
「ひっ!!」
そして松明で照らされたその姿に2人から悲鳴が上がった。
その顔には骸骨の仮面がつけられ、またその体はボロボロのマントで覆われていた。
だが2人が驚いたのはそこではなく、その全身を這い回る大量の『百足』だった。
「喰らえ」
百足に気をとられていた門番は、低いその声を最後に意識を失った。
「琉!!」
少し離れた場所にいた門番は一瞬にして上半身を失った、親友だった物に向かってその名を叫んだ。
上半身を失った体は数歩よろよろと歩くとパタリと倒れた。
「き、貴様!!」
「うるさい。」
マントを着た声からして男であろう者はその場で右腕を横に振る。
「ごふっ!!」
絶対に届くはずのないその攻撃によって門番はだるま落としのように腹部だけを吹き飛ばされた。
薄れゆく意識の中、門番が最後に見たのは、
自分を喰らおうとする巨大な百足の口だった。
「うまかったか?」
仮面の男は自分の左腕に話しかける。いや、それは不適切かもしれない。なぜなら、男の左腕はうねうねと曲がる巨大なムカデとなっていたからだ。
「そうか、すまない。」
どうやら左腕のムカデは門番達が気に入らなかったらしい。
「・・・そうだな。確かに、」
男は城を見上げる。
「うまそうな臭いがする。」
そして左腕をマントの中に隠しながら、城の中へと進み始めた、
獲物を求めて