第壱拾話 駆除
魔天道 首都 江戸 西町
賑わいを見せる商店が並ぶ通りの真ん中を堂々と歩く人影があった。
「小三郎さん。場所はどこだい?」
西独特の士と呼ばれる者達の服を身につけたサヴァリスが横を歩く小三郎に尋ねる。
「そこの角を右に曲がった左にある『浄妙酒』という店でございます。」
「そうか。ならここで待っていてくれ。ここから先は僕達だけで行く。」
「はっ。」
その言葉の意味をすぐに察したのか、小三郎は部下3人と共に足早にサヴァリスから離れた。
「みんな、行くよ。」
『浄妙酒』と書かれた扉の前に立ったサヴァリスが同じような服装(もちろん男性用)に身を包んだ4人に声をかける。
4人が無言で頷いたのを確認すると、サヴァリスはゆっくりと引き戸を開けた。
サヴァリスが引き戸を開けた瞬間、無数の目がサヴァリス達に向けられた。
中は普通の居酒屋のようで、ただ机が3列に並べられ、そこに椅子が置かれただけだった。
「お前ら見ない顔だな?ここになんのようだ?」
頭を結った大柄の男が立ち上がりサヴァリスに詰め寄る。
それにサヴァリスは顔をしかめることもなく微笑みを浮かべた。
「ああ。君達に少し用があってね。」
「ああ?」
男がさらにもう一歩足を踏み出した。その瞬間、
「あ、あぁ、あ、」
男は前に出した足を上げたまま奇怪な声を上げ、後ろへ倒れこんだ。
「お前たちの駆除だよ。」
「てめぇ!!」
近くにいた1人がサヴァリスに殴りかかった。
「めっ。」
だがその拳は、この場に不釣り合いな明るい声と共にはたき落とされた。
「ぐっ。」
殴りかかった男の手首には赤く太いミミズばれが出来ていた。
「はいはい。おねむの時間よ。」
明るい声の主であるロッソはその男の首に赤い鞭を巻きつけ、すぐ横の集団に投げつけた。
「ぐあっ。」
「くそっ、あのアマ!!」
「敵だ!!武器を出せ!!」
笑い声が響いていた居酒屋は一瞬にして怒号やうめき声へと変わった。
そんな中、その一番奥にいた、この集団の長のような男が立ち上がった。
「あいつらを絶対に帰すな!!」
「それはこっちのセリフよ。」
「えっ?」
男は間抜けな声とともに神速で繰り出された巨鎚に意識を刈られた。
ドカンという凄まじい音と共に吹き飛ばされ、何人かを巻き込みながら壁にめり込んだ。
「まずは1人」
その巨鎚を振り回したケイミーは壁にめり込んだまま痙攣する男を見ながら自分の金髪を掻き揚げた。
そしてまた走り出すとクリストを巨鎚ではなく大剣へと変え、それをまた振り回す。
「ぐあっ!!」
「なんだ、コイツ!?」
「強ぇ!!」
それを見ていた1人がサヴァリスとケイミーの顔を見てハッとして叫んだ。
「おい!!あれは元ジャッジメントのサヴァリスと元3番隊隊長のケイミー・グラディウスだ!!」
「なんでこんなところにいるんだよ!?」
「知らなくていいこともあるのよ、おじさん。」
叫ぶ男達の中心にいつの間にかいた麗那が氷のように冷ややかに言い放った。
「ひっ。」
そのなんとも言えない圧に男の口から悲鳴が零れる。
「凍てつけ、」
そして、麗那の足下から白い霧のようなものが吹き出し、すぐに周りの男達を覆い隠した。
「『空間氷結』
「こんなものかな。」
麗那は目の前の氷の塊を評定でもつけるかのようにじっくりと見つめる。
「充分だよ、麗那ちゃん。」
それに近づきサヴァリスは目の前にあるその氷に触れた。
その中にいたのは、人だった。
「で、これどうするのよ?」
周りを見ると、その居酒屋は中にいた男達と共に完璧に凍りついていた。
「多分、小三郎さん達が運んでくれると思うよ。」
「あっそう。なら、さっさと次、行きましょ。」
鞭をブンブン振り回すロッソを先頭に5人は次の目標を目指し、歩き出した。