第九章第一話 黒曜石
『全員戦闘配置につけ!!繰り返す!!・・・』
「ふぁ。」
焦った艦長の声に龍牙は目を覚ました。
周りを見渡すと龍牙だけでなく、ほとんどが起き上がっていた。
しかし、かなりの場数を踏んできたためか、誰一人として動揺していない。
「空賊?海賊じゃなくて?」
廊下を走る音を聞きながら麗那は誰ともなしに呟いた。
それに近くにいたサヴァリスが口を開いた。
「最近の飛空挺の進歩とともに増え始めた空に憧れを持つ人達、らしいよ。」
「まあ、そんなことを言いながらも、結局は貨物船を襲って中の商品を盗み出す、海賊の空バージョンってところね。」
ロッソの補足で麗那は納得顔で頷いた。
「で、私達は大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。」
3人は声のした入り口の方へ目を向けると、そこにはいつの間にかユウが立っていた。
「この『ヘイムダル』は西の大陸で1、2を争う飛空挺。そう簡単に落とされませんよ。」
「の割には、揺れが大きくないか?」
その声は寝ていたはずの鶯劍のものだった。
「どういう意味ですか?」
「そうだな、まるで・・・」
窓の外へ目を向け、続けた。
「魔鉱石がなくなったみたいに。」
「!?」
ユウは何か思いあたることがあったのか、ハッとして駆け出した。
「俺達も行くぞ。」
「「「はい!!」」」
外へ歩き出した鶯劍の後を龍牙、麗那、ケイミーが追うのを、残りの3人はただ呆然と見ていた。
ヘイムダル 機関部
ゴウンゴウンという機械独特の機動音が響く中、ユウが立っていた。
「くっ、僕としたことが・・・」
その前には『風』の魔鉱石からエネルギーを抽出する機械。
その機械の中心には溢れんばかりの『風』の魔鉱石があるはずだった。
いや、あった。
だが、いま目の前にあるのは、黒ずんだ石の塊、
その正体は、
『黒曜石』。
それに魔力を込めることでその属性を添加することができる魔術師達が頻繁に利用する『魔法道具』だ。
魔術師にしか使えない『黒曜石』が、冥術師しかいないこの船にある。
これから導き出されることはただ1つ。
「この船に、裏切り者が・・・」
ユウは黒曜石をその握力で砕くと出口へ向かった、
裏切り者を粛正するために。
ユウはその足でまずは操縦室に向かった。
「状況は!?」
ユウの言葉に艦長は立ち上がり敬礼する。
「はっ。魔鉱石の残量からして飛行可能距離はギリギリ『江戸』に着くくらいです。ですが・・・」
「少しでも攻撃を受ければ無理、と」
「申し訳ありません」
「謝っている暇があったら少しでも状況を良くなるよう部下を動かしてください。」
頭を下げる艦長に冷ややかともとれる言葉をユウはかけた。
「それが、あなたが命をかけているあなたの部下達にできる最大の償いだと思いますよ?」
「はっ。」
ユウは微笑みを浮かべ、操縦室を後にすると走り出した。
自分の導き出した答えが間違いだと願ながら。
「さて龍牙、あの船団とこの船まで距離はどのくらいだと思う?」
通路を歩きながら鶯劍は後ろを歩く龍牙に尋ねた。
「おおよそ8㎞、ですね。」
「正解。で、この船は後どのくらい飛べると思う?」
「え~と・・・」
「さっきからの振動が大きくなっているのを考えたら、そう長くはないみたいですね。」
龍牙に代わりケイミーが答えた。
「そうだ。ここから分かることはなんだ?」
「「・・・」」
「一発でも攻撃がこの船に当たったらダメってこと?」
「正解だ、麗那。
というわけでだ、俺達は敵からこの船を守るとしようか。で、問題は・・・」
「どう守るか、ですよね。先生。」
「ああ。」
先を言ってくれた龍牙に鶯劍は頷く。
「こうするか・・・」