第五話 姉
あけましておめでとうございます。
今年も私共々4GCをよろしくお願いしますね。
サリアは大きく息を吐くと懐かしさを感じる大陸へと目を向けた。
「・・・様、今、行きます」
彼女は小さく呟くとまた手を組み祈り始めた。
(ふっ。隙だらけだ。)
その後ろに誰かがいるのに気づかずに。
その手にはナイフが握られていた。
(これで終わりだ!!)
「何をされているんですか?」
(!?)
突然後ろからかけられた言葉にその影はびくっと肩を震わせ、背にナイフを隠した。
そこにいたのは、
「これはユウ殿、どうかいたしましたか?」
「いえ、そういうあなたこそ何をしているのですか?艦長。」
艦長は額に冷や汗が浮かんでいるのを感じながら真面目な顔をした。
「いえ、少し風に当たろうかと思って来たら、あの部屋に閉じ込めていたはずの女がいたものですから、拘束しようと思いまして。」
「そうですか、だったらなぜ刃物をお持ちに?操縦士は基本、武器類の携帯を禁止されていますよ?」
艦長は小さく舌打ちしながら背に隠していたナイフを取り出した。
「武器庫から拝借したんですよ。
仮にも『鬼神』や『神龍』を護送しているのですから。」
「『鬼神』は分かりますけど、『神龍』はそこまで気にかける必要はないかと。」
「いや、いくら子供とはいえ、油断はできません。」
艦長のその言葉にユウは不適に笑った。
「あれ?僕はいつ『神龍』が少年だと言いました?」
「うっ。」
艦長は顔をひきつらせる。
「確かにその通りですが、この艦内でこのことを知っているのはあの7人と私だけですよ?なぜあなたがそれを?」
「そ、それは・・・」
「答えはいたって簡単、」
ユウは杖を艦長に向けた。
「あなたが裏切り者だからですよ。」
艦長はため息を1つつく。ユウにはそれが降伏を意味することを理解した。
「・・・いつから気づいた?」
「いえ、ただ一番あなたであってほしくないと思っていただけですよ。」
艦長は目を見開いた。
「だからあなたを無実だと証明しようとあなたを尾行したんです。」
「ははっ、そんな理由で。どうやら私はよほど『時の女神』に嫌われているようだ。」
「ザウバーさん・・・、なんで、正義感の塊であるあなたが、こんなことを・・・」
「ユウ、お前には分からないよ。私の気持ちが・・・」
ザウバーの顔から表情が消えたかと思うと次に現れたのは、
「小童に手足のようにこき使われる私の気持ちがな!!」
憤怒の形相だった。
「私もすでに60。西で1、2を争うこの戦艦『ヘイムダル』の艦長になった。
だが、そこまでだ。
結局は奴らの駒として動かされるだけ!!」
ザウバーは拳を脇の壁に叩きつけた。
「もう耐えられないんだ!!
奴の私利私欲のために俺の部下を失うのがな!!」
「違う!!」
突然のユウの叫びにザウバーは口を噤んだ。
「あの人は自分よりも他を優先する人です。」
「ならなぜここまで簡単に部下を死なせる!?」
今度はユウが口を噤む番だった。
「私はすでに奴のだした作戦で28人の部下を失った。
なぜだ!?なぜあいつらは死ぬ必要があった!?」
「あの人はもう一年もまともに寝ていないんですよ。」
「何を今更。寝不足だからとでもいうのか!?」
ザウバーの怒号にユウは静かに首を横に振った。
「違います。
あの人は1つの小さな作戦でも被害を最小限にしようと寝ずに考えていらっしゃるんですよ!!」
「!?」
「今これをする必要があるのか、この作戦のメリットは、これが一番安全なのか、あの人は全て1人で抱えこんでいるんですよ、皆の不満でさえも。」
「そ、そんな、わけないだろ。」
「ザウバーさん、」
ビクッとザウバーの肩が揺れる。
「僕があなたを信じたかった理由、分かりますか?」
「理由、だと?」
「そう、僕が初めてあの人の軍に入った時、あなたと約束しましたよね。
『いつになるかは分からない。だけど、絶対に、ここで、あの人の下で平和の国を造ろう』と。」
その言葉を聞いて力が抜けたのかザウバーは壁にもたれたまま座りこんだ。
「・・・ああ、そうだったな。忘れてたよ。」
ユウは静かにザウバーを見下ろした。
「なあ、ユウ。」
「はい。」
「俺はいつ道を踏み外したんだろうな?」
「ザウバーさん・・・」
ザウバーの目から滴が零れた。
「なんで俺は帝国なんかに・・・うっ!!」
突然のうめき声と共にザウバーは床に倒れた。
「ザウバー、さん?」
その腹からは大量の血が流れ出ていた。
「ザウバーさん!!」
ザウバーは駆け寄ったユウの腕を震える手で掴んだ。
「ユウ、あの人に、信長様に私の代わりに謝ってくれ。」
「何を・・・」
「すまない・・・頼んだ。」
その言葉を最後に、ザウバーはゆっくりと目を閉じた。
そしてユウは目の前に黒いハイヒールを履いた足を見て、自分の頭が沸騰していくのが分かった。
ユウはすぐさま後ろへ跳び目の前にいる人物に向かって叫んだ。
「アルタ!!お前!!」
「実の『姉』に向かってお前など無礼にも程があるぞ、ユウ。」
目の前にいたのは、漆黒のコートを纏った女性。傍から見てもただ者ではないのは明らかだった。
「よくもザウバーさんを!!」
「ふん、口を割ろうとしたのだ。殺すに決まっているだろ?」
「あんたって人は!!」
杖を構えるユウにアルタは冷ややかな目を向けた。
「無駄だ。仮にも『ジャッジメント』第三位である私に勝てるとでも思っているのか?」
「『空間呪縛』!!」
アルタの周りに時計盤が浮かび、それで縛ろうとした瞬間、時計盤が全て砕け散った。
「なっ!?」
「あれから15年も経つというのにまだこの程度か。」
「くそっ!!『時の回帰』!!」
ユウは次々に時計盤を歩み寄るアルタの周りに展開するが、その効果を示す前に全てが砕かれた。
ユウは悟った、自分ではこの女に傷一つ付けることができないと。
「ふん。この程度か。わざわざ見に来る必要はなかったな。」
「く、来るな。」
「無様。」
アルタが腕を振ったのを最後にユウは意識を失った。