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アスラの場合 一族の昔話

 アスラを見送ったデラルドは、しゃれたテーブルと椅子のある一角に移動して、物思いにふけりだした。


 フルストヴェングラー家とジツェルマン家は、どちらも異界の名門である。そのため、昔から両家は婚姻関係を結ぶのが常だった。冷徹で伝統を重んじるジツェルマン家に比べ、フルストヴェングラー家は自由闊達、常に新しい風が吹いているような家柄だった。


 そのうち時代の風潮か、両家から、あたりまえのように決まっていた許嫁の関係を考え直してはどうだろう、と言う意見が出はじめていた。

 当時のフルストヴェングラー家の長男、アシュリーもそのうちの一人だった。アスラや一直から見れば、祖父に当たる。


 この男がある日、ジツェルマン家の長女であるデリーとの婚約を破棄すると申し出た。好きでもないもの同士が、生まれたときから許嫁としているのはおかしいと言い出して。

 プライドの高いジツェルマン家の方も、それは当然と、娘の気持ちなど聞かずさっさと婚約を破棄してしまった。そして彼女を、遠く離れた家柄の良い別の男の元へと嫁がせてしまう。

 だが、実はデリーは幼い頃からアシュリーが大好きだった。彼と結婚して、子どもを産んで、幸せに暮らすのが夢だったデリー。


 時が流れ。


 デリーは嫁いだ当初はひとり嘆き悲しんでいたが、それも優しい夫のせいでやがて薄らぎ、子どもが産まれた時は幸せの絶頂にいた。


 そしてそんなある日、デリーは両親に一歳になった子どもを見せるため、結婚後、はじめての里帰りをする。

 そこで、出会ってしまったのだ。生まれたばかりの赤ん坊を抱いた夫人と、二人を守るように寄り添う幸福そうなアシュリーに。


 デリーはまた嫉妬の嵐が自分を襲うのを感じた。本当なら彼の横にいるのは私のはず。あまりの悔しさに、彼女は自分の子どもと彼の赤ん坊に呪いをかけて、二人が必ず結ばれるように仕向けたのだ。

 だが…

 そのことを知ったアシュリーは手を尽くして呪いをとく。ただし、自分の娘の方だけ。デリーの息子には彼女が二重の呪いをかけていたため、どうしてもとけなかったのだ。


 そして、その娘というのがルエラ。一直の母親だ。

 そうして、その息子というのが自分の父親のデータス。


 データスは呪いのせいで、ルエラに異常な執着を見せ、どこへ行っても彼女を追い続ける。だが幸か不幸か、彼にとっては幸だったかもしれない。ルエラが、異界史上類を見ないほどの実力の持ち主だったと言う事。


 ルエラはデリーの二重の呪いを調べ上げ、それを解くためには、彼を焼き尽くさねばならないと言う事実を知る。なんと、呪いを解くためには彼を殺さねばならないのだ。


 普通ならここであきらめるのだろうが、ルエラは普通の魔女ではなかった。

 焼き尽くした後に発動する復活の魔法を作り上げ、彼をそれで救うことに成功する。


 ただ、彼は焼き尽くされる炎の中でも、彼女に執着の言葉を浴びせかけていたそうだ。


 ルエラはそのあと、興味津々だった人間界で人間と恋に落ちて、こちらで暮らすようになる。データスは私の母親と出会って、今でも異界で暮らしている。ただ、私に人間界へ行くよう勧めたのは父親であるデータスだった。


 焼き尽くされた中から、呪いだけをそぎ落として再生する。そんなことが果たして完璧に出来たのだろうか?

 父親の中には、今でもデリーの呪いが残っているように思える。


 そして今、その答えのように父親のDNAを受け継ぐ自分が、彼女の息子に執着している。

「なんと残酷なできごとでしょうね」


 デラルドは言葉に反して、とても楽しげだ。

 新月の真っ黒な月が、空に張り付いていた。


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