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世界の果ての冒険者たち  作者: 彩都 諭
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第6話 王都ゲラン

 第6話 王都ゲラン


 一夜明けて、雨はすっかり止んでいた。


 ラーナ、そしてセルゲイと名乗る戦士は、グリューネ村での戦いのすぐ後、村を出発していた。戦いで疲弊していたが、王都からの救援部隊の兵士に協力を要請し、ゆっくりではあるが、馬車で夜間の移動をすることが出来たのだ。


 そして朝。街道が小高い丘を越えると、平原の真ん中に聳える、山のような城塞都市が視界に入る。


 フルト王国の王都、ゲラン。


 数日の旅が終わりを告げた。



 城門前で馬車を降りると、兵士が一小隊、隊列を組んで二人を出迎える。


「王国即応騎馬隊隊長、ラーナ・デイルです。王命に従い、ハル村から男を護送して参りました。確認をお願いします」


「近衛隊隊長、アレン・ハルブライトです。了解しました。ご報告をお願いします」


 ラーナは簡単に任務の報告を行う。この後、王にも詳細に報告を行う事になっていた。


「ありがとうございます、ラーナ隊長。まずは…ご無事でなによりです。グリューネ村、そして部隊の兵士たちは…誠に残念です…。では、お二人をご案内しますので、ついてきてください」



 近衛隊と共に二人は門をくぐる。王都ゲランは各国に比べても非常に歴史が古い。伝説によれば、かつて緑龍の森から溢れ出て来た怪物たちの侵攻を最初に食い止めたのが、山を利用して建造されたこの城塞と言われている。以降、何度も襲撃を退け、時が経つにつれて城壁もより堅固に改修が行われた。今や、この城塞都市は何層にも区切られ、それを大まかに下層・中層・上層・王城に更に区切っている。


 それだけではない。外壁、各層を隔てる内壁

 の上には投石機と巨大な弩弓が据え付けられており、扉も巨大で堅牢そのものだ。例え巨大な龍の類が襲って来ても、迎撃が可能に思える。


 この各国にも類を見ない城塞都市は、まさに難攻不落。人間の世界を守る盾だった。



 街を歩いていると、人の多さに戸惑う。広大な平原を騎馬で走り回っていたラーナは、門をくぐる度に感じていた。隣に視線を移すと、セルゲイが目を輝かせて周囲を見回していた。この男は相当に感激しているらしい。感動で涙まで浮かべそうな気までしてくる


「ふふ…まさか、この男がこんなに嬉しそうにするとは…意外です」


「そうなのですか? まあ、おそらく辺境から国の中心に来たのですから、最初は驚くでしょうね」


 ラーナはアレンと、セルゲイの様子を見ながら談笑する。道中のピリピリした感じはすっかり薄れていた。それに、アレンもセルゲイには最低限の警戒だけで、あまり干渉しない。


 そうしている内に、王城までの道のりはあっという間に過ぎていった。すっかり機嫌を良くしたセルゲイだが、上から都市を見下ろしている時は、少し遠い目をしていた。


 近衛隊に連れられたまま、王城に入る。都市全体と同じように石造りを基本にしている内装は、豪華絢爛ではなく、荘厳な雰囲気に包まれていた。それに、兵士を始めとして様々な職の者たちが城内で忙しなくしている。


「相変わらずの光景ですね」


 ラーナが一言呟く。いつも通りの光景が城内に広がっていて、少し安心した。


「ええ。平常運転ですよ。まあ、お二人が陛下にご報告された後は、おそらく鍋をひっくり返したような騒ぎになるでしょうが。楽しみです」


 アレンが嬉しそうに微笑む。その顔を見て、ラーナは苦笑いをした。


 奥に進むと謁見の間が見えてくるが、その手前の部屋に二人は通される。この国の謁見は余程の無礼でなければ特に作法は気にされない。というのも、国王は堅苦しいお世辞は苦手で、人々とは親戚や兄弟のような関係を築きたいと考えていた。


 とはいえ、親しき仲にも礼儀あり。ある程度の礼儀は守るべきであろう。二人はそれぞれ服を着替える。


 ラーナは丈が長く、青い、袖無しの刺繍入りワンピースのドレスの上から、儀礼用に装飾が施された胴鎧を身につける。脛当てと手甲も同様に、滑らかな形状、装飾が施されており、まるで鎧も含めたドレスのようになっていた。


 勿論、実用には向かないので、ラーナは謁見の際にのみ着ることにしている。頭には兜ではなく、繊細に編んだようなティアラを着けた。


 ラーナの家、デイル家は、古くからフルト王国に貢献してきた名家だ。とはいえ、政治的な発言力や経済力は家柄と関係ない。デイル家の者たち一人一人が、時には武勇、時には学術、時には商才を発揮した結果なのだ。


 その中には、名家だろうが凡庸な一生を送った者もいるし、犯罪者として投獄された者もいる。良くも悪くも、家柄には縛られない。それがデイル家だった。


 その長女であるラーナは騎兵隊の隊長だが、今のデイル家が裕福とは言えない。しかし、王家は王国に貢献しているラーナに対しての恩賞を授けていた。それが、この特注の礼装だ。


 この衣装と鎧を身につけ、国王陛下に謁見できる事をラーナは誇りにしている。


 十分な時間をかけた着替えが終わり、部屋から出てきたラーナ。その前にはセルゲイが立っていた。


 彼自身、謁見の意味が雰囲気でわかっていたのであろう。用意された小綺麗な衣服…上は緑に下は茶色で、金の刺繍を施したベストを着こなしていた。ラーナは驚いたが、意外なのはそれだけではなく、髪を後ろで束ねて編み、髭は全て剃っている。戦士の姿の時は筋骨隆々の、よりガタイの大きい印象だったが、今は少し締まった、品の良さまで感じられる変貌ぶりだ。


 そのセルゲイの雰囲気は、まるで従士だ。ラーナは思わず見とれてしまう。


 その様子に気づいたセルゲイが、ニッコリと微笑むと、ラーナは顔を真っ赤にさせて後ろを向く。


(わわ、私は何を! 平常心…平常心…)


 気持ちを落ち着かせて、再び向き直るラーナだが、やはり顔は少し赤かった。


 少し離れて二人の様子を眺めていたアレンはクスクスと笑う。


「ふふふ、おもしろいなぁ、あの二人。久しぶりに大好きな親父に会った娘みたいだなぁ」


 そんな風に見られているとは知らず、ラーナとセルゲイはいよいよ謁見の間に向かう。


 一通りの挨拶の後に部屋に入ると、左右には重装備の騎士が列をなして並び、玉座の左右にも重臣が並ぶ。


 そして、その中心に座しているのが、フルト王国を治める国王、アーネスト・ロサだ。


 一見すると、大柄で粗忽な感じに見える。しかし、その年老いた顔の皺にはフルトの歴史が刻まれているかのように、厳かな印象を称えており、その目には柔らかさの奥にある、鋼のように堅牢な意思の輝きを放ち、その物腰は穏やかながら、迷いのないものを感じさせた。


 人々は、アーネスト陛下その人こそが、フルト王国を体現しているとさえ語るのだ。


 二人はアレンに続いて、ゆっくりと玉座の前に歩み寄った。


「陛下。王国即応騎馬隊、ラーナ・デイル隊長と、西のハル村より報せのあった男、セルゲイをお連れしました」


 アレンは一礼し、横に下がる。ラーナとセルゲイはその場に跪く。


「陛下。ラーナ・デイル、陛下の勅命によりハル村へ赴き、ただ今帰還致しました。私の隣におります者がお連れした目的の男、名はセルゲイと申します」


 頭を下げながら、ラーナは挨拶をする。国王アーネストはゆっくりと手を前に伸ばす。


「二人共、面をあげなさい」


 国王の低い声が響き、ラーナは顔を上げる。それに倣い、セルゲイも続いて顔を上げた。


「まずはラーナ、この度の任務、よくぞ果たしてくれた。礼を言うぞ」


「はっ! 有り難きお言葉を賜り、光栄です!」


「うむ。いつも申してはおるが、楽にしなさい。我らフルトの民は皆、家族でもあるのだ」


「はっ! ありがとうございます!」


 ラーナは一礼し、ニッコリと笑顔を見せる。アーネストも優しい、孫をみるような目で微笑む。


「さて……近衛隊から先に報告は受けているが、ラーナの口から改めて報告を聞きたい。よいかな?」


「畏まりました、陛下。少々長くなりますが…」


 ラーナはハル村を訪れて見聞きした事の話から始まり、道中の事、グリューネ村の一件、そして王都に着いてからの話も含めて、アーネストに報告する。アーネストは表情豊かにラーナの話を聞いていた。


「なるほど……。ラーナ、ありがとう」


 そう言って、アーネストは重臣に指示を出し始める。


「まずは各地の警備状況を見直す。軍司令に今の報告を元に、村々や都市に対策を講じるようにするのだ。こちらとの連絡も密にせよ」


 王の命令に応え、大臣の一人が走って謁見の間を飛び出る。本来の礼儀上は良くないが、この国はそういうところは気にしない。寧ろ、仕事に対する熱心で真っ直ぐな姿勢を評価している。


「続いて、魔導機関に伝えよ。グリューネ村の襲撃犯の詳細と動機を調べ、この国に限らず、脅威となる魔法使いの情報を集めるのだ。そして、その対応策の検討と報告を求めてくれ。今回のような惨劇が起こらぬよう、皆で全力を尽くすのだ!」


 この場にいる一同は気が引き締まる。あの惨劇を繰り返してはならない。ラーナも心に固く誓った。


「そして……これが難しい件になるのだが、王立学術院に報告し、この件に力になれる者を集めてほしい。何人でも構わん」


 アーネストは立ち上がり、セルゲイの元に歩み寄る。それから、周りの兵にテーブルと椅子を持ってくるように伝えた。


 程なくしてテーブルが運ばれてきて、椅子が並ぶ。それから、学者と思しき者も何人か現れる。


「さて、諸君。立ち話では語れない。席に着き、テーブルを囲んで話そうではないか」


 アーネストの号令に従い、各々が席に着く。その直後に、部屋の扉を勢いよく開ける音が響いた。


「待って下さーい!! 私も、話が、聞きたいです!!」


 息を切らしながら駆け寄ってくるのは、年齢はラーナと同じくらいに若い、真っ黒のローブを着込んだ女性だ。背丈は高くスタイルが良い。それに長い髪、パッチリした目は燃えるような緋色だった。


 とても目立つ外見の彼女は国王アーネストの前に跪く。


「陛下、報告を聞いてすぐに飛んで参りました! ウンファールの件も含めて、私もお話が聞きたいのです! ご無礼を致しましたが、ご同席をお許し頂けますか?」


「うむ。お前が必要だと思うのであれば、好きなだけ同席してくれ。歓迎するぞ、シモーネ」


「ありがとうこざいます!! ではでは〜!」


 シモーネは嬉しそうに飛び上がり、ささっと席に着く。が、そこはセルゲイの隣で、既に横に座っていた大臣を、なんとも言えない物凄い気迫で押しのけた。大臣は少し涙目になりなっている。


 シモーネ・ベル。別名"ドラゴン・ベル"


 国王直属の魔法研究機関、通称、魔導機関に所属する魔法使いである彼女は、その斜め上に飛び抜けるような行動と性格から、魔導機関の異端児とも呼ばれている。だが、仕事に対しては真摯に取り組み、若くして魔法研究の第一人者でもある。


 尚、趣味は料理で、著書に「強火と弱火ときのこ鍋」があるが、彼女の得意魔法は炎であり、更に言うと炎系の魔法以外は使えない。それでついた渾名が、北の山のおとぎ話に出てくる赤龍"ドラゴン"から取られたのだ。



 賑やかな彼女が加わり、テーブルには国王アーネスト、ラーナ、セルゲイ、アレン、シモーネ、それから学者と大臣が数名席に着いた。


 こうして、会議が始まる。それは、多くの運命の歯車が回り出す、きっかけでもあった。





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