第七話 女戦士
それから数分の後に信長に連れられ一同は(駄々をこねる龍牙は鶯劍に引きずられながら)地下にある道場に移動した。
「ここだ。」
信長が立ち止まったのはその道場の中でも異質な空間だった。
床と天井を含め四方が透明なフィルムのような薄い膜で覆われているのだ。
「ここは?」
「この膜は完璧に冥力の流れを断つ、我が魔天道で開発された特殊素材だ。お前たちにはここで戦ってもらう。」
「やっぱり戦うのか。」
うなだれる龍牙をよそに信長は膜を通り抜ける。
「濃。」
「はい。」
「手加減しなくていい最初から全力でいくのだ。いいな?」
「分かりました。」
濃と呼ばれた女性はその空間の中心に直立し、目を閉じた。
「はあ。」
龍牙はため息をつくと頭の上にいるイヴを麗那に渡し(もちろんケイミーには渡さない)、濃の向かいに立った。
「濃と申します。よしなに。」
「我狼龍牙です。よろしくお願いします。」
「では・・・初め!!」
初老の家臣の掛け声と共に試合が始まった。
最初に動いたのは龍牙だった。
2人の距離はおおよそ5メートル。龍牙の足だと一秒もかからない距離である。
真っ正面から突っ込んだ龍牙は、右手に持つ双劃と左手の雷鮫で上下左右いたるところから切りかかった。
しかし、その攻撃は一度も濃を掠めることはなかった、長い振袖を着ているにも関わらずだ。
いや、逆にその振袖がそうさせていた。
濃が軽やかに攻撃を避ける度にその布地がはためき、龍牙の視界を遮っていたのだ。
「くっ。」
このまま攻撃をしても無駄と思った龍牙が距離を取ろうと後ろへ跳ぶ。
するとそこへ黒い影が迫ったかと思うと、油断していた龍牙の左肩が蹴り飛ばされた。
「がはっ。」
足が浮いていた龍牙がその勢いを殺せる訳もなく、透明の膜の下まで吹き飛ばされる。
だが龍牙も転がりながらも双劃を振るい、『空牙』を3発、濃に向けて放った。
「!?」
突然の反撃に濃は軽く目を見開くが、そこまでだった。
もう右にも左にも上にも後ろにも避けられないその攻撃を濃は、すぐさま一番回避できないと思われる『前』へ跳んだ、。
そしてその後の光景に龍牙は驚きを隠せなかった。
「なっ!?」
「なかなかの『濃さ』ね。」
なんと、彼女は空気を割いて飛ぶ空牙の上に乗ったのだ。
そしてまた跳躍すると、こんどは双劃を持つ龍牙の『右腕』の上に舞い降りた。
その濃の手にはいつ取り出したのか、2丁の黒塗りの拳銃が握られていた。
「チェックメイトどす。」
銃口を額に突きつけられた龍牙は驚きを隠せなかった。
今まで戦ってきた相手は、相手の攻撃を避けきってから攻撃に転ずるのが基本だった。
それは龍牙の中でも基礎として深く根付いている。
だが、目の前の女性はそれを覆した。
相手の攻撃を避けるだけでなくそれを自分の攻撃の足場として利用したのだ。
確かに龍牙も今までに不意打ちのようなことはしたことがある。
だが、それはあくまで相手の追撃を阻むためのものだった。
それを彼女は目の前でトドメを刺すために使ったのだ。
龍牙は手に持つ刀を床に落とし『両手を上げる(ホールドアップ)』をした。
この体勢ならまだ凌ぐことが出来たのに、龍牙はあえて降伏した。
それはなにより、その行動を即座に決めたその判断力に対しての敬意だった。
もし最初から龍人化していたら、旛龍をつかっていたら、などと言う『もしも』の話をする気は龍牙にはなかった。
龍牙は自分は完璧に負けたと認めたのだ。
「勝者、濃姫!!」
初老の家臣の声で観客が騒ぎ出す。
だが、龍牙はそれよりもその家臣の言葉が気になっていた。
「えっ、姫?」
「ええ。この御方は信長様の奥方である濃姫でありますぞ。」
「えぇ~っ!?」
龍牙は濃姫のことをどこかの部隊の隊長だと思っていたのだ。
「なんで、そんな姫様が俺なんかと・・・」
「お主の、いや、今の神龍の力がどれほどか確認するためだ。」
龍牙の質問に答えたのは信長だった。
「恐らく我らは後数十日のうちに帝国との戦が始まる。」
「なっ!?」
「その戦力の1つとして考えるに値するか見定めるためだ。」
淡々と話す信長に対し、鶯劍を除き龍牙達は皆驚きの色を隠せなかった。
「で、どうだ?」
鶯劍の言葉に信長は頷く。
「悪くはない。充分に使えそうだ、充分にな。」
そういう信長は獲物を前にした猛獣のように舌なめずりしながら龍牙を見ていた。
あ~あ、龍牙が負けた。もう少し戦闘を増やそうか悩んだんですが、このくらいの方が圧倒的にやられたのが分かりやすいかな~と思ってこうしました。
長くした方がいいという人がいればすぐに増やすのでよろしくお願いします。