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魔法のペンより強い剣  作者: 七夕 ナツキ
第1章 レイと魔法
6/8

5,逃避

「魔法を使うのか?」

「もちろんだが。 それがどうかしたか?」


 今少し逃げ出したくなった。まさかこんな羽目になるとは。


「ちょ、ちょっと待て。 そんなこと言ってたか?」

「いいや、言っていない。 言う必要があったのか?」

「はぁ? あるに決まってんだろ! なんで言わなくてもいいと思った? 普通に考えて、魔法を使う奴なんぞ、危なくて近寄れんだろうが!」

「君は魔法に関してだいぶ誤解があるようだがな。 まぁ、それはいい。 何故言わなかったか、と君は聞いたな。 それは君が手っ取り早く、と言ったからだ。 だから私は要件を最低限言ったまでのこと。 どうだ、満足か」


 確かに言った。揚げ足を取られたのか。

 つまり、魔法の話を出せば俺に確実に断られると分かっていたために、俺の言葉尻を捕らえて、巧妙こうみょうに言葉を発さなくて良いようにしたという訳だ。


 クッソ、この女かなり性格悪いな!


 女は確かに笑いをこらえていた。手玉に取ってやったという顔だ。


「さて、準備は出来たか?」


 女に問われ、慌ててナイフを鞄にしまう。


 何故だか分からないが、俺はこの女に従っている。

 それは相手が魔法を使うということを知ったからだろう。

 その「魔法」というたった二文字の言葉は、俺の脳内の選択肢を全て「完全服従」に染め上げるのには、十分過ぎたようだった。


 もう何も考えない。あれだ、所謂いわゆる保身本能による思考停止ってやつだ。


「よし、いいな。 君もこちらへ上がってくれ」

「ベッドの上にか?」

「ああ、そうだ。 さぁ、始めるぞ」


 そういうと、女は杖をベッドに向かって振り下ろした。


 一陣の風が吹き抜ける。

 女の茶色い髪は、風にたなびき、さらさらと流れゆく。


 そして、その瞳は、さらに深い深い何かをたたえているような漆黒しっこくだった。

 

 たとえるなら、底の見えない落とし穴のようで、光の届かない海の底のようで。

 はたまた、暗く広い星の広がるよいの空のようであり。


 俺は、まさにとりこになっていた。心が吸われてしまったようだった。


 そして気づいた時には、女の足元には昨日の昼間にみたような紋章が広がっていた。


 本当に魔法を使うのか、とやっと実感が湧いてくる。

 同時に、冷静を保っている部分の脳が危険を察知し、俺を一歩後ずさらせる。


 女が突然口を開いた。

「これが魔法陣だ。 今から呪文を詠唱(えいしょう)する。 これは非常に重要なのだ。 しっかり聞いていてくれよ?」


「お、おう……」


 俺は一応の返事をする。

 すると、彼女は目を(つむ)り、何かを唱え始める。


「我が魔力の枠を超え、その力を与え(たま)え。(いしずえ)ノ術、第2段、『積術(レイルーン)』」


 その瞬間、魔法陣がまばゆい光を(あふ)れんばかりに放ち始めた。


「準備は整った。 君、もっと近くヘ寄ってくれ」

「魔法陣の中に入ることになるぞ? いいのか?」

「構わない。 むしろそうしてくれ。 そうでないと、この呪文を使った意味がないのだからな」


 そう言って、女は一枚の紙切れを、俺に寄越よこした。


 紙には、なかなか読みやすい字で、何だか難しい言い回しが書かれている。

 これは、もしや。


「呪文か?」

「ああ、そうだ。 それを読み上げれば、魔法が使える。」


 さらに、こう付け加えた。


「君でもな」


 真剣な表情の女を見て、やっと言いたいことが分かった。


「つまり……俺に魔法を使え、ってことだな?」

「大当たり」

 

 言ってくれるじゃねぇか。こいつは何を勘違いしているんだ。


「俺はなぁ、つい最近故郷から出てきた田舎者だぞ。 魔法だって、昨日初めて見た。

そんな俺に使えるわけがねぇだろう? 悪いが流石にその願いは見当違いだ」


 女は首を振る。


「いいから、読み上げろ。 荷物も魔法陣の中へ入れろ。 集中して、全神経をその紙に集めるのだ。 分かってると思うが、一度噛んだら、全てが初めからだ。 あくまで慎重に、だぞ」


 俺は混乱していたが、きっと断ることはできないと悟っていた。

 女と目があった。女が口を開く。


「大丈夫だ、君ならできる。」


何を根拠に言っているかは分からないが、どこか説得力があった。

 俺は意を決し、詠唱を始めた。


「我の属する、印よ、ひずみの力をもって、空間を飛べ」


 ゆっくりと、慎重に、集中して。


「天ノ術、第13段、『飛空動(シュライト)』」


 次の瞬間、体が、浮いた。


1章ラストです。ついに逃げる時が来ました。

まさかの魔法を使っちゃうというね、、、

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