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間が空いてしまいましたが、少しずつ続きをアップしていきたいと思います。長い目で見守っていただければ幸いです。
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その朝、レース場に次のレースのエンリーリストが貼られた。
【次節カテゴリS出走予定】
1.フィーン・クラタ(乗機 SSB−07 隼)
2.カナメ・ホウジョウ(乗機 SSB−05 刀)
3.トシキ・ホウジョウ(乗機 SRB−13Custom レイブン改)
4.コウ・オオシタ(乗機 98式戦闘攻撃箒)
5.ソラ・アサヒナ(乗機 97式戦闘偵察箒改)
6.ヴァルター・G(乗機 AF−9k ミスティルティン)
7.アレックス・ブラウン(乗機 FB−A7 ストームライダー)
私はそれを確認しているタカギを物陰から確認し、次の動きを待つ。
あれからソラとは何度かあっているが、新しい情報は無い。
一方、タカギの方はその後はソラと会っていないようだ。
レースは明日の午後。
ソラは調整で忙しい。ガレージに行っても出てきてくれないので、今日はタカギの行動監視に戻るより他なかった。
「…とはいっても地味よね、お年寄りの後ついてったってそうそう動きがある訳が…」
?
タカギが足を止めた。
レース場のスタンドからタカギに笑顔を向けたまま、階段を降りてくる男がいる。
背が高く、優男然としていて、笑顔も涼しげだ。
でも、何かおかしい。
妙な違和感。
タカギもおそらくそれを感じて足を止めてしまったのだろう。
「Dr.タカギですね? 高名なあのZEROの開発者にお会いできるなんて感激です」
声もキレイなバリトンだった。
でも変だ。
そうだ……だってこの人、階段を下りてきてるのに頭の位置が上下してない!
「魔術師か…」
タカギ老人が呟く。
魔術師。真理を司るもの。世界の在り方を知るもの。
いろんな言い方があるけど、私はそんなことよりももっと違うものを感じた。
怖い。
男の足は地面についていなかった。空中を、当然といった顔で歩いてくる。
「申し遅れました。私、ジョゼフ・ルーサと申します。以後、お見知りおきを」
男は高級そうなスーツの腰を折り、優雅に一礼してみせる。
「私に何の用かね? サインが欲しいという訳でもなさそうだが」
「いえいえ、サインがいただきたいのです。私たちに協力いただくという契約書にね」
男は笑顔を崩さない。
しかし、タカギは男の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「私は軍用機の開発には二度と関わらんよ。君もお国へ帰ってその能力を他に使ったほうが良い」
タカギの背筋がピンと伸びる。何日か前に私にレースの出走予定を聞いてきた時とはまるで違う。全身に威厳のようなものさえ漂っている。ジョゼフ・ルーサと名乗った男の不気味さを正面から弾き返すほどに見えた。
「困りましたね。我々も遊びでやっている訳ではないのです。品の無い国から海を越えてきた筋肉ダルマの陰も見かけますし、あまり手間をかけないでいただきたい」
「海を越えて……アポロ連邦からも来ておる訳か。ご苦労なことだ。さしずめ君はフレイヤ共和国あたりから来たのかね?」
「ご想像にお任せします」
男は笑ったままだ。
アポロ連邦にフレイヤ共和国、大戦の戦勝国から敗戦国であるジュノーのこんな田舎街に、タカギ一人を目当てに人が集まって来ているっていうの?
と、突然、ルーサの視線がこちらを向いた。
「そちらのお嬢さんはどちらからおいでですか? イシュタル連合王国ですか? それともヴィーザル帝国ですか? いずれにしてもお粗末な尾行だ」
気付かれた!
タカギはこちらを見ようともしない。
どうしよう。
「ドクターには私と一緒に来ていただきましょう。お嬢さんとは会ったばかりで恐縮ですが、ここでさようならです」
ル−サの顔にいやな表情が浮かぶ。
まるで大型の爬虫類が獲物を捕食するときのような温度の無い無表情…。
「誰が君と一緒に行くといったかね?」
タカギがいやな空気を吹き払うような悠然とした声を出した。
「?」
ルーサが小首を傾げる。
「私はどこにもいかんよ。そちらのお嬢さんにはこれから私のお茶のお相手をお願いするつもりでね。君も野暮なことを言わずにはずしてくれんか」
「………」
もしかしてタカギ老人に尾行を気付かれてたの? 私ってどれだけドジなの…。
「…ドクター」
「…野暮なようですが、私もそのお茶の席にご一緒させていただけますか?」
「!」
その場にいる全員が一瞬息を呑んだ。
ルーサの背後に全く唐突に一人の男性が現れたのだ。
「どちら様でしょうか?」
ルーサは背後を振り返らずに聴く。
男の右手は左腰に軽くかけられていた。
そこには剣の柄が見える。
「ヴァルターという。『ハインラインの騎士』と呼ぶ者もいるがね」