2話 出会わなければ良かった
まず、見えるだの、見えないだのそんなチープな話はやめておこう。
見えようが、見えまいが、見たかろうが、見たくなかろうが、そこにはしっかりと存在するらしい。
らしいという文字を付けたのはあくまでも僕がまだ信じ切ってはいないがゆえにこのような表現をしたと解説を交えておこう。
僕の信条としては目に見えないものは決して信じない。ただそれだけだ。しかし、この信条にまさか穴があるとは思ってもみなかった。
幽霊など、見えるわけがなく、信じる対象ですらなかったのに、それが見えてしまう日が来るなんて、到底、予想しきれていなかったのである。
しかしながら、しっかりと僕の隣には存在し、彼女は現時点でも僕の隣にいるのだった。
その日の昼休みのことである。
僕はあの幽霊が悪さをしないようにと人気の少ない屋上に移動したのだった。
悪さと言うのも、授業中でありながら、あの幽霊は教室を歩き回り、掃除ロッカーを勝手に開けたりしていた。
そのせいでうちのクラスは今日一日中、超常現象にみまわれていたのである。
勝手にあく掃除ロッカー、浮遊するチョーク他にも小さいことがあった気がするが、多すぎて忘れた。
これで我が校にもともとある七不思議というやつが増え、二桁に乗ったのだった。しかも、昼間に。
「よ、信行!」
誰もいないはずの屋上で誰かに話しかけられた。しかしこいつは幽霊ではない。
話しかけてきたからには何か返すのが普通だと考えるだろうがこいつに至っては例外だ。
「…。」
僕はあえて無言を貫く。
「つれないな、信行はまるで見たくないものでも見えてしまったみたいな顔をしてるじゃないか。」
はぁ、と彼はため息をつく。
「そんな具体的な顔してねぇよ。」
「いや、してる。まるで、幽霊でも見たようなね。」
「…。」
「まるで、幽霊の女の子を見たかのような顔だね。」
「お前、まさか…。」
いつもいつも、何故だか僕の状況を当ててくるこいつは少し気持ち悪いやつだった。
「なるほど、当たっちゃったのか…」
「まぁな…今日のクラスの出来事はそんなもんだ。」
「信行が小さい女の子襲ってその女の子に取り憑かれてるとはね…」
「違うぞ?」
「信行、ホモじゃなかったんだね。よかったよ。」
「よくない!より犯罪性が増してるだろうが!」
ってか、僕ホモだと思われてたの!?
はっはっは!と僕の隣で笑う彼はこの学校での僕の知り合い。(友達と言わないところがポイントなのである。)
ヤツと友達!?それだけは回避したい。しかしながら、僕はこの学校で彼以上に話をする知り合いはいないのである。友情など、目に見えないものだ。信じない。所詮、皆、自分がかわいいのだ。友達など、その次。僕はそう考えている。しかし、この世は生きにくい。一人だと、ぼっちだなんだと評価を食らう。一年生の時はそれで担任によく呼び出された。それに引き替え、彼は気楽だった。大したつきあいもないが、彼が来てくれるようになり、担任の面談も減った。
そんな彼の名は鑑。下の名前は知らん。教えて欲しいとも言わなかったし、彼は教えようとはしなかった。まぁ、聞いてもいいのだが、鑑と知り合ってもう二年。聞くタイミングを逃してしまっているのだ。
「それで、信行はどうかしたの?」
鑑はそう聞いてくる。
こいつに何を言っても無駄かもしれないが一応、相談に乗るくらいには役に立つかも知れない。
幽霊の女の子の方を向いて少し大きな声を出す。
「こっちにこい、ガキ」
「ガキちゃうわ!実質、私の方が年上だもん!」
そう言って近づいてくる彼女は今日の朝、僕が見てしまった幽霊だ。
何でもさまよっている時間がもう15年近いらしい。
実年齢は言えない(本人談)ではあるが、年上なのだろう。到底、年上には見えないが。
「何か言った?」
心でも読めるかのように彼女は圧力をかけてくる。
僕は彼女を鑑の前に立たせる。
「何か見えるか?」
鑑にそう聞く。
「まぁ…」
鑑はそう答える。
やはり、こいつは見えているみたいだ。
「何が見える?」
「の、信行…///」
「…。」
「…///」
ホモみっけ!