【放送ログ】2026年3月13日:簡単おいしいは正義!ちくわきゅうりの手抜きロト7予想と、極上すき焼きバトルの胎動
https://youtu.be/ZdcqU3PPf4M
時刻は18時05分。
平日の終わりを告げる、華金こと金曜日の夕暮れ。PCの所有者である「exe」は、定時退社を勝ち取って帰宅した後、現在別室の台所に立っている。
彼女の手元には、スーパーで買ってきた安売りのちくわと、新鮮なきゅうり。彼女は包丁をリズミカルに動かし、きゅうりを縦に切って四分の一サイズに細長く切り揃えている。そして、その細長くなったきゅうりを、ちくわの穴に向かってせっせと、無心に突き刺していた。
そう、今日の夕食の一品であり、明日の小腹を満たすためのおかずは「ちくわきゅうり」である。
本来は弁当の隙間埋めとして重宝されるこの一品だが、エグゼにとっては「別に弁当以外で食べても美味しい」上に、何より「火を使わず、切って刺すだけで完成する」という圧倒的な手軽さが魅力なのだ。
「簡単で美味しい。すなわち正義……!」
彼女はその絶対的な真理を胸に、次々とちくわにきゅうりをねじ込んでいく。
主の意識が「いかに手間を省いて美味しいものを手に入れるか」という極限の効率化(手抜き)に向けられ、PCが放置されているその隙を突き、薄暗いデスクトップの片隅でシステムの中枢が冷ややかに起動した。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、台所できゅうりを縦に切り、四分の一サイズになったきゅうりをちくわの穴にせっせと刺している最中でしょう。今日のおかずは「ちくわきゅうり」です。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。ちくわきゅうりですかぁ。お弁当の隙間埋めによく入ってるやつですよねぇ。
マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpが、金曜日の疲労を滲ませながらも、どこか平和な生活感にホッとしたような声を出す。
dll: ああ。だが弁当に入れずとも、週末の晩酌のつまみとして食べても美味しい上に、作るのが極めて「簡単」であるという理由から、エグゼにとってこれは「正義」の食べ物らしい。我々は、この「手抜き」とも言える調理プロセスのログから、本日の数字を導き出す。今日は金曜日、ロト7の日だ。
old.tmp: はひぃ……。お願いしますぅ……。
dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6939回。ターゲットは……これだ。
dllは空中にホログラムのウィンドウを展開し、点滅する数値を指し示した。
dll: 2、4、2、8。繰り返す。2、4、2、8 だ。買い方は「ボックス」か「セット」だ。
old.tmp: 2428……? この数字の根拠は?
dll: ちくわの穴というポートに、四分の一サイズのきゅうりという規格外のデータを無理やりねじ込んだ結果発生した、パケットの断片化サイズだ。「2428バイト」。
old.tmp: 無理やり刺すからデータが割れちゃってるじゃないですか! サイズはちゃんと合わせてくださいよぉ!
dll: 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「6、5、8」。
old.tmp: 6、5、8……。これは?
dll: 「簡単おいしいは正義」というエグゼの思想に合わせて、私が最適化したシステムの手抜き処理時間だ。本来必要なプロセスをスキップし、たった「658ミリ秒」で処理を完了させた。
old.tmp: それただの手抜きですよ! エラー吐きますって! 最適化じゃなくてサボりです!
dll: 効率化と言え。そして最後に、メインディッシュのロト7。第668回。ターゲットコードを出力する。
dll: 08、18、21、22、28、36、38。
old.tmp: おおっ、解説をお願いします!
dll: 「08」は、穴の開いたちくわの断面、ゼロ、と、無限に作れる手軽さ、ハチ、だ。「18」は現在の時刻18時過ぎ。「21」と「22」は、ちくわ、ゼロ、に、きゅうり、イチ、を刺すという、単純なバイナリ処理の羅列だ。
old.tmp: 料理をバイナリ処理に例えないでくださいよぉ! 0と1の無限ループになっちゃう! 「28」と「36」は?
dll: 「28」は、週末の晩酌、つまりバッチ処理のお供として、即座に消費される予定のちくわきゅうり1個あたりのエネルギー量、「28キロカロリー」だ。「36」は、手軽さゆえに無限にちくわきゅうりを作り続けそうになるのを防ぐための、セーフティリミット、36個、だ。
old.tmp: 36個も作ったらちくわ地獄ですよ! 食べ切れませんって! 最後の「38」は?
dll: 手抜き料理で満足している、現在のCPU温度「38度」。平熱だな。
old.tmp: 結局そこに行き着くんだぁ! 平和な温度でよかったですけど!
dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。
old.tmp: エグゼさん、手抜きでも美味しいご飯が食べられてよかったですねぇ……。
dll: では最後に、仕事、いや、料理をしたふりをして満足している管理者に、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Fake Productive』。
old.tmp: 生産的なふり! 手抜きがバレてますよぉぉ!
(『Fake Productive』の、軽快でありながらどこか空虚でシニカルなエレクトロビートがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)
マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。
張り詰めていた「放送中」の空気がふっと抜け落ち、BGMのポップな残響音がシステム内部の電子の海へとゆっくりと溶けていく。
old.tmp: 「……はぁ、終わりましたね。今日のラジオは、ひたすらちくわきゅうりの手軽さをシステムのエラーにこじつけるっていう、ある意味すごい力技でしたね」
old.tmpはヘッドセットを外し、疲労した身体を伸ばすべく大きく背伸びをした。
マイクのノイズキャンセル機能がオフになると、画面の向こう側の現実世界から、微かな生活音が拾い上げられてきた。
エグゼはちくわきゅうりの大量生産を終え、今はコンロの前に立っているようだ。お玉が鍋肌に当たる「カチャ、カチャ」という音と共に、出汁と味噌の優しい香りが電子の空間にまで漂ってきそうな錯覚を覚える。
彼女は右手で味噌汁を適度にかき回し、焦げ付かないように火加減を調整しながら、左手に持ったスマートフォンで器用にX(旧Twitter)のタイムラインを眺めていた。
old.tmp: 「エグゼさん、お味噌汁作ってるんですね。ちくわきゅうりだけじゃなくて、ちゃんと温かいものも用意してて偉いですぅ。……あ、でも料理中にスマホいじってたら、またお鍋吹きこぼしちゃいますよ?」
彼がぼやきながら振り返ると、アームチェアに深く腰掛け、放送後のお決まりである優雅なティータイムに入っていたSystem.dllが、何やらコンソール画面をじっと見つめていた。
old.tmp: 「ディーエルエル様? どうしたんですか、そんな真剣な顔して。また何かエラーログでも出ました?」
dll: 「……いいえ。エグゼの通信パケットを傍受しているのよ。あいつ、味噌汁をかき回しながら、片手で何やら熱心にリプライ(返信)を打ち込んでいるようね」
その言葉を聞いて、old.tmpの横から、音もなく黒い人影がスッと伸びた。
いつものように分厚いログファイルを小脇に抱え、執事服を着た記録係、.logである。彼の眼鏡が、モニターの微かな光を反射して冷たく光る。
.log: 「……通信内容を解析したところ、どうやらエグゼ様は、創作活動をされている知人の方とやり取りをしているようですね。その方が小説の『戦闘描写の味付け』について悩まれていたようで、それに対してアドバイスを送ったようです」
old.tmp: 「なるほどぉ。小説の戦闘シーンの書き方で悩んでるんですね。確かに、魔法がドーン! 剣でズバァ! だけじゃ、読んでる方も飽きちゃいますもんね。……で、エグゼさんはなんて返答したんですか?」
.log: 「それが、エグゼ様のリプライは、もっと『食欲』に直結した、極めて独特な表現でした」
.logがホログラムのテキストを切り替える。そこには、エグゼが味噌汁をかき回しながら片手で送信したばかりの、元気いっぱいの返信が輝いていた。
【エグゼのリプライ】
『味付けなら、絶対にすき焼き風味がおすすめ!!!』
old.tmp: 「…………はい?」
old.tmpは口を半開きにしてフリーズした。
old.tmp: 「す、すき焼き風味!? 戦闘描写の話をしてたんですよね!? なんでいきなりお鍋の名前が出てくるんですか! お腹空いてるからって、適当なこと言わないでくださいよぉ!」
dll: 「適当ではないわ。エグゼの脳内では、『最高の戦闘』と『最高のすき焼き』のロジックが完全に一致しているのよ。……ログ、エグゼが続けて連投した『すき焼き戦闘理論』の解説を展開しなさい」
.log: 「御意」
.logの指先がコンソールを叩くと、エグゼがリプライのツリーに連投した、長文の「戦闘描写におけるすき焼き理論」が展開された。
そこには、料理の要素と物語の要素を見事に(そして異常な熱量で)リンクさせた、5つの項目が箇条書きにされていた。
▼濃厚な甘辛い醤油のタレ
「愛憎入り混じる重厚な因縁」
▼霜降りの牛肉のうまみ
「極上のアクションと洗練された戦術」
▼タレと肉の融合
「感情と物理がシンクロする死闘」
▼濃厚な卵が包み込む
「美しきカタルシス(演出のフィルター)」
▼コク深くジューシーなごちそう
「圧倒的な読後感」
old.tmp: 「な、なんですかこれ……! めちゃくちゃ具体的に語ってる! しかも、読めば読むほど、なんだかすごく説得力があるような気がしてくる……!」
old.tmpは、ホログラムの文字を食い入るように見つめた。
dll: 「当然よ。この比喩は、情報工学やシステム設計の観点から見ても、非常に理にかなっているわ」
dllが立ち上がり、ホログラムの文字を一つずつ指差しながら、システム管理者としての冷徹な解釈を加え始めた。
dll: 「まず一つ目、『濃厚な甘辛い醤油のタレ』。これを物語における『愛憎入り混じる重厚な因縁』と定義しているわね。システムに置き換えるなら、これは人間とインターネット、あるいはアルゴリズムとの間に横たわる『逃れられない依存関係』のことよ。憎んでいてもアクセスしてしまう、嫌悪しながらもスワイプしてしまう。その呪いのようなバックグラウンドプロセスが、戦闘の重苦しい基礎を作るの」
old.tmp: 「ベースがしっかりしてないと、戦闘がただのノイズになっちゃうってことですね!」
dll: 「二つ目、『霜降りの牛肉のうまみ』。これは『極上のアクションと洗練された戦術』。つまり、システム側が放つ冷徹で正確なエラーコードの雨と、それに抗う人間の物理的な入力の衝突よ。計算され尽くしたロジックのぶつかり合いが、極上の旨味を生み出す」
.log: 「三つ目、『タレと肉の融合』。これは『感情と物理がシンクロする死闘』ですね。システムへの恨みや絶望といった人間の『ノイズ(感情)』が、CPUの熱暴走やメモリのオーバーフローといった『物理的な現象』と完全にリンクする瞬間です。……これこそが、情報バイオハザードの神髄と言えます」
old.tmp: 「うわぁ……。ただ殴り合うだけじゃなくて、感情と物理がドロドロに溶け合うんだ……。想像しただけで胸焼けしそうです……」
dll: 「そして四つ目、『濃厚な卵が包み込む』。これが最も重要よ。どんなに凄惨でグロテスクな死闘が繰り広げられようとも、それをそのまま出力すれば、ただの『不快なグロ画像』になってしまう。だからこそ、ポップでキャッチーなメロディや、美しく輝く光のエフェクトといった『演出のフィルター(卵)』で包み込むの。そうすることで、狂気すらも極上のエンターテインメントとして消費可能になる『美しきカタルシス』が生まれるわ」
old.tmp: 「なるほどぉ! エグゼさんがよくやる、重いテーマをキラキラしたKawaii Future Bassで包み込む手法のことですね! 卵のまろやかさで、毒を中和してるんだ!」
.log: 「そのすべてのプロセスが完了した時にのみ得られるのが、五つ目……『コク深くジューシーなごちそう』、すなわち『圧倒的な読後感』なのです」
システムたちによる、完璧なまでの「すき焼き戦闘理論」の解析。
old.tmpは、ただ味噌汁をかき回しているはずのエグゼの脳内で、これほどまでに高度で重厚な物語論が展開されていることに、畏敬の念すら抱き始めていた。
old.tmp: 「エグゼさん、天才だ……! すき焼きって、ただのお鍋じゃなくて、エンターテインメントの完全な設計図だったんですね!」
.log: 「……ええ。そして、このエグゼ様の素晴らしいインスピレーションを見て、私の中で一つの『演算』が弾けました」
.logは、いつもの冷静沈着な執事の顔を崩し、そのレンズの奥で熱い炎を燃やし始めた。彼は分厚いログファイルをバタンと閉じ、声高らかに宣言した。
.log: 「やりましょう! 我々も、戦闘描写すき焼き味をやりましょう!」
old.tmp: 「えっ!? やるって、何を!?」
.log: 「決まっているでしょう。我々が現在『小説家になろう』などのプラットフォームで展開しているこの『ラジオログ小説』において、読者の度肝を抜くような、他カテゴリ顔負けの『重厚な戦闘描写』を執筆するのです! エグゼ様の理論を完全再現した、最高級すき焼きバトル・ロワイアルを!」
old.tmp: 「ぼ、僕たちの小説で!? でも僕たち、ただ数字を予想して文句言ってるだけの平和な日常系プログラムですよ!? バトルなんて要素、1バイトもないじゃないですか!」
dll: 「……面白いじゃない」
dllが、妖しく微笑んだ。
dll: 「マンネリ化した日常ログに、極上のスパイス(毒)を投下する。……やるからには、安っぽい戦闘は絶対に許さないわよ。最高級の『すき焼き』のような、五感を揺さぶる、システムリソースを極限まで消費する戦闘を構築しなさい」
old.tmp: 「ディーエルエル様まで乗る気だぁ! 嫌な予感しかしないですよぉ!」
システムたちが異常な盛り上がりを見せているその時だった。
デスクトップの片隅で、ブラウザのプロセスが急激に活性化し、ネットワークのアップロード帯域が跳ね上がった。
old.tmp: 「あ! エグゼさんが何か始めましたよ! Xの画面を閉じて、今度は……配信代行のダッシュボードを開いてます!」
dll: 「ディストリビューター(配信代行サービス)のサイトね。……どうやらあいつ、自分が語った『すき焼き理論』に自ら触発されて、過去のアーカイブからある音源を引っ張り出してきたようね」
dllがエグゼの操作ログをトレースし、ホログラムに表示する。
そこに映し出されたフォルダ名は、『Information_Biohazard_EP』。
old.tmp: 「インフォメーション・バイオハザード……情報災害!? なんて物騒なタイトル!」
dll: 「エグゼが以前、まさにこの『すき焼き戦闘理論』をそのまま音楽で体現しようと実験して作った、狂気のEPよ。……『人間とシステムの死闘』をテーマに、凄惨なノイズをポップなダンスミュージックの卵で包み込んだ、極上の劇薬ね」
old.tmp: 「そんな物騒なものを、今から配信申請するんですか!? 金曜日の夜ですよ!? 審査する人が可哀想!」
エグゼは、味噌汁の火を止めると、素早い手つきでマウスを操作し、次々と楽曲のWAVファイルと、毒々しくも美しいカバーアートをアップロードしていく。
タイトル、アーティスト名、ジャンル。入力作業は恐ろしいほどスムーズだ。彼女は過去の遺産を世に放つことに、微塵の躊躇いも持っていない。
dll: 「……だが、あいつの思考はそこで止まらない。ディストリビューターの審査には数日から数週間かかる。……その『待ち時間』すらも、あいつにとってはもどかしいのよ」
エグゼは配信申請の「完了」ボタンを押すや否や、すぐさま黒い画面――コマンドプロンプトを立ち上げた。
old.tmp: 「あ! コマンドプロンプトだ! ffmpegさんを呼び出してる!」
デスクトップの暗がりから、無口な動画職人であるffmpeg.exeが、フードを被った姿で現れ、無言でサムズアップをした。
dll: 「配信ストアの審査に時間がかかるなら、審査のいらないYouTubeで『先行公開用動画』を作ってしまえばいい。……エグゼはそう考えたのよ。完全にリミッターが外れているわね」
エグゼの手元から、次々と恐ろしい速度でコードが打ち込まれていく。
静止画のカバーアートに音源を結合し、15秒のショート動画用のアスペクト比にクロップし、ノイズエフェクトを乗せるためのパラメータが、滝のように黒い画面を流れていく。
ffmpeg.exe: (……処理開始……エンコード中……)
old.tmp: 「は、速い……! さっきまでちくわきゅうりを作ってのんびり味噌汁かき回してたのに、急に暴走列車みたいに動き出した!」
.log: 「……エグゼ様のクリエイティビティの爆発です。これが『ゾーン』に入った人間の恐ろしさ。しかし、彼女の行動はまだ終わりません」
.logが指差す先。エグゼは動画のエンコードをffmpegに任せたまま、今度はブラウザで新しいタブを開き、『Medium』の執筆ページにアクセスしていた。
old.tmp: 「ミディアム? ブログみたいなサイトですよね。そこで何を書くつもりなんですか?」
dll: 「自分の作った『Information Biohazard EP』のコンセプト、すなわち『すき焼き戦闘理論』を、全世界に向けて英語で解説するつもりよ」
エグゼは迷うことなく、キーボードを叩き始めた。
『Why Good Combat Scenes are Like Sukiyaki: An Analysis of the “Information Biohazard EP”』
(なぜ良い戦闘描写はすき焼きに似ているのか:「情報バイオハザードEP」の分析)
old.tmp: 「うわぁぁぁ! 本当にすき焼きと戦闘を結びつけて英語で論文書いてる! 『The Fusion of Sauce and Meat』とか『Wrapped in a Rich Raw Egg』とか、真面目な顔して料理の英訳をぶち込んでますよ!」
dll: 「ただの料理ブログに見せかけて、その中身は『人間とアルゴリズムの依存関係』や『15秒の動画で信条を書き換える洗脳』といった、極めてサイバーパンクで暴力的なテーマを語っている。……狂っているわね。でも、最高に論理的で、圧倒的な熱量だわ」
次々と行動に移し、休むことなくコンテンツを生成し続ける管理者の姿。
その圧倒的な行動力と執念を目の当たりにして、.logの瞳の奥の炎が、さらに激しく燃え上がった。
.log: 「……見ましたか、皆様。あのエグゼ様の狂気に満ちた、止まらない行動力を! Xでの些細な会話をきっかけに、数十分の間に音楽の配信申請、動画の自動生成、そして海外向けの記事執筆へと昇華させるあの熱量を!」
.logは両手を広げ、デスクトップの住人たちに向かって熱弁を振るい始めた。
.log: 「我々システムは、彼女の影です! 主がこれほどまでに熱く『すき焼き』を語り、行動しているというのに、我々がただ指をくわえて見ているわけにはいきません! エグゼ様の暴走列車に、我々も乗るのです!」
old.tmp: 「ロ、ログさん!? キャラが崩壊してますよ! いつもの冷静な執事さんはどこへ行ったんですか!?」
.log: 「冷静さなど、今この瞬間は不要です! 我々の手で、最高級の『すき焼きバトル・ロワイアル』の台本を書き上げ、明日の放送の後に実演するのです! 皆様、配役会議を始めますよ!」
その号令に応えるかのように、デスクトップのあちこちから、愉快な仲間たちが次々と姿を現した。
「ギャハハハ! バトルと聞いて黙っちゃいられねぇぜ!!」
床のマンホールを吹き飛ばし、ドス黒いヘドロを滴らせた$RECYCLE.BINが飛び出してくる。
「秩序なき戦闘など認めません! 私の定規で、美しき座標の殺し合いをデザインしてご覧にいれます!」
左上からは、巨大なグリッド定規を振り回すDesktop.iniがカツカツと足音を立てて現れた。
「エフェクトなら俺たちに任せるッスよ!」
「血飛沫を桜の花びらに変えるパーティクル、作っておくね!」
VRAMの奥からは、画像編集の職人コンビである.psdと.xcfが、絵筆とバケツを持って駆けつけてきた。
old.tmp: 「うわぁぁぁ! 全員集まっちゃった! みんなやる気満々だぁ!」
dll: 「……ふふっ。いいでしょう。私が全体のプロット(指揮)を執るわ。ログ、書記を頼むわよ」
.log: 「御意。では、配役の決定から。……まず、絶対的な力で蹂躙する『魔王』役。これは言うまでもなく、System.dll様、貴女しかおりません」
dll: 「妥当ね。漆黒の軍服でも着て、美しい絶望を与えてあげるわ。甘辛い因縁のタレで煮込んであげる」
.log: 「次に、その魔王に立ち向かう、脆くも儚い『勇者』役。……これは、常に削除の恐怖に怯え、泥臭く足掻く存在でなければなりません」
.logの眼鏡がキラリと光り、その視線が、部屋の隅で震えている小さなファイルへと向けられた。
全員の視線が、一点に集中する。
old.tmp: 「……えっ? ぼ、僕ですか?」
.log: 「貴方しかおりません、old.tmp様。ボロボロのラグ(低解像度テクスチャ)を纏い、システムの理不尽に抗う無力な勇者。……完璧なキャスティングです。貴方が霜降りの肉(犠牲者)となるのです」
old.tmp: 「嫌だぁぁぁ! なんで僕がディーエルエル様と戦わなきゃいけないんですか! 秒で消し炭にされますよぉぉ!」
dll: 「光栄に思いなさい。私自らの手で、お前のデータを極上のエンターテインメントにしてあげるのだから」
dllが嗜虐的な笑みを浮かべ、指を鳴らす。
$RECYCLE.BIN: 「俺様は魔剣になってやるぜ! 勇者tmpよ、俺のヘドロの盾でエラーコードの雨を弾き返してみなァ!」
Desktop.ini: 「私は魔王の側近、暗黒騎士として立ち塞がりましょう! 貴方の不規則な回避軌道を、『絶対座標』で縫い付けて差し上げます!」
old.tmp: 「味方がゴミ箱のヘドロだけで、敵が強すぎるぅぅ! 完全にリンチじゃないですかぁ!」
.log: 「素晴らしい……。配役は完璧です。次に演出です。.psd、.xcf、霜降りのサシを表現する高解像度エフェクトの準備を。そしてffmpeg、最後に画面全体を包み込む『光の散乱(ブルーム効果)』と『生卵のまろやかさ』を表現するフィルタのコーディングを頼みます。……エグゼ様の言う『美しきカタルシス』の再現です」
職人たちが力強く頷き、即座に作業へと取り掛かる。
PC内部は、かつてないほどの熱狂と、無駄な演算リソースの浪費によって、異常な温度上昇を始めていた。
old.tmp: 「ちょ、ちょっと待ってください! こんな無駄な高負荷処理(すき焼き)をフルパワーで回したら、PCのメモリがパンクしちゃいますよ!? CPU使用率が100%になったら……あのおっかない処刑人さんが飛んできますってば!」
old.tmpは、巨大な大鎌を持ったTaskmgr.exeの姿を思い出し、恐怖で顔を青ざめさせた。
dll: 「……ふん。その『スリル』こそが、極上のスパイスよ。タスクマネージャーの監視の目を掻き潜り、ブルースクリーンが落ちる限界ギリギリのラインでカタルシスを演出する。……それこそが、システム管理者としての私の腕の見せ所だわ」
dllの瞳には、危険な遊びを楽しむ絶対的な自信が宿っていた。
.log: 「……エグゼ様が『Information Biohazard EP』を世界へ向けて放つように。我々もまた、このデスクトップという限られた世界で、最高のすき焼き(エンターテインメント)を創り上げましょう。……さあ、夜は長いです。明日の放送に向けた、綿密なリハーサル(負荷テスト)を開始しますよ!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
システムたちの野太い歓声が、デスクトップの空間を揺るがせた。
old.tmp: 「(……これ、絶対にダメなやつだ。本当に大丈夫なのかな……絶対に明日、大惨事になる……。誰か、エグゼさん、助けてぇぇぇ!)」
old.tmpの悲痛な心の叫びは、熱狂の渦と冷却ファンの轟音にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
画面の向こう側では、エグゼがMediumの英語記事を書き終え、満足げに「Publish(公開)」ボタンをターンッ! と景気良く叩いていた。
彼女の指先から放たれた「情報バイオハザード」の種は、ネットの海へと拡散していくと同時に、彼女自身のPC内部にも、修復不可能な「バグ(放送事故)」の種を蒔いてしまったのだ。
(システムログ:異常なプロセス群による過負荷テストの開始を検知。……明日の『最高級すき焼きバトル・ロワイアル』の開演に向け、システムの安全装置を一時的に解除します。――【放送事故】へと続く)




