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5口目


 夕日が沈み始め、街の人々が家路へと向かう。


 私とクーちゃんもまた帰り道を歩きながら談話中です。


「夕方ですね。もっとクーちゃんと遊びたかったです」


 夕日が沈むとなんだか少し寂しい気持ちになるのは私だけでしょうか?


「近いうちにマーメイドカフェで会う約束したんだし、次回はジャム買いに行くんでしょ」


「カエル親方さんのいるグリモ食堂にもですよ!」


「はいはい。あんた本当に食べてばっかね……いい加減に太りなさいよ」


「えへへ~♪」


 やっぱりクーちゃんといると楽しくてニコニコが自然と出てきちゃいますね。


 ダンゴさんもクーちゃんとはすっかり仲良しですし。


 これならシナギクちゃんやルシャラちゃんも、きっとダンゴさんとすぐに仲良くなれそうです。


「ミュ」


「ダンゴさんも今日はお疲れですかね?」


「早く帰って…………あれ? ハナ。あれって?」


 クーちゃんの声に反応して立ち止まった私は、建物と建物の間を通った細い水路がある少し薄暗い場所に視線を向ける。


 国からは危険度が低めという理由で特別な許可を得て、フェノクロスに滞在しているモンスターのオーク兵さん達に囲まれている背の低い少女。


 タヌキの半獣人。見惚れるくらいキレイな白くて短めの髪。


 大きな青色のマフラー、そして真面目そうでクールな雰囲気の姿。


「……間違いありません。複数のオーク兵さんに囲まれているの、あれシナギクちゃんですよ」



 ――――不覚。


 ボクとしたことが不覚だった。


 用心棒として護衛任務中に殿下を見失うとは……。


 名門フェノクロス学園のエリートとしてあるまじき失態。


 これではウンディーネ寮の皆にバカにされても仕方ない。きっと故郷のおババ様にも叱られてしまう。


 しかも。知能の低いオーク兵達にぶつかったという理由でからまれるとは……。


「オイオイおチビちゃん! 人にぶつかっておいて謝らないとは、どういう教育受けてんだ! あぁぁん?」


 ……人じゃないくせに。


「シナギクちゃん、シナギクちゃん」


 この声はハナ殿?


「こんな場所でなにしてんのよ優等生。迷子?」


「見ればわかるではありませんかクー殿……今ボクは」


 ――なっ! なんということ。


 ハナ殿の頭の上にいるのはまさしく。


「で、殿下! ご無事でなにより。申し訳ございません。ボクが少し目を離したばかりに……」


「ちょちょ、ちょっと待ってくださいシナギクちゃん。私は殿下ではなくてハナですよ」


「いや。あんたの頭の上にいるダンゴのことじゃない? どうして小型モンスターと、その殿下ってのと見間違えるのよシナギク。メガネしたら?」


「ミュミュミュー♪」


 バカな。殿下ではない? 確かに殿下とは“鳴き声”が違う。


 くっ……続けざまの失態。もはや故郷のおジジ様の前でポンポコ踊りをしても挽回できないほどだろう。


 ボクがこれほどまでに無能だったとは……都会になど出ず、大人しく田舎で暮らしていればこんなことには。


「もしも~し。シナギクちゃん大丈夫ですか?」


「この子こういうところあるのよね。どうするハナ?」



「オラァ! テメェら無視してんじゃねぇぞ!」


 ――はっ! 忘れていた。オーク兵達のことをすっかり忘れていた。そしてこれはマズい状況。

 この場に“ハナ殿”がいる。


「え……と、すみませんオーク兵さん。私達は争い事は苦手でして……」


「ちょっとシナギク。あんたハナをケンカに巻き込まないでよ」


「も、申し訳ない。いや……それよりもクー殿。これはマズいことに」


 わかってるわよ、と言わんばかりにクー殿もまたボクと同じく鋭い眼光をみせる。


 マズい状況。

 それはオーク兵達がハナ殿のことを“神獣”だと知らないということ。


 半獣人は産まれてすぐに戦闘に特化している者と、していない者に分かれる。


 ボクやクー殿は【獣神】と呼ばれ、獣界のなかでも神のような力を宿している。と、昔から言い伝えられている。


 ハナ殿の場合は更に優れた存在で【神獣】と呼ばれ、神界に住む獣のごとく。計り知れないほどの強さを持っている。


 彼女の性格や、その容姿からは想像できないだろうけど。それが事実。最強に近い存在である。


 証拠に。本来の獣神ならば戦闘時に瞳の色を赤く染めることができ、そうすることによって爆発的な力を発揮する。


 神獣はその瞳を色鮮やかに、つまりカラフルな色に染め、獣神を上回る強さを持っているのだ。


 しかし争い事が嫌いなハナ殿本人は、あまり理解していないと思われるが。


「口で言ってもわかんねぇらしいな……」


 やはり、この程度のオーク兵達にはハナ殿の内に秘めた強さを肌で感じることすら出来ないらしい。


 仕方がない。もともとは“コイツらから”ぶつかってきたわけだし、売られたケンカはボクが買い、コイツらを一蹴するしか……。


「ミューーーー!」


「――!」


「はわわっ。ダンゴさんどうしましたか?」


 ダンゴ……ちゃん……殿?

 ハナ殿の頭の上にいたダンゴちゃん殿の大きな鳴き声によってオーク兵達はピタリと止まり沈黙した。


「…………」


「あれ? オーク兵さん達が黙って去って行きますよ?」


「どうなってんのよ? ダンゴになにかされたの?」


 間違いない。今のはダンゴちゃん殿の仕業。おそらくモンスター同士にしかわからない不思議な力が発動したのだろう。もしくはダンゴちゃん殿の“強さ”に恐れたか……。


 どちらにしろ。こんなにも小さいのに、あのオーク兵達を退けるとは。


「……お、恐るべしダンゴちゃん殿」

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