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診療所A

診療所A ③

作者: すろ十五


新型の空気清浄機を買った。昨日の夜買って帰った。今、朝の始めの一本を吸いながら思い出したので、はじめて電源を入れて稼働させてみる。開けた窓の側に戻って続きを吸う。部屋の奥で正常に低い音でうなっているのを向かいから眺める。かわいいやつだ。昔飼っていた猫のサワラに似ているかもしれない。サワラもよくあの辺でうなっていた。テーブルに出しっぱなしにしていた取り扱い説明書をよく読んでみる。ずいぶん賢いやつらしい。それもサワラに似ている。賢いやつは警戒心が強いからうなるのかな。サワラ二号と名付けよう。

「なんでも浄化!」

なんて文句のシールが二号には貼りっぱなしだ。

気持ちの良い煙が身体に染み渡る。

なあ、二号。

もしお前が将来もっと高性能になったら、宇宙のどんな星の大気も人間が生きられるように変えることができる、なんてことになるだろうか。なんでも浄化できるなら、できそうだよな。そうなったら、人は自由に他の星に移住できるだろうな。どこの星に住みたい。俺は土星に住みたい。わっかがかっこいい。地球から程よく遠くて移住する人も少なそうだ。俺とお前だけの土星。いいな。しかしそうなると困るのは仕事だ。俺は医者だ。自分以外の人がいないと仕事ができない。でもまあ医者の仕事が無いってのは良いことだよな。今のうちに貯金をたんまりしておこう。土星に移住したときに仕事をせずに生活できるように。

携帯電話ががたがた震えた。仕事の電話。同僚から呼び出しだ。緊急大量搬送。いつもの人手不足に伴う休日出勤である。じっくり楽しんでいた一本を灰皿で潰す。今気づいたけど窓開けて清浄機つけてるって、大変だ。このままじゃ世界の大気ぜんぶ清浄してしまう。二号のコンセントを抜いた。

おやすみ二号。

お前は先に寝てていいぞハニー。ダーリンはお勤めに行ってくる。

呼び出される予感にしたがって出勤スタイルに着替えていてよかった。パジャマのジャージはもう布団の上に置いたまんまでいいや。窓閉めた。携帯持った。財布はいいや。煙草はさっきのが最後の一本だった。箱を捨てる。途中で買う暇は無い。職場の机にストックがある気がする。いやその最後のストックがさっきの捨てたやつだ。ちくしょう吸うんじゃなかった。なにが優雅な朝だくそったれ。一息にアパートの階段を降りきったところで部屋の鍵を閉めるのを忘れたことに気づいた。

留守はまかせたぞ、二号よ。

振り向かず、呼び出した同僚にたかる今日の晩飯のメニューを考えながら自転車を漕いだ。


つづく。



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