第二話 トルマリン空賊団
トルマリン空賊団 母艦『リーフベルト』操縦室
「おっ、あれだな。」
操縦桿を握る若きトルマリン空賊団二代目船長、ロスカ・リーフベルトは目を細め、呟いた。
「兄さんの言う通りだ。あの船、どんどん高度が下がってますよ!!」
脇にある機械を通してターゲットの状況を確認していた若い男が報告した。
「ああ、全員突撃の準備をしろ!!」
その声は残りの4隻にも響いた。
「今回は大物だぞ!!
全て奪ってこい!!」
「兄貴、抵抗するやつはどうします?」
さっきとは別の男が声を上げた。
「もちろん、抗う奴は片っ端から殺せ!!
遠慮はいらねえ!!好きなだけ暴れてこい!!」
「「「「「おおぉっ!!」」」」」
この雄叫びとともに戦いは始まった。
ヘイムダル 操縦室
「敵船、砲撃を開始しました!!」
「逃げ切れないか。
こちらも応戦する。打ち返せ!!」
その艦長の言葉と同時に『ヘイムダル』は爆音と共に激しく揺れた。
砲撃が始まったのだ。
「この艦の高度を限界まで落とせ!!」
「はっ!!」
ガクンと、落下する感覚を覚えさせるほどの急降下に船員は苦悶の表情を浮かべる。
「限界値まで降下完了しました。」
その感覚はオペレーターの1人の声と共になくなった。
「この状態で全速前進を続けろ。
砲撃部隊もそのまま砲撃を続けろ!!絶対に止めるな!!」
艦長の声は途切れることがなかった。
『ヘイムダル』 緊急脱出口
通常は非難するための扉を開ける者達がいた。
「結局また俺ですか・・・」
龍牙と鶯劍である。
「ぶつぶつ言わずにさっさと行け!!」
「うわあ!?」
躊躇う龍牙の背を鶯劍は蹴りだした。
風に翻弄され、もみくちゃになりながらも龍牙は左右の肩甲骨から銀色の翼を生やし、鶯劍の向かったこの艦の展望室の上へと飛行を始めた。
「俺はここから援護する。お前は向こうに直接乗りこんでこい。」
「先生が行って下さいよ。」
「俺は地龍の契約者だからあまり空中戦には向いてないんだ。」
「ちぇっ。分かりました。行ってきます。」
「ああ、だが、・・・」
「殺すなよ、でしょ?」
「分かっているならいい。」
その鶯劍の言葉を背に龍牙は船団へとまた飛行を始めた。
リーフベルト 操縦室
少し時を遡って母艦であるリーフベルトでは歓喜の声が上がっていた。
「船長、目標が降下を始めました。」
「燃料切れだ。砲撃止め、一気に突撃するぞ!!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
その声に混じり、電子音が響いた。
「船長!!未確認の飛行物体が敵艦からこちらに向かっています!!」
「大きさは!?」
「え~、えっ!?人の大きさ!?」
「どこにいる!?」
「え~、・・・」
その船員が言うよりも早く、操縦室の屋根が爆発したかのように破壊された。
「ここだよ。」
そこにいたのは背中に銀の翼を生やした少年。
「なんだてめえ!?」
「お前らに教えるわけないだろ?」
「死ねやっ!!」
その場にいた男が手に持つ片手剣で斬りかかる。
だが、それよりも速く、少年の手刀が男の首に決まり、声もなく崩れ落ちた。
「はあ、やっぱり多いな。」
龍牙は周りを見渡した。自分を取り囲む男達は皆、筋骨隆々で、幾度の戦いを勝ち抜いてきた猛者達であるのは一目瞭然だった。
「まあいいか。」
龍牙はため息を1つつくと、背中の双劃を引き抜いた。
「かかってこい。」
それを挑発ととった何十もの男達が龍牙へと突撃した。
「始まったか。」
座り込んでいた鶯劍は立ち上がり、肩幅に足を開くと拝むように両手を合わせた。
「『岩龍塔』」
その口から紡がれた名前に眼下に広がる海は呼応し、荒れ狂った。
そしてその波の間から巨大な岩の塔が現れた。
「はっ。」
それは鶯劍の腕の動きに合わせ、岩とは思えないしなやかな動きで一隻を貫いた。
次の瞬間、貫通した岩から弾丸のように噴出された無数の石によってまだ動こうとする船を穴だらけにした。
「まずは一隻。」
鶯劍はその岩を操り、その船をゆっくりと水面に降ろした。
「さて、次はどれにするか・・・」
「あのバカ師匠、こんなことができるなら俺を突っ込ます必要ないのに!!」
横目で横にあった飛空挺が堕ちていくのを見ていて龍牙はそう呟かずにはいられなかった。
「よそ見してんじゃ、ねえ!!」
そんな龍牙の後ろから1人が殴りかかった。
「えっ、いない・・・」
普通なら交わせない距離、しかし龍牙はそれを可能にした。
龍牙はまるで頭の後ろに目がついているかのように正確にそして軽やかに後ろへバック転をする要領で跳ぶと、その首筋を双劃の背で殴りつけた。
もう先から龍牙は何度この行動を行ったのか、すでに周りには船長を含め、10人ほどしかおらず、残りは昏倒していた。
「俺の部下をこうも容易く打ちのめすとはな。」
「船長!」
「大丈夫だ。」
船員に守られていたロスカはなんの恐れもなく、龍牙の前に進み出る。
「なあ、俺達の仲間にならないか?」
そして龍牙に手を差し出した。
龍牙は固まってそれを凝視する。
「俺は気に入らないんだよ、西の国の政治に。
馬鹿みたいに戦争ばかりやったせいで、俺たち平民は食いつなぐことすら出来ないんだよ。
だから頼む、俺にお前の力を貸してくれ?」
ロスカの必死の形相に、龍牙はおもむろに腕を前に出した。
そしてその手がロスカの手に触れる瞬間、腕がブレたかと思うと、その手には双劃が握られていた。
「悪いけど、断る。」
ロスカの首筋に剣を当てたまま淡々と告げる龍牙に対し、ロスカは・・・
「ハハハハハッ!!」
笑っていた。
「何がおかしいんですか?」
無表情のまま尋ねる龍牙にロスカは笑うのを止め、鷹のような鋭い目を向けた。
「お前、やっぱりおもしろい。殺すのが惜しいな。」
「この状況で、ですか?」
少しの沈黙の後、ロスカは閉じていた目を開けた。
「ああ。」
(ヤバい!!)
危険を感じとっさに敵のいない後ろへ跳ぶと、その目の前の床から巨大な口が現れ、バクンと大量の空気を飲み込む音と共に閉じられ、霧散した。
「サメか。」
ロスカはいつの間にか取り出した船の錨が先端についたような槍をくるくる回しながら龍牙に近づいた。
「『アナザーソウル』」
「ほう、知ってたか。ただのガキじゃないらしいな。」
後ずさる龍牙に間合いを開けさせないように歩く。
「だけどな、」
龍牙の背がついに壁に当たってしまった。
「何もできなきゃ意味がないんだよ!!」
その槍はロスカの腕力、さらには遠心力によってとてつもない破壊力を生み出していた。
ロスカの怒号と共に振り降ろされた槍を龍牙は双劃で受け止めようと前に翳すが、それは易々とそのまま龍牙を吹き飛ばし、壁を貫いて船の外へと押し出した。
予想以上の威力を殺しきれなかった龍牙は、その衝撃をモロに受けていた。
脳を揺らされ、指一本すら動かせないまま、海に向かってぐんぐんと落ちて行った。
それを見下ろすロスカの腕にはコインほどの大きさのチップが輝いていた。