第十七話
ダンジョンは、町を南下した砂漠地帯にあるという。
オアシスでひと休みすると、レイチェルさんが言った。
「たのしみたのしみたのしみ!!」
シオは昨日ほとんど寝ていなかったのに、元気だ。
「シオちゃん、一緒の後衛よろしくね。あたしアマンダ」
弓兵のお姉さんは、アマンダさん、と。
私ははっきり言って、人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。
一方、シオはそんなこと一回も言ったことない。意外と記憶力はいいのだ。
「ここでお食事にしますよね。食料出しますね」
そう言って、私はシルクハットから、パンやら干し肉やらを出した。
後から気づいたこのシルクハットの使い方である。
そんなに大きなものでなければ、無限に入る。
「いや~、ヨアンさん。本当に助かります」
「いえいえ。私は戦力外なので、少しでもお役に立ちたいのです」
すべては話さないけど、能力については少しだけ話した。
シルクハットに物がしまえること、帽子が出せること。その帽子も、気配を消すことができる帽子や、火の耐性のある帽子が出せることなど。
…というわけで、私は戦力外なのである。
そして、シオのほうは、
「魔法撃つ練習しまーす!」
と言って、頭上からつららを生み出したり、絶賛練習中だった。
「的に向かって撃つのって、難しい…」
木に向かって撃とうとしたけど、大きく外す。
「娘も戦力になるかわかりませんが…」
私はレイチェルさんに頭を下げる。
「いいんですよぉ。最初ですもの。これから何度かお世話になりたいですし…」
と言って、私の顔色をうかがっていた。
だめと言いたいけど…シオが聞かないからなぁ…
そして、ここまでまったく会話をしていないのが、寡黙な盾使いのリックさんだ。
巨大な細長い盾を持ち、腰にはショートソードを下げている。
見た感じ、一番年長そう。
四人+戦力外二人の危なげなパーティーです。
ダンジョンってどんな感じなんだろう。
そんなことを考えながらレイチェルさんを見ると、
「ご説明が遅れましたが、これから行くダンジョンは、地下三階まで発見されている洞窟です。我々は今回、そのダンジョンのまだ未開の地下三階の探索、できれば未到達の階層まで行きたいと思っています。
敵はそんなに強くはありませんので、ご安心を」
未到達なところに行くのに、そう言い切れるのかな?と、私は不安だった。
そして、ダンジョンを目指すこと半日。
目前のオアシスに一泊することになった。
「キャンプ!キャンプ!」
シオはもう大喜びである。
「シオ、今日はしっかり寝なさい。昨日ほとんど寝てないでしょ」
「うー。寝たくないー!もっと魔法の練習するー!」
と言って、走り回ろうとするシオを両手で押さえつつ、
「じゃあ、おやすみなさい」
みなさんに挨拶して、テントに入った。
「ねーねー。ママっていつから魔法使えてたの?全然知らなかった」
「…そうねぇ…、シオの生まれる前からは使えてたよ」
どうやって、魔法が使えるようになったかは、さすがにシオには言えなかった。
「そうなんだー!世を忍んでたんだね!」
「どこで覚えてきたの、その言葉」
シオは時々、こうやって変な言葉を覚えてくる。
子どもって、ほんとおもしろいわぁ…
そんなことを考えていると、いつの間にか眠りについていた。
次の日
「ママ、起きれる?」
朝はたいていシオのが早い。
朝が苦手なのは相変わらずなのだ。
「起きれるー」
私は一息に起き上がって、背伸びした。
テントから出ると、見張り係だったリックさんがこちらに向かって手を挙げた。
ぐっすり眠ってすみません!
私は深々と頭を下げ、そちらに行った。
「あの…ありがとうございました」
「これくらい、いつものことだ」
そう言って、彼は立ち上がった。
「あら、ヨアンさん。おはようございます」
「レイチェルさん、おはようございます。みなさんもう起きてますね、すみません」
いえいえ、とレイチェルさんはにこやかに手を振った。
「ごはん、食べましょう!」
そうして朝ごはんタイムになった。
…なんかこういうのも、新鮮だなぁ。
シオとレイニーさんで毎日ご飯食べていたので、私も楽しい気持ちになった。
シオがひたすら話していることは変わらないけど、楽しいごはんタイムだった。
その後出発すると、すぐに巨大な洞窟が見えてきた。
まがまがしい紫色をしている。まるでそれ自体が生き物みたいだ。
「ダンジョンというのは、魔物の住処なのですが」
私はレイチェルさんに疑問に思ったことを聞いてみた。
「そうですね、様々な魔物が住み着いた巣穴ですね。様々な魔物の糞や骨が固まってできた鉱物が高値で取引されています
…私たちの一番の目的は、地下三階に地形とどんな魔物がいるか見ることです。戦闘も最小限で行きましょう」
「おー!」
とシオが元気満々でこぶしを突き上げた。
(大丈夫かしら…)
一抹の不安はあったが、私自身も初めてのダンジョンでワクワクしている気持ちもあった。
こうして、ダンジョンに踏み込んで数分、すでに巨大な亀のような魔物が三匹くらい歩いているのを発見した。
でか!
ウミガメの5倍くらいありそうな生き物。恐竜みたい。
岩陰に隠れてやり過ごしました。
「あいつらはそんなに好戦的な魔物ではない」
と、リックさんが言った。
なるほど、そういう性格の奴もいるのね。
「そうそう。気を付けるべきは、ラクソスっていう小型の二本足で歩く肉食トカゲなの」
アマンダさんが矢を背中に戻しながら言った。
…それこそ恐竜みたい。
「興奮すると眼が赤くなるのよ」
と、アマンダさんが目を指しながら言う。
「へー!そんな生き物がいるのね!」
シオは眼をキラキラさせながら言った。
「シオちゃん、次の角曲がったら、もしかしたら戦闘になるかもしれない」
レイチェルさんが、ロングソードを構えながら言った。
…長年の勘というやつなのかな。
私は気配を消す帽子をかぶり、シオにも同じものをかぶせた。
「この帽子変ー」
と嫌がっていたが。
角を曲がる直前、キエー!といういくつもの鳴き声を聞いた。
「ラクソスだ」
リックさんが、盾を持って私とシオの前に立った。
角も曲がると、そこには10匹以上いるであろう恐竜みたいな生き物が。
そいつらは、体は水色をしていて、大きさは大型犬より少し大きいくらい。
群れをなして襲い掛かってきた。
「ひぃぃぃぃー!」
私は、近くにあった大きめの石を構えた。
「ヨアンさんとシオは、俺の後ろにいてくれ」
リックさんはそう言って、盾を地面に置いて構えた。
前から襲い掛かってくる恐竜?に備えてショートソードを抜いた。
「シオの役目はありますかー!?」
シオは大きい声で聞くと、
「こいつらは大丈夫よ。動きが早くて当たらないだろうから!味方にあたるほうが危ないから」
「はーい!」
レイチェルさんが恐竜?を倒しながらこちらに向かって言った。
レイチェルさんの振り下ろす一太刀でラクソスは絶命していく。
アマンダさんも、盾の後ろから弓矢で応戦。
ダウニーさんはレイチェルさんと背中合わせで戦っている。
物の数分で、ラクソスは討伐できた。
「すごいすごい!いっぱいいたのに!」
シオはもう拍手喝采だった。
「ありがとう…でもなかなかの群れで骨が折れたわ」
レイチェルさんはそう言って肩をボキボキした。
「この先に、大きな広場がある。そこにもしかしたら、大きいのがいるかもしれないな」
ダウニーさんが地図を見ながら言う。
「大きいの?さっきのラクソスの親玉みたいのってこと?」
私が聞くと、レイチェルさんは頷いた。
「素早さも桁違いだから、リックのそばを離れないように」
と、釘を刺された。
そして、その先。少し開けたところに出た。
ダウニーさんの言う通り、何か動く気配がある。
暗くてよく見えないけど、先のほうで、赤い光が二つゆらゆらとしているのが見えた。
「「「くるぞ」」」
みんな一斉に臨戦態勢に入った。
キエーーーー!!
耳をつんざくようなおたげびを上げながら、ドッタドタ走ってくる。
大きさは先ほど戦ったラクソスの3倍くらいありそう。
赤い光は、ラクソスの眼だった。
ラクソスは爪で攻撃してくる。その攻撃を、レイチェルさんがロングソードで弾く。
アマンダさんが少し離れたところから矢を次々と繰り出す。
それを見て、ラクソスはアマンダさんをロックオン。
「シオちゃん、撃てたら撃ってくれる?」
「はーーい!」
ついに役目が来たとばかりに腕まくりするシオ。
つららを三つ作り出し、発射!
見事に三つ外すも、それを見たラクソスがこちらに向かってきた。
「動くなよ」
そう言ってリックさんが盾を構えて腰を落とす。
「俺も忘れちゃ困るぜ」
そう言って、リックさんの陰から出てきたダウニーさんが突撃してくるラクソスに向かって槍を突き出した。
ドーーーン
とすごい音がして、槍とラクソスが衝突した。ダウニーさんは衝突の直前に槍を放っていた。
その衝撃で、ラクソスは気絶しているようだった。槍が刺さっても、ラクソスは絶命していなかった。
それを見て、レイチェルさんがトドメを刺した。
「すごかったね!ママ!!」
「うん、すごい迫力だった…」
二人で感想を述べあっていると、
「シオちゃんありがとうね!」
とアマンダさんがお礼を言ってくれた。
「私外しちゃったけど…」
「十分十分!注意をそっちに向けてくれただけで!」
こちらは生きた心地せんかったけどな…。
そんな話をしていると、親玉ラクソスの爪だけ刈り取っていた。
「これが、工芸品の材料として売れるのよ」
「あ、その大きさならシルクハットに入りますね」
あんまり入れたくないけど!
私も何か役に立ちたいし。
こうして、そんなに大きくない素材は私のシルクハットに入れることにした。
再び洞窟を歩み始めた。
どれくらい歩いただろうか。
親玉ラクソスのいた広場から、しばらく歩くと、下の階に行けるロープのはしごがあった。
「え?これで?降りるんですか??」
暗いのもあって下がまるで見えない。
私は高所恐怖症だ。
「ヨアンさんは真ん中で行きましょう」
とダウニーさんが言ってくれたが、怖いもんは怖い。
「シオは大丈夫!高いところ好き」
…本当に、誰に似たのかしら。
シオは相変わらず元気だ。ずっと楽し気である。
レイチェルさん、ダウニーさん、私、アマンダさん、シオ、リックさんの順で降りることになった。
はしごの頼りないこと。
ゆらゆらして、足がうまく入らない。
「うーーー…辛い…」
「頑張ってください!」
ダウニーさんが私の足を押さえながら降りてくれた。
なんとか生きて二階に降りてこられた。
…これがもう一回あると思うとつらい。
こうして地下二階にやってきたわけだが。
降りて早々、成人男性くらいあるアリの魔物の大群が歩いていた。
物陰に隠れてやり過ごす。
「あいつらは、女王アリの餌にするために、侵入者を襲う非常に好戦的なやつらだ」
とダウニーさんが言う。
一番怖いんですけど…女王アリの餌って。
「しかも、やっかいなことに、次々仲間を呼ぶから、できればみつかりたくないのよね」
アマンダさんもアリの様子を見ながら言った。
でも、これじゃあなかなか動けない。
「一番身軽なあたしが囮になるよ」
「いや、アマンダは近距離攻撃は向かないから、私が囮になる」
アマンダさんの提案に、レイチェルさんが答えた。
「でも隊長がいないと…」
「大丈夫よ、ダウニーに任せる」
「おうよ、任せとけ」
少し不安げなアマンダさんに、ダウニーさんは力こぶを見せて言う。
「不安だわ…」
「ひどい!」
女性陣のが強そうだわ。
こうして、レイチェルさんは囮となるべく、アリたちの前に躍り出た。
やつらは、キシキシと関節音みたいを立てて、レイチェルさんを追いかけだした。
「今のうちに行きましょう!」
アマンダさんの一声で、私たちは駆け出した。
キシキシ音が後ろから聞こえてくる。
「そこを右!つぎを左!」
ダウニーさんが先頭を走り、アマンダさんが地図を読む。我々親子を真ん中に、一番後ろにリックさんがいる。
こうして、アリたちを巻いて、地下三階に降りる階段までたどり着いた。
しかし、待てども待てどもレイチェルさんがやって来ない。
「あんな雑魚にやられる大将じゃないけど…」
とダウニーさんもさすがに心配そうにしてる。
「見に行ってみよう。レイチェルさんが女王アリに捕まったら大変だよ!」
と、シオが言うと、
「だいじょーぶよぉ…」
というレイチェルさんの声がさきほど曲がってきた角からした。
「ごめん、ちょっと、へましちゃって…」
レイチェルさんが足を引きずりながら現れた。
「え?隊長!怪我したの?」
アマンダさんが一番に駆け寄って聞く。
「そうなの。ちょっと女王アリの巣に入り込んじゃって、女王アリと戦ってきたのよ…その時にちょっと怪我しちゃって」
「ポーションあるけど、結構ひどい怪我だな…」
私がシルクハットから出して、ポーションをかけてみるが、あまり効いていないみたいだった。ひどい裂傷だった
「上級ポーション買ってくるんだったな」
と、リックさんもレイチェルさんの怪我を見ながら言う。
「シオ、回復ちょっとできるよ!でも、こんなに治せるかわからないけど」
と、シオが言った。
「え?シオちゃん、回復魔法もできるの?」
とメンバー一同驚いていた。
「うん。なおしてみるね」
シオがレイチェルさんの負傷した足に向かって、両手をかざす。
まもなく緑色の光が患部にあたり、血が止まった。
その後、結構長い時間そうしていた。
「レイチェルさん、どう?」
「いやー、すごいねシオちゃん!もう全然痛くないよ、ありがとう」
と、レイチェルさんがつま先で地面をトントンして言った。
「ほんとう?やったー成功だ!」
私としては、あまりシオの力をバレたくなかったけど…仕方がない。
一方シオは大喜びである。
普段、かすり傷くらいしか治したことがなかったからだ。
「こんなに治せると思わなかった!」
と言って、誇らしげな顔をしていた。




