第四話 若大将
最後の方におかしな言葉がありますが、気にしないで下さい。自分で勝手に作って無理やり意味をつけただけですから。
え?いつもおかしな言葉ばかりだから大丈夫だって?ていうか、もっとマシな題をつけろ?
・・・すいません(泣)
あっ、ユニークがついに8000行きました。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
接近してくるロスカに対し龍牙は槍を心臓に向けて突き出した。
「はあ!!」
「ふっ!!」
ロスカはそれをカットラスで軽くはじくと、姿勢を落とし、槍をくぐり抜けるようにして龍牙へと肉迫し、右手に持つ刃を斜めに振り下ろした。
「ちっ。」
だがそれは龍牙の、槍を前に翳すという行動で無力化されると、お互いが後ろへ跳び、間合いをとった。
「その歳でこの剣劇。恐ろしいな。」
ロスカはカットラスを逆手に持ち替えながら口を開いた。
「後お前が1年、生まれるのが早かったら、俺は確実に負けていたな。」
「『if』の話は今は必要ない。」
「そうだな、」
龍牙の言葉に驚きながらもロスカは、逆手に持ったカットラスを背中に隠すようにして構えた。
「始めようか。」
ロスカの目が鈍く光ったのを見た龍牙は、自分の足下に黒い水たまりのようなモノができていることに気づいた。
「くっ。」
とっさに横に跳ぶ龍牙のすぐ横を黒い影が通過した。
「俺の相棒を忘れないでくれ。結構な寂しがりやなんでな。」
「っ!?」
体勢を崩した龍牙に一瞬で間を詰めたロスカが切りかかる。
龍牙はそれに向かって槍を跳ね上げるが、先端をロスカが踏みつけられてしまう。
その反動に龍牙の体は宙に浮き、
「がはっ!!」
そのがら空きになった腹部にロスカのブーツが突き刺さった。
何度も床をバウンドし、壁を破り、隣の部屋でやっとそれは止まった。
必死に体を持ち上げる龍牙の額に、また無慈悲にもロスカの膝が撃ち込まれる。
声もなく、龍牙は弾丸のように何枚も壁を貫き、最後は鉄でできた壁にぶち当たった。
床に這いつくばる龍牙の肺から空気は全て押し出されたのか、呼吸は荒く、その目は虚ろだった。
「あれだけ勝つだのほざいていたくせに、この程度か。」
木片を足の裏で砕きながらロスカは龍牙へと歩み寄った。
「使いこなせてもいない『アナザー』は単なる足枷でしかない。
『波長』のあってないやつは特にな。」
壁に先端が突き刺さったままの槍を見ながら、不気味に輝くカットラスを龍牙の首に当てた。
「恨むなら自分の絆の弱さを恨むんだな。」
そして振り下ろした。
「ぐふっ。」
何かが刺さる音と、それに遅れて血でむせかえる声が辺りに響いた。
その声を無意識に出していたのは、
ロスカだった。
ロスカは信じられなかった。自分の腹を貫いたのが、壁に突き刺さっていたはずのあの紅い槍だったのだから。
「な、なぜ・・・」
その問いを待っていたかのように槍の端を握る龍牙が立ち上がった。
その体には全く傷がついていなかった。
「なぜ壁に突き刺さっているはずの槍がここにある・・・」
「ん?ああ。これのことか。それっ。」
龍牙は右手に持つ槍を軽く引っ張った。すると、周りの壁が破壊され、そこから大きく湾曲した紅い棒が現れた。
「こいつは伸縮自在、周りの物質を取り込むことで体積を増加できるんですよ。」
「なるほどな・・・、俺に攻撃させたのはその材料と時間を作るため、か。一杯喰わされたな。ゲホッ。」
血を吐き、肩で息をするロスカに龍牙は近づくと、元の大きさに戻した槍を引き抜き、その傷口をその槍から発する炎で焼いた。
「があぁっ!!な、なにしやがる!?」
「俺はあんたを殺したくない。だから助けるんだ。」
肉の焦げる臭いが辺りに充満する。
「今の勝負もはっきり言ったら俺のずる勝ちだ。
だから、」
龍牙は満面の笑みをロスカに向けた。
「生きて、また勝負しよう!!」
その言葉に呆気にとられていたロスカは堪えきれないという風に笑った。
「お前、バカだろ?」
「よく言われる。」
「ははっ」
『ヘイムダル』 操縦室
「艦長!!敵艦が引き返して行きます!!」
「なに!?本当か!?」
画面を見ていた1人の叫びに艦長は耳を疑った。
「はい!!残った4隻は進行方向を180°変更しました!!間違いありません!!」
その言葉を合図に艦内は歓声に包まれた。
その真上では2人、並んで立っていた。龍牙と鶯劍である。
「よく勝てたな。」
「勝ってなんかいませんよ。あれはドローです。」
「ほぅ。」
「だから、」
龍牙は拳を船団に向け突き出した。
「次は負けないぞ!!ロスカ!!」
見えないが龍牙はなんとなくロスカもそう言っている気がした。
その時、
ガクンと艦が傾くのを感じた。
「限界が来たか・・・」
「限界って、落ちるんですか?」
「ああ。」
龍牙は顔から血がさっと引いたのが分かった。
それもそのはず、船に飛行機能をつけた空賊団の物と違い、この船は空を飛ぶことしか考慮されていない。
つまり、飛行中に海に落ちると、
「ばらばらだな。」
「先生、どうするんですか?」
「さすがに、この艦の着水を防ぐだけの力は俺にはないからな。どうしようもない。」
「どうしようもないって、何もしないんですか?」
「ああ。」
「そんな・・・」
「逆にあいつの邪魔になるだけだ。」
「えっ?あいつっていっ・・・うわぁっ!?」
その時突然艦体が激しく揺れ始めた。
「大丈夫そうだな。」
「あれ?」
呟く鶯劍の横で龍牙は気づいた。
「なんで上昇を?」
魔鉱石が残り少ないはずのこの『ヘイムダル』が上昇しているのだ。
通常、物質を移動するとき、上昇は下降よりも遥かに大きなエネルギーを要する。つまり、魔鉱石の少ないこの場面で上昇するのは自殺行為と言っても過言ではなかった。
「やっぱり俺の目に間違いはなかったな。」
「え?」
『ヘイムダル』展望室
龍牙達が立つところとは正反対の位置にある展望室では1人の少女が立っていた。
薄い青色のドレスに整った顔立ち、なにより目を引くのは月のように儚く輝く金髪だった。
それはサリアだった。
サリアは大きく深呼吸をすると胸の前で手を組む。
「D/Raorch,srudious(私はまだ檻の中)」
そして聞いたことのない言葉を呟き始めた。
だがその言葉が紡がれるのに合わせ、彼女の周りに風の渦が生まれていく。
「undine,scrus,de,rabosa(風よ、私を解き放って)」
その渦は次第に大きさを増し、ついには『ヘイムダル』そのものを覆ってしまった。
「des,twai,ras,sor,air(風よ、私を空に連れて行って。)」
上昇を止めた『ヘイムダル』の後ろに新たな風の渦が生まれる。
「des,twai,ras(風よ、連れて行って。)」
そして、見え始めた西の大陸へとまた進み始めた。
「sor,zem(あの人の元へ・・・)」
だんだんと大きさを増す大陸へと目を向けながら息をついた。
だがその後ろに蠢く黒い影があることに気づいてはいなかった・・・