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第2話 アスラの場合

 最近アスラのお気に入りは、薔薇の季節に那波たちとランチした公園だ。

 しんしんと凍りつく午前二時半。

 こんな寒い時期に、こんな夜中に、公園をうろつく人間はまずいない。しかも防犯対策とやらで、公園の入り口には頑丈に鍵がかけられている。アスラにとってはそんなものは、ないに等しいのだけれど。


 異界にいたころは、母親が庭でハーブを育てていたため、アスラのまわりにはいつでも草花がふんだんにあった。それがこちらへ来てみると、木々や花のないことないこと。

 疲れたときには草花の中に寝そべって癒やされていたのに、ここではそれも出来ず。

 那波といると充分癒やしになるが、それはまた違った意味なので。


 そんな時に連れてこられたのがこの公園だ。

 ここの花壇の管理をしている人は、本当に草花が好きで大切にしているのが良くわかる。

 なぜなら、今は寒い時期なので、ほとんどが土の色だ。綺麗に見せようとして、無理に咲かせたり、季節外れのものを室内で咲かせて持って来たりしていない。

 人は緑がない花壇など誰も目をとめず「花が枯れちゃってちっとも綺麗じゃない」などと言うが、枯れているのではないのだ。彼らはちゃんと暖かい土の中に根を残し、やがて季節がめぐってくるのを眠りながら待っているだけ。


 だからアスラは疲れてくるとここへ来て、土の上にそっと寝そべり、少し、ほんの少しだけ彼らから癒やしをもらうことにしている。


 だが、今日は先客がいた。


「お久しぶりですね、明日羅くん」

 そう言って冷ややかな笑いをよこす、デラルド。

「なんでお前がここにいるんだよ」

「おや、悪魔が人間どもより繊細で、人間どもより癒やしを必要とするのは、貴方もご存じのはず。それに」

「?」

「ここはもともとわたしの方が先に見つけていましたから」

「!」


 そのように言われると、アスラには返す言葉がない。デラルドの方がこちらの世界は長いのだし。この場所を縄張りとしていても少しもおかしくない。

「じゃあもうこねーよ。あんたの縄張りを荒らして悪かったな」

「いいえ。ですが、私はもうここには飽きましたので、貴方にお譲りしますよ。今日はそれを伝えに」

 そんな風に言うデラルドを、驚いた目で見るアスラ。

「わざわざそれだけを言いに来たのか?」   

「さあ、どうでしょう?」


 こいつ!絶対に遊んでやがる。アスラはこんな奴に場所を譲ってもらうくらいなら、違う場所を探した方が良いと、立ち上がって公園を後にしようとした。残念だけど。

 すると、ふと思いついたようにデラルドが言う。

「アスラ…と言う名前はどこかで聞いたことがあるのですが、よければ貴方のファミリーネームを教えて頂けませんか?」

「……」

 長い沈黙。先にそれを破ったのは、意外にもデラルドの方だった。

「Please.」

 胸に手をあてて、慇懃に礼をよこしながら言うデラルド。

「フルストヴェングラー」

 アスラは一言だけ、自分の一族の名前を口にした。すると珍しくデラルドが目を見張る。

 

「なるほど。貴方がフルストヴェングラー家の跡取りですか。ですが、長女のルエラはこちらへ来ていますし。でも貴方は正真正銘の悪魔だ」

「ルエラは俺の叔母だ。俺の母親はルシア」


 するとデラルドは先ほどよりも驚いた様子で目を見張る。今日は珍しいものがよく出て来る日だな、とアスラは思う。


「ルシア…。そうですか、貴方がルシアの。それでそんなに純情なんですな、そして、自分の相当な能力に気づかずにいるのも。あはは、これはこれは」

 これも珍しく、おかしそうに声を上げて笑うデラルド。アスラはそのバカにしたような笑いが許せず、つい声を荒げて言う。

「何なんだよ!俺の母親の悪口を言うんじゃない!」

「悪口ではありません、感心しているのです。いやはやルシアらしい。ルエラならまた違うように成長したのだろうなと」

 そこまで聞いて、アスラはなぜこいつが母ちゃんや叔母さんの事を知っているのか不思議に思い、つい聞いてしまった。

「なんでお前、俺の母親や叔母さんのこと知ってるんだよ」

「それはあたりまえですよ。私のフルネームは、デラルド・ジツェルマン。私はジツェルマン一族の一員です」

「ジツェルマン?」

「ええ」


 アスラは詳しく知らないが、アスラのフルストヴェングラー家とデラルドのジツェルマン家とは、その昔に何やらややこしい関係があったらしい。考え込んでいるアスラに、デラルドがまた質問する。


「ルエラとはこの間のコンテストの時にお会いしたのですが、なぜ彼女があそこにいたのかがわからなくて。貴方ご存じですか?」

「お前、叔母さんに聞かなかったのか?て言うか、あそこに一直がいただろ?」

「一直?」

「ああ、ルエラ叔母さんは一直の母親だよ」

「!」


 今度はデラルドは本当に言葉をなくすと言う表現が似合うほどほうけていたが、ふと立ち直った様子をみせると、

「なるほど、彼がルエラの。なるほど…」

と、クスクス笑い出す。


「なんなんだよいったい」

「いいえ、これで謎がとけました。私が彼にこんなに執着するわけが。いや、今日ここへ来てみて良かった。ものすごい収穫が得られましたね。お礼を言いますよ」

 言いながら頭を下げるデラルド。


 アスラは「気持ちわりぃ」とかなんとか言いながら、やはりここが気に入っているらしく、デラルドに確認する。

「さっきのお前の宣言は本気なんだな?ここを俺に譲るって。やっぱり譲ってくれよ」

「もちろんです。ですが…」

「なんだよ」

「今日だけここを使わせて下さい。少し考え事をしたいので」

「あ、ああ」


 まあ、自分は明日からいつでも来られるのだから、今日は帰るか。

 アスラはボンッとちびっ子アスラに変化すると、すうっと夜空へ消えていった。


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