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第3話 ルエラの場合

 あ~久しぶりの日本!

 一直(いちなお)の結婚式以来ね~。


 今日は、(きょう)ちゃんとお買い物。ルンルン。でも二人きりで行きたかったのに、一直ったら、

「母さんと二人きりで買い物に行かせるなんて、恭が危ないからダメ!」

 とか何とか、失礼な事を言って無理矢理ついてきちゃったのよね。

 まったく、人を危険物みたいに。

 で、その流れで直人(なおと)さんも一緒になってついてきたの。一人で留守番しててもつまらないからとかなんとか。

 でも、これが結果的には良かったんだけどねー。でないと恭ちゃんを一人で放っておいて、淋しい思いをさせちゃうところだったわ。さすが一直。


 女性の買い物を甘く見ていた一直は、私たちのとどまるところを知らない体力に、げんなりしつつも恭ちゃんを守るため?についてくる。


 直人さんはさすがに年の功。要所要所で、そこら辺においてあるソファやベンチで休憩を取り入れている。一直も、楽しそうにしながらも時々自分を気づかう恭ちゃんを見て、後半は休憩に参加していた。


 両手に余る荷物を提げて、二人がお茶しているオープンカフェへと行ってみると、そこに思いも寄らない人がいた。

 二人の横で優雅に紅茶を手にしているのは、

「デラルドさん?」

「お久しぶりです、蔵木さん。いえ、今は手塚夫人でしたね」

 ああそうか、一直たちの会社のコンテストで会った人ね。

 でも何か雰囲気が微妙。一直が毛を逆立てた猫みたいな雰囲気を出してる。


 訳がわからずにいると、彼が私に話しかける。

「ルエラさんですね。あちらの世界ではお噂はかねがね」

「ええー?もう何十年も帰ってないのに、まだ何か言われてるのかしら?」

「それはもう。伝説の魔女は未だに健在ですよ。ところで、正式な自己紹介をしていませんでしたね。私はデラルド・ジツェルマンと申します」


「…ジツェルマン?」

 その名前には少し、いえいえ、かなり、イヤーな気持ちになる出来事が。

 すると彼がニッコリと微笑む。

「私の父親はデータスです」

 楽しそうに言う彼。あちゃー、やっぱそうか。でもなんでわざわざそんなこと

を言うかな?曖昧に笑みを返していると、

「では」

と、立ち上がりながら、人さし指の爪を立てる。すると爪の先が光り出した。

 これって光の刃?父のかたき!なんてイマドキはやらないわよ。思わず身構えた私に彼が笑いかけ…その爪を思ってもいない方へ向けた。

 え?恭ちゃん?

 シュッという鋭い音がして、刃は恭ちゃんめがけて飛んでいく。すると、目にも留まらない早さで一直が恭ちゃんの前に立ちふさがり、刃を誰もいない天井へはじき飛ばした。


 さすが一直!と、感心してる場合じゃない。

「何をするんです」

「決まってるでしょう。私になびかなかった蔵木さんに制裁を加えようと」


 とたんに、一直の目の色が変わる。悪魔と殺気を含んだ目。

 そして、

 それを見たデラルドの顔に、さっきまでとは違う愉悦の笑みが浮かぶのが見て取れた。

 もしかしてこの子…


 私はとっさに判断して、デラルドと私のまわりに結界を張った。「え、なに?ルエラさんとデラルドさんが消えた」と言う恭ちゃんの声。その後に「結界だよ」と一直。たぶんまわりの一般人には、私たちが消えたことすらわからないだろうけど。


 さあーて、これで邪魔も入らないし、ゆっくりじっくり彼と対峙しましょうか。すると直人さんが私に呼びかけるように言う。

「ルエラ!焦らないで行くんだぜ。話のわかる奴なら、まず話しでケリをつけろ。…一直、今の言葉母さんに届いてるか?」

「ああ、親指立ててる」

「それでこそ、俺の選んだ女だ」


 フフ、直人さんったら、現役の時みたい、相変わらずカッコイイ。とかのろけてちゃダメよね。まずは彼よ彼。


「えっとデラルド?だったっけ。少し話をさせてもらっていい?」

「ええ、もちろん。ですが一つだけ質問を」

「?なにかしら」

「貴女のご主人。彼は人間ですよね?」

「ええ」

「では、なぜ貴女が結界に入ったとわかるのです?普通は消えたとしか思わないはず」

「それはね~愛の力よ~」


 私はにんまり笑って答える。

「ああ、でも経験からってこともあるわね。私が結界はれるのは、直人さんよく知ってるから。でもね、彼は私がどの当たりにいるかわかるみたいなのよ~。だからさっきもちゃんとこっち見て話ししてたでしょ?きゃ~これってやっぱり愛の力よね~」

 そのあとものろけまくる私を唖然とした顔で見つめるデラルド。


 あ、いけない、つい。私はコホンと咳をして、話の続きをはじめる。


「お父様と私の事は知ってるわよね、もちろん」

「もちろん」

「そして、あなた一直に執着してるわね?」


 するとなぜかデラルドは嬉しそうに言う。この子やっぱり私にそれを教えたかったんだ。

「さすがは伝説の魔女だ。あの一瞬でそれがわかりましたか。ええ、おっしゃるとおり、なぜだかわかりませんが、ええ、なぜだかわからないんですが。私は貴方の息子さんに滅ぼされても良いと思うほど執着してしまっているのですよ」

 あのさあ、なぜだかわからない、を二度も言うかこいつ!わかってるくせに。


 でも、でも。

「くやしいわね」

「?」

「あのとき、私は復活の魔法を完璧だと思ったわ。でも、貴方は私の血をひくものに執着している。これって魔法が失敗って事よね。ほんっとに悔しい!どこが間違ってたのかしら、貴方は一直のどこに執着をより強く感じるの?それで原因がわかるかもしれない。ねえ、教えてよ」


 デラルドは私の反応があまりにも予想と違っていたのだろう。「え?」とか「は?」

とか言っていたが、「わかりました、考えてみます」とおかしそうに言っている。


 そしてしばらく考えていた彼が、静かに話し出した。

「まず、普通にしている彼には何の感情も起こりません。ただ、先ほどのように殺気立つ彼の目を見ると、無性に楽しくなる。鳥肌が立つくらい」

「ふうん」

「その瞳の奥に悪魔を見つけて…ああ、そうか。というより私の中の父が貴女自身を見つけて執着しているのでは?」


「それってやっぱりデータスが私に心残りがあるって事よね~、あーやっぱり失敗か!ごめん!ほんっとごめんねえ、デラルド」

 私は彼に手を合わせて謝る。彼はまた訳がわからず目を白黒させている。

「伝説の魔女なんて言ってもしょせんはこの程度よ。悪魔一人まともに復活させられやしない」

「え…いえ、復活させられると言うのが、そもそも奇跡のような話なのでは…」

「完璧に復活させてこそよ!あ、そうだ。それはまあおいといて」

「は、はい」

「あんたもこのままじゃ、浮かばれないわよね」

「浮かばれない…まだ生きていますが」


 情けなく言うデラルドを置いて、私は脳内細胞をフルにはたらかせる。あーで、こーで。ここはこう計算して、これをこう持って来て…

「あー!でもここじゃハーブも水晶もないからやっぱりダメ!デラルド!」

 いきなり叫んだ私に「は、はい」と返事するデラルドに宣言する。

「なんとか頑張って残りの呪いを解明するわ!」

 こぶしを握りしめる私に、デラルドはやっぱりタジタジしてる。


「あ、でもね。あんた人間をバカにしてるようなところがあるから、いいこと教えてあげるわ」

「?」

「人間ってね、そりゃあたいしたこと出来ないけど、ひとつだけすごい魔法が使えるのよ」

「それは、どういう」

「愛してる、の魔法」

「あいしてる」 

「そ、間違った使い方さえしなければ、この魔法は奇跡を起こせるの」

 そして、デラルドの両手を持ち上げて、

「貴方にも、愛してるの魔法をかけてくれる人が現れたら、奇跡が起こって呪いが解けるかもよ。あんた、気になる人はいない?」

「気になる人ですか…」


 何やら考え込むデラルドに、私はそのあと、蕩々と愛について語ったのだった。

デラルドもしきりに感心してたから、もう大丈夫だと思ってたんだけど。



 数日後。

「母さん。デラルドに何吹き込んだんだよ」

 私は怒った一直から、テレビ電話の襲撃を受けることになる。


「え?何って?」

「デラルドの奴。また恭に迫りだしたんだ。愛と契約は別物だとか何とか、変な事言い出して」

「あー」

 そう言えば気になる人がいないか聞いたけど、本気にしたの?しかも恭ちゃん?でもそれってあまりにも都合が良すぎ。まさか…


「もー、俺本気であいつを灰にしてしまいそうだよ」

 疲れた顔で話す一直に、びっくりして言う。

「えっ?ダメよ!じゃあさ、復活の魔法伝授しておくからそれで解決して」

「そんなもの、母さんじゃなきゃ出来るわけないでしょ。伝説の魔女さん」

「えーじゃあどうしよう~。あ、もしさ、灰にしちゃったら、全部かき集めてゴミ袋にでも詰め込んどいて、私が復活させる!今度こそ完璧に!」

「ハハ、…良いよ。でも間違って燃えるゴミの日に出しちゃうかもしれないな」

「いちなお~」


 なんだかすごく心配。

 デラルドってやっぱり一筋縄じゃいかない子だったわね。私の愛論を逆手にとって、また一直にちょっかいかけてるみたい。デリーの呪い恐るべし!早く解明しなければ、ホントにとんでもない事になりそう。

 あーあ、また日本へ行かなきゃならないと、ため息をついたとき。

「伝説の魔女は今日もお忙しいことで」

 シャワーから上がってきた直人さんが、おかしそうに言う。

「も~、人ごとだと思って!」

「人ごとじゃあないぜ。俺もついてかなきゃならないんだから」


 えへ、ごめんね。あ、でも、ふと思いついて私は直人さんに聞いてみる。

「ねーえ、直人さんは私が他の男に言い寄られたら、どうするの?」

「決まってるじゃねえか、ハンドガンで一発さ」

「ふふ、ありがと。でもそれは一直には言っちゃダメよ」


 私は嬉しくなって、直人さんにしなだれかかっていったのだった。

                                                                       了



「vsデラルドさん」の3部作、終わりました~。

 最初からコメディで行きたかったのですが、なぜかダークな雰囲気をかもし出すデラルドさんに引きずられて、第1話は少し暗い雰囲気に。これも呪い?

 でもさすが伝説の魔女。ルエラさんがちゃんとまとめてくれました。

 ダークな話も嫌いではないけど、私が書けるのはせいぜいこの程度。

 楽しんで下されば幸いです。 

 


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