第九話 狙い
連続投稿です。
龍牙はぼーっと地べたに座り、攫犀が去っていくのを見届けた後、ゆっくりと立ち上がり牢屋の中を見渡した。
牢屋の中は、想像していたものよりも豪華で、ベッドや絨毯、大きな机があった。
とりあえず寝よう
逃げ回って疲れた龍牙はベッドに寝そべり、目を閉じた。
だが、目の前で自分と同い年の子供が殺された光景が瞼の裏に浮かび龍牙は飛び起きた。
頭を抱え体を震わせ、どうしようもない感情に龍牙は苦しんだ。
それは龍牙に、信じようと思っていた蒼龍と龍幻に怒りを覚えるほどだった。
しばらくして、落ち着いた龍牙はまた横になった。
だがやはりその頭は、今起こっているこの戦いのことでいっぱいだった。
「今回の相手はいったいどんな国なんだろう?
そういえば、スレイターっていう人が、世界政府独立治安部隊って言ってたな」
落ち着きを取り戻した龍牙は冷静に今の状況を頭の中で整理し始めた。
「ということは、何個もの国が攻めてるってこと、かな。
それとも、各国で選抜した人達をかき集めたのか・・・。
今までにないようなタイプの敵だって龍影様は言っていたから、多分後の方、かな」
龍牙は起き上がり傍らに置かれていた容器からコップに水を注ぎ口に含んだ。
昔に一回、一度に3カ国を同時に相手したことがあるって、ひげじいもいってた。
しかも、それに、村からの裏切り者がいるんだから戦況はむこうが有利・・・
「あれ?」
そこまで考えて、普通なら24歳で終了する過程を9歳という幼さで突破したその頭で考えていると、あることに気づいた。
むこうが有利な理由は、戦力とここの地形に詳しい者を引き入れたこと。
今回、いつものようにすぐに撃退できなかったのはむこう側にいる裏切り者が、隠し通路を全て教えたから。
ベッドに腰かけたまま龍牙は思考を続けた。
これから、そいつはかなり高位の職についていたはず。なら、そいつが『この避難所の場所を知らない』訳がない。
なのになぜ全く攻めてこない・・・
龍牙はその矛盾にとてつもないものが隠されている気がしてならなかった。
なぜだ?なぜ攻めない?これだけの戦略差があるならねじ伏せられるはず。
考えろ、考えるんだ。
龍牙は頭を抱え込んだ
だけど、この避難所は後ろは岩山、入り口は3つしかない。そこには龍人兵がしかもクラス1stの中隊が1つずつ警護に当たっている。だから、てこずっているのか・・・
龍牙はその答えになぜか納得できなかった。なにかが、何か大事なことが抜けている気がしたのだ。
龍牙はハッとして顔を上げた。
待てよ。岩山?そうかやつらの狙いは・・・
ある考えに至った龍牙は、檻にしがみつきそばにいる見張りに大声で叫んだ。
「早く、今すぐ、龍影様をここに呼んで下さい。」
突然の大声に見張りはきょとんとしていたが、龍牙の真剣な顔を見て、すぐに攫犀を呼びに行った。
「龍牙、どうしたんだ?」
5分もかからずに来た攫犀は、龍牙の顔つきからただ事ではないと思ったようだ。
龍牙は無駄な言葉を省き、攫犀にさっき自分が気づいたことを話した。
「やつらの狙いはこの避難所なんです!!」
その言葉を聞き、攫犀は驚いた。
「なんだと!?」
「やつらは、僕たちをこの避難所に集めさして、そこで一網打尽にするつもりなんです。」
「だが、入り口は多くの龍人兵達が警護についているんだぞ!?」
「じゃあ、聞きます。なんでここに避難所を作ったんですか?」
「それはもちろん、後ろに岩山が・・・まさか!?」
攫犀も龍牙の意図することに気づいたのだ。
「そうです。その僕達が安心しきっているこの岩山。やつらはこれを利用しようとしてるのです。」
攫犀は地図を取り出し床に広げた。
それを龍牙は指を指して説明した。
「この避難所には出入り口が3つあります。だけど、3つとも敵が侵入しにくいように細く作られています。つまりそれは中からも逃げにくいということなんです」
「くそっ。そういうことか。早く龍人兵をここに呼び、民を避難させなくては」
攫犀は唇を軽く噛むと近くの衛兵に命令した。
「おい、龍牙を外へ。私は全軍に指令をだしてくる」
それを言うや否や、攫犀はそこから飛び出した。
外にだしてもらった龍牙はまずは燗耶達を探そうと走りだした。
そのとき、何かが爆発したような音と地震に似た揺れが起こった。
「くそっ。待ってろよみんな!!今行くからな!!」
龍牙は大通りへと向かった。
地下避難所 大通り
そのころと時を同じくして、地下にある避難所の岩の壁が突き破られた。
そこは、避難所のメインストリートの一番はじにあたるところだった。
その壁(というより岩山)を突き破ったものはいびつな形をしていた。
それは、何両もある蒸気機関車の先端に巨大なドリルをつけたようなものだった。
その場にいた人は全員何が起こったか理解できずにただただそのいびつな形をした機関車を見ていた。
するとその列車の中から武装した兵士が何十人と出てきたかと思うと、その後ろには両手に巨大な銃を装備した巨大な戦闘用人型ロボットが5体続いていた。
それらの胸にはWGP(世界政府独立治安部隊)とかかれた、盾の前に剣と銃が交差している紋章が刻まれていた。
それを見た人達は蜘蛛の子を散らしたかの逃げ出し始めた。
だが、その時にはもう全てが手遅れだった。
「撃て」
その部隊の指揮官の合図と共に、先まで賑わっていた大通りは、悲鳴がこだまする地獄と化した・・・。