第九話 映写
この話は必要なかったかもしれない(汗)
暁天城最上階
「待ちくたびれたぞ。」
に戻ってきた信長に最初にかけられたのは、胡座を書いて座った鶯劍の不機嫌そうな声だった。
「少しばかり手間取ってな。」
それに悪びれもなく返す信長に鶯劍はスッと目を細めた。
「あいつはどうだ?」
「ん?ああ、龍牙のことか?あれは悪くない。我の立場から言うと実に面白い小僧だ。」
「『あれは』ということはユウは駄目なのか?」
「鶯劍、主にも分かるだろ。ユウの魔力は5年前のあの憎き魔女の10分の1ほでしかない。
はっきり言って力の総量が足りぬ。」
「だが勝つ方法はある、だろ?」
鶯劍の言葉にやれやれと言った感じに信長は頷いた。
「ああ。だが、主はまず自分のことを考えよ。」
鶯劍は右手を胸に当てる。
「分かってる。さっきまでこいつと話していたんだ。」
「ほう。で、なんと言っていた?」
「ただ一言、『怒りと悲しみを奪われてはならない』と言っていたが。」
「ふむ、やはりか。」
「やっぱりってことはこれがどういう意味か分かるのか?」
「ああ。だが主にはまだ早い。まずは自分の『2つ』の龍の力を抑えよ。
それからだ。」
「ああ。地下にある『あの部屋』を借りていいか?」
「別に構わぬが、前みたいに壊してはならぬぞ。」
「分かってる。」
鶯劍はそう軽く応えると部屋を出て行った。
暁天城2階映写室
3人が各々の修行を始めたころ、5階に残っていた5人は濃姫に連れられ、城の2階にある映写室に来ていた。
中は先までいた部屋の4分の1ほどしかないが、それでも100人は余裕ではいれる広さだった。
5人は濃姫に促されるままに椅子に座り、何が起こるのか分からないまま、ただ奥に消えた濃姫が戻ってくるのを待った。
それから5分後、濃姫は手のひらサイズの青い水晶のような透き通った珠を手に戻って来た。
「長く待たせてすいません。では、始めましょうか。」
濃姫はその青い珠を脇にある機械にセットし、スイッチを入れた。
すると、向かいの壁一面に地図が浮かび上がった。
「魔鉱映写機とは、豪勢だこと。」
ロッソの嫌みに濃姫はただ笑顔を向けただけで、そのまままた映写機をいじり、スクリーンの地図を江戸周辺まで拡大した。
「これが今、うちらがいる京都周辺どす。
それで、あなた方にやってもらいたいのはこれどす。」
濃姫がキーを何個か叩くと、地図の数カ所から黒い線が伸び、帝国の、剣に蛇が巻きついた紋章、通称『毒の剣』が現れた。
「1、2、3、・・・6カ所か。これで全部なのかい?」
サヴァリスの問いに濃姫はまた笑顔で頷く。
「とりあえず京都周辺ではこれで全部どす。」
「そうか。だけど、なぜそれを僕達に?」
「いや、うちらが忙しいだけどす。」
その言葉にサヴァリスはため息をつく。
「面倒事を他人に押し付けるのかい?」
「何をいってはるんですか?」
「ん?」
「うちらはすでに『仲間』ですよってに。」
「僕達を利用しようとしながらよくもまあそんなことを。」
残りの4人はその言葉の意味が理解出来なかった。
「利用するって?」
4人を代表して尋ねた麗那にサヴァリスは濃姫を軽く睨んだまま説明する。
「僕、ケイミー、ロッソの3人は一応、帝国の裏切り者だ。ということは帝国兵に見つかったらすぐに戦闘になる。
もし帝国が何かを言ってきたとしても、僕達を身代わりにすればなんの問題もない。
そうだろ?」
「話が早くて助かりますわ。」
濃姫は映写機の電源を切り、近くの机にもたれかかる。
「ええ。サヴァリスさんの言う通りどす。
うちらが今の段階で動いたのがバレたとすると、こっちの勝率は」
「限りなくゼロに近いんでしょ?」
ロッソの言葉に濃姫は頷く。
「だからこそあなた方の力が必要不可欠なんどす。
引き受けて下さりまへんか?」
5人はその問いに黙り込んだ。この仕事をすることに対してのメリット、デメリットを考えているのだ。
しばしの沈黙の後、サヴァリスは立ち上がった。
「僕が行く。」
「じゃあ私も。」
ケイミーも立ち上がりその横に並んだ。
「ケイミー、危険だ。君は来なくていい。」
「私はこれでも小隊の隊長だったんですよ?大丈夫です。」
「そうそう、私達は強いわよ?」
ケイミーの肩に腕を回し、引き寄せるロッソ。
「ケイちゃんが行くなら、私も行くよ。」
麗那もまた立ち上がり、椅子に座ったままのサリアに目を向けた。
「サリアちゃんはどうする?」
「私?」
「うん。」
「私は・・・」
サリアは一度サヴァリスを見ると、決心したのか軽く頷いた。
「私、行く。お兄ちゃんばかりつらい目、遭って欲しくない・・・」
そこへ割り込むようにして濃姫は声をかけた。
「それじゃあ、全員参加ということでよろしおすな?」
「捨て駒みたいな扱いはやめてよ?」
「ええ、もちろん。」
ロッソの疑いの眼差しをもろともせず、濃姫は5人の前にある机に時計のような物を置いた。
「これを使っておくれやす。」
「小型化した通信機器とは本当に豪勢だこと。」
ロッソはぶつぶついいながらもそれを左手首にはめる。
それにならい、残りの4人もそれをそれぞれの腕に嵌めた。
全員が嵌めたのを確認すると濃姫は家臣の1人を呼んだ。
「必要な道具はこの小三郎に言いつければすぐに用意しますんで。
小三郎、まずは5人を準備室へ。」
「はっ。」
跪いていたまだ歳は20ぐらいかと思われる神をちょんまげにした青年は頭を下げ、立ち上がった。
「ではこちらへ。」
小三郎の誘導に従い、5人は映写室を後にした。
荒野
ふらつく足でユウは部屋からでると、少し離れたところに胡座をかいてすわる龍牙に近づいた。
龍牙は傍らに旛龍と紅い槍を置き、目を閉じ静かに呼吸を繰り返していた。
「龍牙くん。」
ユウの呼びかけに龍牙はゆっくりと目を開き、ユウの方へ向けた。
「ちょっと休まないかい?」
「いいですよ。」
龍牙たちはそこから少し離れたところに置かれた椅子に腰掛けた。
2人の間にある机にはただ水が置かれていた。
「調子はどう?」
「まだまだですね。やっと大きな門の前に行ったところです。
ユウさんは?」
「こっちはまあまあかな。凄く疲れるけどね。」
ユウは苦笑しながら水を口にする。
龍牙もまた水をコップ一杯一気に飲み干し、立ち上がった。
「それじゃあ、また行ってきます。」
「お互い頑張りますか。」
ユウは軽く伸びをすると、それが終わるのを合図に2人はそれぞれの修行場へと戻って行った。