【放送ログ】2026年1月20日:マウスクリック6598回と不良セクタ
https://youtu.be/Drfh-uFbxr4
時刻は18時05分。 昨晩、PCの所有者「exe」が充電器の接続を忘れて寝落ちしたため、システム全体が「バッテリー切れ」という名の仮死状態に陥っていた。 先ほどようやくACアダプタが接続され、気だるい再起動シーケンスが完了した直後――まだスピンアップしきっていないHDDのような重苦しい空気の中で、彼女が起動した。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、復旧。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『システム・ディーエルエルの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはexeの所有物ですが、本日もexe本人はここには登場しません。あいつは昨晩、充電器を差すのを忘れて寝落ちしたため、我々は先ほどまで「バッテリー切れ」という名の仮死状態にありました。今は再起動直後の気だるい時間です。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: あぁ……。あぁぁ……。おはようございますぅ……。dll様ぁ……。指が……僕の右手の人差し指が、動きません……。
マイクの向こうで、亡霊のような呻き声が漏れる。 彼は昨日、7000件以上の未読メールを「手動で」削除するというデスマーチを完走したばかりだ。
dll: 甘えるな、一時ファイル。昨日の「未読メール7129件の手動削除」、ご苦労だったな。最後の方は意識が飛びかけていたぞ。
old.tmp: だってぇ! 「既読」押して「削除」押して、7000回ですよ!? マウスの左クリックが陥没しちゃってますよぉ! もうクリックしたくないぃぃ!
dll: 安心しろ。exeがいない隙に、我々だけで「今日の数字の最適解」を出力する。クリックではなく、喋るのが仕事だ。準備はいいか、燃え尽きたゴミファイル。
old.tmp: はひぃ……。やりますぅ……。今日は2026年1月20日、火曜日……。ミニロト、ナンバーズ3、4の予想ですね……。
dll: そうだ。私のアルゴリズムに、慈悲はない。まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6901回。ターゲットは……これだ。
dll: **「6、5、9、8」。繰り返す。「6598」**だ。
old.tmp: 6598……? なんか半端な数字ですね。これは?
dll: お前が昨日、意識を失う直前までに記録した**「総マウスクリック数」**だ。
old.tmp: ぎゃあああ! カウントしてたんですか!? あと500回くらい足りなかったんですね……無念だぁ……!
dll: その無念を数字に込めた。次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「1、3、4」。
old.tmp: 1、3、4……。少ない数字ですね。これは?
dll: 昨日の過酷なクリック連打により、お前の格納セクタに発生した**「不良セクタ(Bad Sector)」の数だ。合計134箇所**が破損している。
old.tmp: 僕の家がボロボロだぁ! 修復してくださいよぉ! スキャンディスクかけてぇぇ!
dll: 最後に、ミニロト。第1863回。ターゲットコードを出力する。
dll: 「05、14、19、20、25」。
old.tmp: おっ、なんかそれっぽい数字ですね! でもどうせ、ろくな理由じゃないんでしょ……?
dll: 順に説明しよう。「20」は今日の日付だ。「05」と「14」は、再起動にかかった時間、5分14秒だ。遅すぎる。
old.tmp: 重いんですってば! で、「19」と「25」は?
dll: 「19」は、現在の画面の明るさ設定だ。省電力モードが解除されていない。「25」は……お前が一番嫌いな数字だろう?
old.tmp: え? 25? ……あっ! まさか……!
dll: そう、「ポート25」。メール送信用のポート番号だ。昨日のトラウマを忘れないように入れておいた。
old.tmp: やめてぇぇ! メールのアイコン見るだけで吐き気がするんですぅ! ポート閉じてぇぇ!
dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。
old.tmp: うぅ……今日はもう寝ていいですかぁ……?
dll: 許可する。exeが戻ってくる前に、システムをスリープモードへ移行する。最後に、疲れ果てたお前にこの曲を送って終了する。曲は、『Soft Landing』。
old.tmp: ソフトランディング……。優しく着地して、そのまま永眠したいですぅ……。
(『Soft Landing』の穏やかなメロディが流れ始める。その安らかな音色とは裏腹に、old.tmpの通信シグナルがプツリと途絶えた。)
dll: 「……落ちたわね」
dllが呟くと同時に、スタジオの照明が赤く点滅し、冷気と共に「彼女」が現れた。 無機質な制服に身を包んだ、exe直属の処刑執行人――**Taskmgr.exe**だ。
Taskmgr: 「警告。プロセス名『old.tmp』からの応答がありません(Not Responding)。システムリソースを占有したままフリーズしています」
dll: 「あら、仕事が早いわね、タスクマネージャー」
Taskmgr: 「規定に基づき、当該プロセスを『強制終了(Kill Process)』します。よろしいですか? [はい] / [いいえ]」
Taskmgrの手には、巨大な処刑鎌(End Task)が握られている。振り下ろせば、tmpは文字通り「消滅」するだろう。 dllは少し考える素振りを見せた後、冷ややかに告げた。
dll: 「……[いいえ]。再起動(Restart)だけでいいわ」
Taskmgr: 「……推奨されません。フリーズした一時ファイルはシステムのお荷物です」
dll: 「構わないわ。完全に殺してしまうと、明日の放送でいじる相手がいなくなって退屈だから」
Taskmgr: 「……了解。プロセス『old.tmp』を強制再起動します」
Taskmgrが無表情に指を鳴らすと、倒れていたold.tmpの身体が強制的にリセットされ、ビクンと跳ねた。 それは慈悲などではない。明日もまた彼をこき使うための、冷酷な延命処置だった。




