4口目
以前お会いした。アルバイト先の常連客の勇者様ですが。
借金取りの人達に連れていかれてしまいまして。
……後日テンチョーから聞いた話だと、借金返済のために畑や色んな場所で働かされているみたいです。
まじめに合法的に。
なのでテンチョーは私に、うしろめたさを感じる必要はない。彼の自業自得でいい薬になると言っていただきました。
……さて。
今日はクーちゃんと遊びに出掛けますよ。
遅刻しないように早めに家を出ましょう。
待ち合わせが午後の一時なので、三十分くらい前に家を出れば間に合うはずです。時計時計、今の時間は?
【午後一時――】
「…………あれ?」
◆
【ポアール商店街・北口】
遅い!
ハナってばどこで道草食ってるのよ。
「ク~ちゃ~ん! ごめんなさ~い! ……はぁはぁ」
ようやく来た。走るの遅いわね。
『モフモフ……』
「遅かったじゃない。これがデートだったら帰ってるわよ……って、あたしの尻尾をモフモフしないで!」
「クーちゃんデートしたことあるんですか?」
「な、ないけど……」
「すみません本当に。時計を見たら待ち合わせ時刻だし、ダンゴさん小さいから見つけるのに時間が……それに途中で道を間違えてイフリート街道からフレア山に……」
「ミュー!」
「なんで軽く冒険して来てるのよ」
まったく相変わらず危なっかしい子ね。
住み慣れた街で道を間違えるなんて、方向音痴だったっけこの子?
◆
「へー、じゃあダンゴはオスでありメスでもあるんだ。あたしモンスターとはほとんど戦わないから知らなかったわ」
「そうなんですよ。勇者様が教えてくれました」
あぁ……ハナの店によく来る人ね。
ちゃんとモンスターとかの知識あったんだ。
「それにしても今日のクーちゃんの服装も大胆ですね。藍色のショートパンツが特に」
「ジロジロ見んなっての。この格好だと動きやすくて、戦いやすいし、楽で便利なだけなんだから」
あたしは一応仕事として、となり町にある円形闘技場で【犬闘士】として働いている。
仕事と言っても誰でも気軽にエントリーが出来る大会で、ショーのように対戦相手と戦って見に来たお客にアピールする。人気が出れば主催者側からお金が貰えるってわけ。
安全で死者も出ていない、腕に自信がある者にとっては小遣い稼ぎの出来る場所ね。
「……で、今日はどうするの? 買い物でもする?」
「わ~い♪ クーちゃんとお買い物するの久しぶりです。じゃあ今回はダンゴさんの服を買いに行きましょうか。いつまでも裸というわけには」
「――――」
「……ん?」
「ハナ。あんたダンゴが服を着るとでも? ダンゴに合う服が売ってるとでも?」
「…………え?」
あたしは呆れながらも遠慮なく、ハナのほっぺたをつねる。
「あ・ん・た・ね! 少しは考えてから物を言いなさいよね。行動もそう!」
「しゅ、しゅみましぇん……うぅ」
この子は本当に昔からこうなのよね。
天然で。小さい頃から一緒にいたあたしはよく振り回されて世話焼いたし。
今でもだけど……。
いつも明るくてイイ子なんだけどね。
老人ホームでのボランティアとか評判良くて可愛がられてるみたいだし。
そういえば。お店のくじ引きでハズレのティッシュですら大喜びする子だった。
「じゃあ気を取り直して食料品市場でお買い物しましょう」
なんだか嫌な予感が……。
「ハナ、もしかして料理を?」
「はい。クーちゃんに振る舞いますよ♪ 自家製のハムやチーズがありますし、最近オリーブを育てるのにハマっちゃってて」
「…………」
ありきたりな話だけど、ハナの作る料理はお世辞にも美味しいとは言えないかな。
昔あたしに作ってくれて食べたスコーンの味は忘れない。
あからさまに下手で不味いとは言いづらく、昔よりはマシなのだけど、本人は自覚していない様子。
ルシャラはまた別で、アイツの作る料理は独特なんだけど。
『ガヤガヤガヤ……』
「クーちゃん。あそこの八百屋さんに人だかりが?」
「あ~あれじゃない、広告が貼ってあるわよ。一部の野菜や果物が半額セール中っての」
「はわわーー。それはぜひ欲しいです。行かなければ」
「じゃあダンゴ預かるから行って来なさいよ。待ってるから」
「はい!」
ハナはダンゴをあたしに預けると、嬉しそうに八百屋に向かって行った。
『プニプニ』
「ミュー」
あたしは頭の上でくつろいでいるダンゴを、指先でつつきながらからかう。
「あんたも苦労しそうだねダンゴ」
「ミュミュ?」